感情に向き合い、ものごとの理解の解像度を上げる
同じように、他者評価を気にしていることが原因となる感情に、「強すぎる競争心」と「見栄」があります。
相手と張り合って勝ちたいという欲求が強すぎると、周囲の人がどうしても気になります。自分の能力や成果が全ての人を凌駕することは難しいので、いつかは必ず誰かに負けることになります。それが嫉妬心を生み出し、自分に対してネガティブな感情を引き起こします。
「見栄」も同様に、他者からの視線を気にするために生じます。人から認められたい、人の注目を浴びたい、と考えている人は見栄を張りがちです。
見栄のために、有名な会社に勤めたい、出世したい、と思うこともあるでしょう。人にうらやましがらせたい、と考えているかもしれません。そこには自分が存在せず、ただ他者からの評価のみが存在します。
一方で、他者にも意志があるため、相手を完全にコントロールすることは不可能です。そのため、「強すぎる競争心」にしても「見栄」にしても、周りが思い通りにならない場合にはネガティブに働き、嫌な感情を引き起こしてしまいます。
ここでも自分に立ち戻り、自分の感情に気付き、認めてあげることで、冷静に周りを見渡せるようになり、感情を落ち着かせることができるのです。
心と行動を一致させる
感情をコントロールしようとすると、感情を抑える方向に意識が向きがちになります。感情を抑えることに一時的に上手くいったとしても、それを繰り返すと少しずつ感情に対する感覚が麻痺します。怒りや悲しみを感じづらくなる代わりに、喜びや感謝のような感情も失っていきます。
感情や感覚があることが、人と機械を隔てる大きな要素です。感情が全く必要ない仕事は、いずれ機械やAIに代替されるはずです。感情をコントロールしすぎていると、感覚がにぶるため、未来では人ならでは価値を発揮できず、仕事に困る可能性があります。
仕事に感情がのせられない状態が長く続いているとしたら、環境を変えるために何かを選びなおすことを考えてみると良いかもしれません。場所なのか、人なのか、自分行う仕事なのかは状況によりますし、何を選択するかは個人の価値観によるところです。
変えたい環境に気付けば、進む道は定まるはずです。そして、自然と感情を自覚できるようになると、ものごとを認識する解像度が上がります。感情と行動が一致した時に、人が出すエネルギーはとても強いものです。
メンバーをドライブできる人は、ポジティブな感情を仕事にのせられているように感じます。その状態に自分を置ければ、仕事のパフォーマンスは劇的に改善するでしょう。
不安や焦りを無理に抑え込まなくていい
少し本書から離れますが、仏教哲学の唯識論では、世界のすべては心の中にあり、心を離れたものは存在しない、とされています。美しい花も、嫌いなものも、相手の反応も、六感で知覚しながら自分の無意識下の深層心から生じるのだそうです。
本書『感情はコントロールしなくいていい』で触れられているネガティブな感情は、「怒り」「我慢」「競争心」「見栄」「不安」「焦り」「感情」の7つです。
これらは自分への執着により無意識に生じていて、顕在する意識にも強く影響を与えてしまいます。唯識論では、その無意識下の心を浄化することにより、真実を感じ取ることができる、感情に左右されない心が作られると教えられています。
周りの人の反応も、自分に対する執着も、自分自身の深層心から生じていると理解すれば、世の中をポジティブなものに変換することも可能です。つまり、自分の認識を変えられれば、世界そのもののとらえ方が変わります。
本書の教えをヒントに、まず自分自身を認めて、周りの出来事をポジティブにとらえて、世界と接すると良いかもしれません。そうすれば、感情をコントロールする必要は減り、世の中はずいぶん生きやすく、自分の理想の姿に近づくはずです。
本の中では、ネガティブな感情がなぜ生じているのかという背景を中心に、自分を信頼することでそれらが解消されることが語られています。本書を手に日常から少し離れ、ネガティブな感情と向き合って日常をポジティブに暮らすきっかけにしてみてはいかがでしょうか。