1. PHPオンライン
  2. マネー
  3. あら川の桃、難波ネギ...無印良品があえて「伝統的農産物」に光を当てる理由

マネー

あら川の桃、難波ネギ...無印良品があえて「伝統的農産物」に光を当てる理由

長田英知(良品計画執行役員)

2022年11月22日 公開

 

顧客の声を徹底的に聞き、商品開発に反映する

「難波ねぎアヒージョ」を皮切りに、地域の伝統的な農産物を活用した商品開発は順調に進み、現在、関西エリアだけで35品もの商品開発を行っています。

これらの商品のうち、開発担当者の思い入れが特に強い商品の1つとして、「無印良品 イオンモール堺北花田店」で取り扱っている「堺をつなぐ古代米おかゆ」をご紹介したいと思います。

この商品で使われている古代米は、黒姫山古墳で作られている「さよむらさき」というもち米の品種となります。「さよむらさき」はアントシアニン、食物繊維を豊富に含んでおり、白米に1割ほど混ぜて炊くと、皮の層に含まれる色素によりお米全体がきれいなピンク色に染まります。

無印良品の「堺をつなぐ古代米おかゆ」は、この古代米を使って、シンプルに塩で味付けしたおかゆです。この商品を開発するにあたり担当者がこだわったのが、いかに手軽に食べていただける商品にするかという点。

例えば一般に売られているレトルトのおかゆは1パックの分量が200グラム以上のものがほとんどです。しかしこの分量だと女性や高齢者の方が1人で食べるのには多すぎると感じていることがわかりました。

また従来のレトルトパウチは温めたあとに器に移して食べる必要がありますが、これも面倒という意見が上がりました。さらに食欲が減退する夏には、冷製のおかゆが重宝されるという声も。

これらを考慮した結果、「堺をつなぐ古代米おかゆ」は、1個110グラムのものを2個セットで売ることになりました。つまり、一人で食べやすい分量に小分けした形での販売です。

加えて、器に移さなくてもそのまま食べられるパッケージを一から開発するとともに、レンジで温めても冷やした状態でも、さらには常温で食べても美味しいことにこだわりました。

賞味期限も1年と長いため、非常食として常備して重宝する商品となっています。こうした工夫の結果、「堺をつなぐ古代米おかゆ」は仕事や育児等で忙しい人から高齢者まで、幅広い方に支持いただける商品となっています。

また無印良品は難波ネギと同様に、古代米を生産する農家への協力を行っています。

商品の販売を開始してから2年目の年となる2022年は、無印良品や各社様の使用が多くなったことから、美原区行政や美原の古代米プロダクツの皆様のご協力のもと、古代米の作付けを1反増やして頂き、そこで収穫されたお米も使用して、さらに販路拡大に注力しているところです。

また休耕地や耕作放棄地を活用して栽培量をさらに増やすための取組を検討しているところです。

 

廃棄されてきた食材の利活用

最後にご紹介したい商品が、今年の11月に和歌山県の「無印良品 フォレストモール岩出店」の地域商品として販売を開始した、「あら川の桃シロップ」です。

「あら川の桃シロップ」は和歌山県紀の川市桃山町の桃農家とタイアップして作った商品です。同地区の桃は「あら川の桃」としてブランド化されており、市場では高値で販売されています。一方、桃は繊細な果物であるため、傷がついたり、収穫にあたってつぶれてしまうことも多く、実際、全収穫量の約1~2割が、商品にならないものとなっていました。

農家では出荷できなかった不揃いや規格外の桃、また加工の過程で発生する種や皮などが1シーズンで12トンもあり、これらは廃棄せざるをえない状況にありました。

そこで無印良品は協力会社と連携して、種や皮の残渣からエキスと香りを抽出して余すところなく活用することを目指し、その結果、生まれたのが「あら川の桃シロップ」だったのです。

 

農作物を活用した商品開発への思い

無印良品で食に関わる地域商品を開発する際、安心、安全でおいしいということは当然のことながら大事にしています。

ただそれだけにとどまらず、収穫量が少なくなり、市場に流通しなくなった地域の伝統的な農作物に光をあてたり、これまで廃棄されてきた農作物の利活用を目指すなど、私たちが大事にしている価値観も商品に反映していきたいと考えています。

今度、無印良品で商品を見るとき、ぜひそのような開発者の思いや背後にあるストーリーにも思いを巡らしていただければ幸いです。

 

関連記事

アクセスランキングRanking