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講演のプロが指摘する「感情を込めて話すと伝わる」は精神論にすぎない

佐藤政樹(企業研修講師/講演家)

2023年06月12日 公開 2023年06月12日 更新

 

「滑舌のよさ」や「流暢さ」よりも大事なこと

さて、あなたは「話し方のプロ」と聞いて、どのような仕事をイメージしますか? アナウンサーなどさまざまな職業がありますが、「あんな話し方ができたらいいなぁ」と思ったことがあるのではないでしょうか?

「話し方のプロ」と呼ばれる職業の方々に共通する特徴として、滑舌がとてもよい、はきはきと聞きやすい素敵ないい声、流暢に話す、などがあげられます。

一般的に、そのような話し方を目標にして、自分と比較している方はとても多いように感じます。ビジネスパーソンであるあなたは、滑舌やはっきりと丁寧に話すことだけを意識する必要はありません。

ここで、核となる重要なキーワードを解説します。

「どうやって話すか」よりも「なぜ話すのか」

たとえば、実際にこんなシーンを想像してみてください。あなたは、苦手な上司と1対1で面談しています。あなたはその上司が大嫌いで、1秒でも早く面談が終わってほしい、と考えています。

そのときです。突然、その上司の顔が見る見る青白くなったかと思うと、口から泡を吹きながらバタンと倒れました。そして上司は、なんとか声を絞り出して「きゅ、救急車を呼んでくれないか...」と助けを求めてきました。一大事です。あなたはそこで、こう答えました。

「大丈夫ですか!? わかりました!!」

ここで、考えてみてください。あなたはこの場面で"滑舌よく丁寧に""いい声で"などを意識するでしょうか? 間違いなく、意識しないと思います。

もしかすると、これは極端な例かもしれません。しかし、この場面では綺麗な美しい言葉を必要としないことは明らかです。

日ごろどんなに嫌いな上司でも、命に関わるかもしれない危機となれば、"今は緊急事態、なんとかしなければ"と考えると思います。その結果として、ほんの一瞬のうちに、口から自然と言葉が出てくるのです。

つまり、ここで私が伝えたいのは、「その言葉を発するからには、言葉を発する"理由"が必ずある」ということです。

私たちは日ごろ、言葉を使って自分の想いを相手に届けています。このシーンの場合、「目の前の人の命を助ける」という"理由"があるからこそ、「大丈夫ですか、わかりました」と言葉が自然と出てくるのです。

逆に、"滑舌よく丁寧に"という理由で言葉を発しても、口から出たその言葉にはリアリティがありません。

つまり「どうやって話すか」に意識が回り、滑舌よく丁寧に話すことだけを目的にしてしまうと、リアリティのない表面的な言葉になってしまうのです。

当然、相手からは共感が得られるわけがありません。話をしている最中は、滑舌のよさやはっきりと丁寧に話すことを気にしすぎる必要はないのです。

私は講師として人前で話をする直前には、毎回「自分はなんのためにここにいて、なぜ話すのか?」という"ここにいる理由"を自分に誓うようにしています。

「役に立つ情報を届けて、悩んでいる人の手助けをする」「相手の悩みを解決する」「この企画を実現させて社会をよりよくする」など、さまざまです。

大事なことは「なんのためにここにいて、なぜ話すのか?」。この質問に即答できるように準備し、終始念頭に置いておくことです。商談やプレゼンなどビジネスでの大事な場面では、滑舌やはっきりと丁寧に話すことを気にするよりも、まずは話す"理由"を腹落ちさせてみてください。

滑舌のよいはっきりした話し方だけを意識すると、話し手の素の部分が見えにくくなります。「この商品を売らないと」「目標を達成したい」「このプレゼンを外したらどうしよう」という目先のことを考えてはいけません。その前に、話す理由に立ち返ることが大切なのです。

そこにいるからには、そこにいる本当の"理由"が必ずあります。人を惹きつけるにはテンションや感情はいりません。それよりもまずは、「ここにいる理由」を明確にすること。こちらのほうがはるかに重要です。

 

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