現代の荘園としてのグローバル大企業
マイクロソフト、ユニリーバ、スターバックスなどのESGへの積極的な取り組みが本書では紹介されています。それらグローバル大企業はESGへの取り組みにおいても、圧倒的な優位性を築いていて、その動きにより優秀な人材を惹きつけています。
グローバル大企業は、帰属する構成員に給与・賞与面での経済的な満足に加えて、様々な福利厚生や精神的な満足をも提供できます。帰属する個人に大きなメリットがあるため、あたかも平安時代に発達した「荘園」の現代版とも言えると、本書では触れられています。
国内においても、中学校や高校教育の中で、SDGsが組み込まれていることが一般的となっていて、情報感度の高い若年層はその価値観を重視する傾向があります。つまり、グローバル大企業には優秀な若手人材が集まりやすいとも考えられます。
人口減少により求人倍率上昇の傾向が続くものと想定すると、現代の企業の競争優位の中核となる人材確保の点でも、ESGへの努力は避けて通れないものとなりつつあります。
加えて、ベンチャーキャピタルや機関投資家でESG投資を運用の中核にすえる機関はますます増えており、もう一つの重要な経営資源となる資金の確保でも、ESGへの努力が求められるようになっています。
これからの社会はどうなっていくのか
現代は、資本主義が得意とするイノベーション創出を社会に役立てられるか、それとも個人や企業個別の金銭的なインセンティブが環境や社会を破壊してしまうのか、つまり社会の持続可能な発展が導き出せるのかどうかの分岐路に差し掛かっているように思います。
金銭的なインセンティブを排して、経済か環境かと問われると、社会は決定的に分断されてしまう可能性がありますが、βアクティビズムの考え方は、経済と環境の両立に整合性を持たせるものになりえます。
資本主義と民主主義という既存のイデオロギーを打倒する革命には多大なコストと犠牲が予想される一方で、社会的な活動を資本主義のストリームに乗せられればより優れた社会が現実的に実現しやすいでしょう。
全体最適のために動ける人は一部で、どちらかというと個人の損得の引力の方が絶大なように思えます。社会が変わるときは個人の倫理観や美意識に訴えるのではなく、それぞれの個人にメリットが及ぼされるときなのかもしれません。
ESGが世代間や個人間の分断を避け、共通の利益という形に昇華できるのか、その中で個々の企業の発展が連動するためにはどうするべきかなどの論点は、本書を通じて考えられていくテーマになります。
ESGの重要性への確信が得られたならば、人生や企業運営を進める足取りは力強くなるように思います。そのような考察を深めていく際に、本書は心強い相棒になってくれるでしょう。