辞めるのは、入社前と話が違うから
僕が実感しているのは、「入社前と入社後で話が違うから辞める」ということです。Aさんの実例をお話ししましょう。
とある大企業から新卒採用の内定をもらったあと、まだ入社を迷っていたAさんは、採用担当者にこう言われました。
「いま会社では、こういう商品企画を考えており、若手チームの力が必要です。Aさんにはぜひこのチームに入って、引っ張っていってほしいと思っています。もちろん、Aさんがちゃんと力を発揮できるように、私がサポートしますよ」
Aさんは「そうか、そんなに期待してくれているのか」と感激し、入社を決めました。自分の力を発揮でき、それを喜んでもらえるなら、こんなにうれしいことはありません。しかも、名だたる有名企業。断る理由はないでしょう。
そこで入社したAさんは、なんと2年で辞めてしまいました。話が違ったからです。
サポートすると言ってくれていた担当者は、Aさんが入社してすぐに、別の部門へ異動しました。そして、Aさんは思い描いていた商品企画に携わることはなく、別の仕事が割り当てられました。
最初は「まあ、新入社員はいろいろ経験すべきということかな」とも思いましたが、次第に「自分に期待しているというのはウソだったのか」という気持ちが強くなりました。あの採用担当者は、Aさんを口説いていたとき、すでに他部署への異動が決まっていたという噂です。
「つまり、入社さえすれば、あとはどうでもいいと思っていたのか...」
Aさんは器用なので、思っていたものと違う仕事であってもすぐに慣れたし、評価はされていました。でも、話が違ったことに対する不信感がぬぐえません。結局、2年で退職したのです。
こんな話は枚挙に暇がありません。
「グローバルな会社」「語学力が活かせる」と打ち出しているのに、入ってみたら全然グローバルじゃなかった。海外に行くチャンスなどめったになかった。「テクノロジーの会社」と言っていたのに、入ってみたら飛び込み営業ばかりだった。
......そりゃあ辞めるでしょう。辞めないほうが不思議なくらいです。ところが、現実にこういった「入社前と話が違う」ことは少なくないのです。なぜでしょうか?
ミッションが明確でないからです。
ミッションに基づき採用すべき人物像が決まっていれば、このような問題は起こりません。ミッションを実現に向けて「商品企画チームの若手リーダーを育成する」という目標があって採用しているのに、それが消えるのはおかしな話です。
Aさんを採用するときそのような話が本当にあったのかわかりませんが、口八丁で採用人数の目標だけ達成したと思われても仕方ありません。
採用したほうは、「状況が変わった」と言うかもしれません。たしかに、採用時と現在で状況が変わる場合はあります。新型コロナウイルスの感染拡大のように想定外の出来事があれば、それに対応せざるをえません。
しかし、ミッション自体は変わらないはずです。ミッションに共感して入社したのなら、状況が変わっても納得できるのです。「入社前の話とは違うけれど、ミッションを実現するためにこの役割を担おう」という気持ちにもなるでしょう。