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エジソンの名言「天才は99%の努力」は事実? 研究でみえた“才能”の正体

大賀康史(フライヤーCEO)

2022年11月30日 公開

 

「練習の質」も大切

では1万時間の訓練をすれば、誰でも超一流になれるか、という疑問にも本書は適切に答えを与えてくれます。

例えば、セールスの仕事を10年間しているけれども一般的な実績に留まっている、車の運転は20年して毎日数時間運転をしているがいっこうに上達しない、という状況をどうとらえるかです。

そして、訓練の時間の他にもう一つの本質的な要素が浮き上がってきます。練習あるいは訓練の質です。

エリクソンはそれを「集中的訓練」と呼び、著者は「目的性訓練」と表現しています。訓練には時間の長さだけが重要なのではなく、特別な目的をもってその時間を費やすことも重要なのです。

驚くほど当たり前の結論ではありますが、1万時間説のみを聞いていた人からすると、確かにそうだ、と思わされるのではないでしょうか。

卓球の世界では、長くオリンピックの金メダルをほぼ独占するほどに中国が存在感を維持しています。

中国には、多球練習という特別な練習方法があるそうです。1つのボールを打ち合う代わりに、100個のボールをバケツに入れて卓球台の横に置き、さまざまな角度からさまざまな速度で、さまざまな回転をかけて打ち込んでくるのだそうです。相手の能力によって、そのペースは変わり、少しずつ限界を超えて能力が磨かれていきます。

他にも、ブラジル出身のサッカーの一流選手の多くは、フットサルの経験が長いと言われています。なぜフットサルが良いかは、通常のサッカーと比べて約6倍以上の頻度でボールにふれるからだそうです。フィールドが狭いため、パスを通す難しさも当然上がります。

そのような場で訓練をしたプレーヤーが、通常サイズのフィールドでサッカーをすると、随分広いスペースが広がっているように見えるといいます。

このような例は訓練の質を高めていると言えることから、なぜその国で特定の競技が発達し一流選手を多く輩出するのか、という点をうまく説明しています。

 

遺伝子の優劣で「才能」をほとんど説明できない

今までの話を踏まえても、本当に遺伝的な要素が決定的な役割を持っていないのか、ということが気になる方も多いのではないでしょうか。その答えとなる興味深い示唆がマラソンランナーの調査から得られます。

例えば、なぜケニアには中長距離の世界的ランナーが集中しているのか、という疑問です。それもエルドレットという狭い町周辺の出身者にトップランナーが集中していると言われています。

同様にエチオピアも優れた長距離走選手の輩出国ですが、やはり人口5パーセントにすぎないアーシ地方の出身者が多くを占めているそうです。

ケニアのエルドレット出身者に遺伝的な特徴はなく、エチオピアのアーシ地方出身の選手に至ってはむしろ他のエチオピア人よりも欧州の人と遺伝子は近いのです。

では遺伝子ではないとして、何が決定的な違いを生んでいるのかです。どちらの地域も高地である、ということと、例えばケニアでは通学のために一日20キロ以上を走って通っている、という習慣の違いが主な要素だと考えられるそうです。

つまり、高地、すなわちマラソンランナーにとって重要な酸素を運ぶ赤血球濃度を高めるための理想的な環境で、長時間の訓練を行わざるを得ない環境こそが突出した特徴なのです。ドラゴンボールの孫悟空が界王様の星に行って修行をしているような感覚とも言えそうです。

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才能は「できないこと」の言い訳にならない

著者紹介

フライヤー(flier)

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