ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄』(松岡真宏、山手剛人、首藤繭子著、日経BP・日本経済新聞出版)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
ESGにも社会の分断が存在する
ESGという言葉が語られるようになってからは久しく、特に投資の規範としてもここ5年間ほどで耳にする機会が増えました。EはEnvironment、SはSocial、GはGovernanceの頭文字で、環境や社会にとって望ましく、ガバナンスのしっかりした会社を評価しようという考え方です。
そのESGは、資本主義の利益やイノベーション重視の考え方に、社会全体への貢献を組み込む望ましい進化だと感じますが、実際はまだ世界共通の正義にはなれていないようです。
そもそも個人にとって、ESGという考え方が利益になるのか、損になるのか、という観点があります。特に環境問題については、持続可能性を重視するのかどうかも人によって異なるようです。
例えば天然資源を活用する事業を担っている人にとっては、環境問題への対応に過度に偏ることにはおよび腰になりやすいという構造があります。また、環境問題が人生に及ぼす影響は年齢によって異なり、教育課程の違いも影響するため、若年層の方がより環境問題に敏感だとも言われています。
その状況下で社会における共通善を追求するESG投資の流れを明確にしたのが、次に紹介するβアクティビズムという考え方です。
インデックスファンドの支配
現代ポートフォリオ理論(MPT)と呼ばれる、投資を仕事にする人がほぼ必ず通ると言われている理論があります。MPTでは、投資先の組み合わせであるポートフォリオのリターンはαとβで構成されると表現されています。
α:投資配分や銘柄選別によって得られる超過リターン
β:市場全体の成長から得られるリターン
MPTを信じる人の多くは、βは所与のものと考え、投資の巧みさによりαを最大化することが運用担当者の仕事だととらえていました。
しかし、その流れにも変化の兆しが表れています。それがβアクティビズムと呼ばれる投資戦略です。本書を引用し、ひと言で表現するならば、「個別銘柄の選別ではなく、世界経済全体を押し上げることで資産運用リターンを最大化しよう」というものです。
金融工学の浸透とともに、αによるリターン全体への寄与度は25%程度にとどまり、残りの75%はβによるという研究結果もあります。そのため、ゼロサムゲームとなるαの追求ではなく、中長期的な市場の健全な発展を求めるβアクティビズムという動きがおきているのです。
βを重視するもう一つの背景としては、機関投資家や個人投資家の運用の中心となったインデックスファンドの台頭があります。今や主要な株式指数の構成銘柄に組み込まれるかどうかが株価に大きな影響を与え、S&P500指数の採用銘柄の平均プレミアムは40%にも達すると言われています。
また、βアクティビズムは運用担当者の使命感にもつながります。虚業や金儲けなどの不本意なレッテルをはられがちだった証券等の金融に携わる人にとって、自身の運用により世界をより良くできるという新しい金融エリート像のビジョンを感じさせるという魅力も持ち合わせています。
国家の分断
ESG投資を重視するβアクティビズムの動きにも関わらず、天然資源の有無によって国家の環境への姿勢が分かれています。例えば、SDGs達成度の指標と原油埋蔵量にはマイナスの相関があり、ロシア、アメリカ、中東諸国などの資源が豊富な国は国際影響力の低下を恐れて、SDGsへの努力に及び腰になっています。
その一方で、欧州・日本・韓国などの資源の乏しい国では、石油資源への依存度を減らすためにも環境への対応に積極的と言え、国家としてのインセンティブが近い存在だと考えられます。
国家間も一枚岩ではなく分断があるものの、ESGは現代のイデオロギーとも言える存在になりつつあります。その中でも特にE(Environment)に関しては、国家を分断する可能性を秘めている点に注意が必要です。