いつも悪口や嘆いている人の本当の感情
嘆きの原因は、満たされない退行欲求であるが、もう一つある。
人の悪口や嘆きは、隠された怒りが脳の扁桃核に溜まっていることを表している。それは過去に表現されなかった、全然関係ない怒りの感情が、いま形を変えて表現されてきているのである。
たとえば交流分析などで、いくら「愚痴と後悔は敗者の専売特許」と言われても、隠された怒りが溜まっている人は愚痴と後悔をやめるわけにはいかない。
つまり愚痴と後悔は、その人にとっては強迫性である。やめようとしてもやめられない。愚痴と後悔をやめようとしてやめられないのは、その人にとって、愚痴と後悔が無意識の必要性だからである。
表面的に見て、頭では「やめたほうが良い」と分かってもやめられないことは、その人にとっては、それをすることが無意識の必要性なのである。
本人は意識の上でやめようとしていても、心の底のそのまた底では、それをしたい。それをすることがその人にとって必要なのである。そうしているからこそ気がおかしくならないで、何とか正気を保って生きていられる。
過去を取り返そうとして、取り返せなくて嘆いている人は、変化を受け入れられない。生きるエネルギーがない。とにかく嘆く以外に生きる方法がない。
その背後には隠された怒りがある。
「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と言っている時には「自分を乗り越えていない」。退行欲求に振り回されている。
自分の生きてきた道を否定している人は自分を乗り越えていない。満たされていない退行欲求にしがみついている。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。