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出社日は自由、助け合い禁止...働きやすさで話題のエビ工場が考えた“型破りなルール”

武藤北斗(株式会社パプアニューギニア海産代表取締役)

2023年03月30日 公開

 

失敗経験がよりよい職場づくりにつながる

武藤北斗 理念経営labo
武藤氏(右)は工場の作業を通じ現場の様子を把握するよう努めている

これらの改革は、採算度外視で何よりも働きやすい職場にしたいという思いだけで始めたことですが、いろいろな面でいい変化が生まれてきました。

まず、パート社員からもルールの改善案を積極的に提案してくれるようになり、プラスの循環ができてきました。

また、人材が定着し、採用にコストをかける必要がなくなったことで、人件費が約40%減少。同時にパート社員のスキルが上達し、エビの品質は見違えるほどよくなりました。以前と今のエビフライを比べると、食感や味わいがまるで違います。

一方で、私自身にも新しい気づきが生まれました。まず「フリースケジュール」を導入したことで、従業員が会社に出てきて働いてくれていることに心から感謝できるようになりました。

そして、職場づくりは経営者のマインドが決定的に重要だということもわかりました。働き方を変えた数ヶ月後、パート社員が数人辞めた程度でメンバーはほとんど同じです。しかし、工場の雰囲気はすっかり変わりました。

つまり、どのような職場風土をつくるかは、従業員ではなく、経営者の考え方や姿勢にかかっているということです。紆余曲折はあったものの、そのことに気づけたのは貴重な経験だったと思います。

もう一つ、その経験を通して実感しているのは、職場改革にはスピードが大事だということです。新しいアイデアが出てくれば、恐れずに、まずやってみる。ダメならまた元に戻せばいい。失敗を経験した分、経験値が上がってよりよい職場づくりに一歩近づけるわけですから。

 

人を排除しない組織が社会を変える

弊社のこのような取り組みを表面的に見れば、細かいルールをたくさんつくって従業員をがんじがらめにしているような印象を持たれるかもしれません。

でも私の考え方は真逆で、誰もが働きやすい環境をつくることが一番の目的です。

そもそも人間が集まれば、考え方や好みの違いから、どうしても争いが生まれやすいものです。すると居心地悪く感じる人が出て、全体の雰囲気も生産性も悪くなります。

そうならないように、できる限り争いの芽をつむことが経営者の責務です。対話を通してその場その場に適したルールをつくっていくことで、争わない組織ができると思っています。

よく驚かれますが、弊社には「助け合わない」というルールもあります。なぜ助け合うことを禁止しているかというと、そもそも「助ける」という行為には、優れた人と劣った人の存在が前提となっていて、関係性がフラットではないからです。

職場でその関係性ができてしまうと、手助けされる人はそれを引け目に感じ、手助けする人は相手にどこか不満を感じることになり、やがて摩擦が生じます。

もし、高いところに物があって、背の低い人が取れずに困っているとしましょう。それを背の高い人が助けてあげる姿は、一般社会では美しいものです。しかし、職場内のこととして考えると、必要な物が誰でも取れる場所に置かれていないこと自体が不適切なのではないでしょうか。

働きやすい職場づくりとは、誰もが人の助けを借りなくてもできるように環境を改善していくことだと思います。

弊社のような仕組みがあれば、一般的な会社では働くのが難しいとされる方も、一緒に働きやすくなります。

数年前、障がいのある方が弊社に応募してきてくれました。もちろん、「嫌な作業をやってはいけない」というルールがありますから、やりたい作業だけやってもらえれば何の問題もありません。他のパート社員と同様に働くことができます。

ところが実際には、それ以上のよい影響がありました。その方が入ってきてから、一段と職場の雰囲気がよくなったのです。

もちろんそれは、助け合う社風ができたからということではありません。「この職場は誰も排除せず、一緒に働ける方法を考えてくれる安心できる場所だ」と、みんなの認識が深まったからです。

私はこのような職場改革を通して、みんなにとって働きやすい、争わない環境づくりが、人を排除しない職場風土につながることを実感しました。

近年、「インクルージョン」(多様な属性の人を包括し受け入れること)ということがいわれているように、排除しない組織が増えれば、日本の社会はきっと豊かで強いものになると信じています。

まずは、自分の会社でそれを証明し、多くの方に興味を持っていただきたいと思います。

【武藤北斗(むとう・ほくと)】
株式会社パプアニューギニア海産代表取締役。1975年福岡県生まれ。大学を卒業後、築地市場の荷受けに就職し、せり人を目指す。2000 年にパプアニューギニア海産に入社。2011年の東日本大震災により、宮城県石巻市にある本社が津波で流され、大阪に移転する。2021年に代表取締役に就任。パート社員の自由な働き方がメディアの注目を集める。著書に『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』(イースト・プレス)。

 

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