占星術は5年後、10年後に振り返る時に役に立つもの
――星のサイクルを事前に知っておけば、沖さんのようにチャンスを掴みやすかったりするものですか?
【鏡】いいえ(笑)。
【沖】なんと......!
【鏡】星のサイクルは、フレームワークとして頭の片隅に入れておくと多少の備えにはなるけれど、答え合わせ的に使ったほうが納得できることが多いんですね。喉元を通っている時よりも、5年後、10年後に振り返る時に役に立つもの。そんなイメージです。
こんなことを言うと「占星術って役に立たないのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。先を見通すよりも、自分の通ってきた道をもう1つの視点で物語化できる、意味を発見できることこそ、「占星術の叡智」だと僕は感じています。
【沖】38歳は自分にとって「つらい時期」だとばかり思っていて。今お話を聞いているとその時の意味が見つけられる気がします。
【鏡】占星術って、「私はこんな人です」という"輪郭を強化するもの"だと思われがちなんですが、自分を規定しているものを斜め上から見たり、そんな自分をトランスフォームさせていくために使っていただけたらなと思っているんです。
『月と太陽でわかる性格事典』も8割はわいわい楽しく読んでほしいのですが、残り2割は変容の一助にしていただけたらと。「あなたは積極的な人ですよ」と書かれていたら、「ほんと? じゃあちょっと一歩前に出てみようかな」と。あるいは、アクティブ過ぎると思ったら「消極的になることに対して積極的になってみよう!」なんて思ってくださったら嬉しいですよね。
「どうしたら猫たちを幸せにできるのか」
――まもなく10周年を迎える沖さんですが、地域猫や放し飼いの猫、外猫ちゃんたちを撮り続ける中で、今どんなことを思っていらっしゃいますか?
【沖】最初は「外に猫がいる! かわいい!」からスタートして、外猫にもお世話をしている人たちがいることを知り、少しずつ地域のボランティアの方やお世話をしている方たちとも距離が近くなって。
今では色々なお話をさせていただくんですけど、やっぱり「どうしたら猫たちを幸せにできるのか」を皆さん考えていらっしゃるんですね。
それぞれが自分にできることをやろうと、身銭を切って避妊・去勢手術をしたり、ご飯を与えたり、トイレのお世話をしたり。お金があれば、時間があれば、広い家があれば全員迎え入れたいんだけどねえ、って。
【鏡】それはなかなか難しいですよね。
【沖】そうなんですよね。だから僕ができることとして、猫たちの元気な写真を撮って、猫たち一匹一匹の魅力をたくさんの人に知ってもらい、猫と、猫を支える方たちに幾ばくかでも還元できたらいいなと。
今撮らせてもらっている子たちが幸せに暮らし、その代で地域猫がいなくなることがお世話をしている方々の望みであり、僕自身の幸せでもあると思っています。
地域からもし猫がいなくなったら、僕が「猫がいる場所」に行けばいいわけで。猫は世界中にいるはずですから。地域の方と猫たちに写真を撮らせてもらいながら、カメラを通して寄り添っていけたらなと思っています。
【沖昌之(おき・まさゆき)】
猫写真家。1978年神戸生まれ。家電の営業マンからアパレルのカメラマン兼販売員に転身。初恋のネコ「ぶさにゃん先輩。」の導きにより2015年に独立し、『ぶさにゃん』(新潮社)でデビュー。猫専門誌『猫びより』の「必死すぎるネコ」など連載や著書多数。2017年刊行のベストセラー『必死すぎるネコ』、2019年『必死すぎるネコ〜前後不覚篇〜』、2021年『イキってるネコ』、2022年『必死すぎるネコ〜一心不乱篇〜』(すべて辰巳出版)はシリーズ累計8万部を超える。
【鏡リュウジ(かがみ・りゅうじ)】
占星術研究家・翻訳家。国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了(比較文化)。占星術の心理学的アプローチを日本に紹介し、従来の「占い」のイメージを一新。占星術の背景となっている古代ギリシャ哲学や神話学、ヨーロッパ文化史等にも造形が深く、日本の占星術シーンをつねにリードしている。平安女学院大学客員教授。京都文教大学客員教授。東京アストロロジースクール代表講師。
著書に『鏡リュウジの占星術の教科書ⅠⅡⅢ』『占星術の文化誌』、訳書にハーヴェイ夫妻著『月と太陽でわかる性格事典』、ヒルマン著『魂のコード』、グリーン著『占星術とユング心理学』等多数。責任編集をつとめたユリイカ増刊号『タロットの世界』は学術的アプローチが話題となる。