[優良企業の情報管理] ―― 個人的な書き込みにも注意!
2013年07月09日 公開 2022年05月13日 更新
《 PHPビジネス新書『優良企業の人事・労務管理』より(改題再録)》
<労務管理とは、社員が「元気」で「安心」して働ける環境づくり>
◎ボランティアも放置していると、会社の技術の流出へ
最近は、休日などにボランティア活動に従事する人も増えてきました。このような傾向は、歓迎すべきことだと思います。
しかしながら、中には「自分はボランティアでいいことをしているのだから」と、ボランティア活動なら何でも許されると勘違いをしている人も見受けられます。例えば、ボランティア活動で使用するため、会社のガムテープやボールペンなどを会社に許可なく勝手に提供したり、会社の車を勝手に使用したりしている人がいます。
そのようなことは当然、禁止なわけですが、ここで述べたいのはそのようなことではありません。最近では、単に労働力を提供するだけのボランティアではなく、プロボノなどと呼ばれる高度な知識を提供するボランティアも増えてきています。例えば、高度なITの知識を提供して社会貢献をしたり、弁護士が無料で法律相談にのったりすることなどがこれにあたります。
これも、単に自らの知識の提供ならばいいですが、1つ間違えると会社の技術やノウハウの流出になることも考えられます。
1つ例を挙げましょう。ある人事コンサルティング会社の従業員であるFさんが、NPOに頼まれて組織や人事制度作りをボランティアで手伝っていました。Fさんは、休日に行っていたので問題意識を感じずに手伝っていたのですが、その制度構築にあたって、所属する会社独自のノウハウやツールを使って行っていたのでした。それだけでも、会社側からしてみればノウハウの流出となって問題ですが、さらに困ったことが起きました。なんと、そのNPOに参画していたメンバーが在籍する会社で人事改革を行うときに、Fさんが提供したプログラムがそっくりそのまま使用されていたのです。
このようなことを起こさないためにも、仮に無償であったとしても、会社の許可なく会社独自のノウハウやツールを使用してのボランティア活動は禁止しておくべきです。もし、世の中に会社のノウハウを役立てたいのなら、会社が積極的に関与する形で社会貢献する方法を戦略的に考えていくのがいいでしょう。
◎相談窓口の設置で、社内の悪い情報を経営層へ上げさせる
皆さんの会社では、従業員から直接情報が上がってくるような仕組みが作られていますか。もしそうでないのなら、「相談窓口」などを設けることをお勧めします。あるいは、公益通報者保護法との絡みで社内にそのような仕組みを設けているのであれば、その仕組みを利用するというのでもいいでしょう。
公益通報者保護法の目的は2つあり、「公益通報者の保護を図る」ことと、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保議にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること」です。そのため、公益通報者に対する解雇の無効など、不利益な取り扱いを禁止することが定められています。これにより、従業員が公的機関やマスコミに対し社内の違法行為を通報しても、その従業員の身分が法的に保護されるようになりました。
ただ、そのような保護の法律があったとしても、社内での違法行為は、まず社内でその問題が解決されるべきですし、解決できる仕組み作りがされているべきです。そこで、通報窓口を作り、通報があった場合・社内で調査し、解決できるようにしておくのです。
私は、この窓口を公益通報だけに限定せず、社内で起こっている問題や、解決しなければいけないことを、上司を通さないでも直接伝えることができる制度とすることをお勧めしています。
R社では、このような窓口を設置してから、従業員の横領、セクシャルハラスメント、従業員間の借金問題といった問題が報告されてきました。この手の問題は、経営層や人事部門が知らないだけで、現場では周知の事実となっていることが多いものです。会社側は、通報者に「訴えても、会社側に揉み消されてしまい、立場が危うくなる」と思われないように、通報ルートを明確にした窓口を設置し、従業員の立場を保証することが必要です。そうすることにより、従業員が勇気をもって会社に知らせてくれるようになります。
そして、実際に通報があれば、会社はそれに対して必ずアクションを起こさなければなりません。そうでなければ、会社と従業員との間の信頼関係はがたがたとなってしまいます。
◎ルールが守れない時は、「懲戒処分」を行う
会社は、様々なルールを設けて、従業員の行動に制限をかけています。これは、組織として行動する以上はある程度はやむを得ないことです。
そして、会社が定めたルールが守られなかった場合は、時として懲戒処分を科す必要があります。この懲戒処分について、気をつけていただきたい点は2つです。
1つは、懲戒処分をする場合、原則として就業規則上に「○○に該当したら懲戒処分とします」というルールが存在しなければならないという点です。つまり、就業規則に定めがない事由で、懲戒処分はできないと思っておいた方がいいでしょう。
そして2つ目は、就業規則の懲戒事由に該当したとしても、すぐに懲戒処分ができるわけではないという点です。懲戒処分を科すべきか否かは、その時々の状況によって変わってきます。
簡単な例を挙げれば、就業規則上で副業を禁止しており、副業した場合には懲戒解雇とするというルールがあったとします。ある従業員が、休みの日に親戚が営んでいるコンビニエンスストアで人手が足りなかったため、レジを手伝って最低限の給与をもらっていたとします。また、ある従業員は、ライバル関係にある会社で、休日や平日も年次有給休暇を取得して働いていたとします。どちらも副業は副業ですが、会社に与えるインパクトは全く違います。それを同じ処分とすることはできません。
このような話をすると、「先生、どんな時にどんな処分が有効なのかはっきり教えてください」と言われることがありますが、残念ながら公式はありません。「過去に同様のことがあった場合に社内でどう処理したか」また、「判例ではどのように示しているか」「会社に与えるダメージはどの程度なのか」「本人の反省度合いはどうなのか」などを確認しながら個々に判断していくことになります。
ここで覚えておいていただきたいのは、規定にあるからといって、すぐに処分することはできませんが、規定がないといざという時に処分ができないということです。
◎携帯電話やパソコンの問題
今やパソコンや携帯電話の使用が当たり前となり、その取り扱いについても一定のルールを設けなければならなくなっています。例えば、会社が貸与しているパソコンや携帯電話の私的利用の禁止、電子書類の管理、持ち出しに関するルールなどがあります。これらについては、既に取り決めをしている会社も多いと思います。
昨今は、それに加えて、情報発信についてのルール作りも必要になってきています。ブログをはじめ、ツイッター、フェイスブックなど従業員個人が全世界に対して気軽に情報発信できるようになってきています。一方で、問題発言も瞬時に全世界に伝達してしまいます。最近でも有名ホテルのレストランでアルバイトが、お客様として来店した有名人のことをツイッターで情報発信してしまい、大問題となったことがありました。
ブログやツイッターへの書き込み自体は、私的なことですから会社が制限をすることはできません。しかし、前述の例のとおり、仕事に関係することを勝手に情報発信されてしまっては困ることも出てきます。
ある会社でも次のようなことがありました。従業員の一人が、私的なブログで顧客に対する悪口をつづっていたのです。ブログの中には、本人の名前も出ていませんし、会社名ももちろん出ていません。しかし、会社に、「顧客の悪口をつづっているブログがあるが、あなたの会社の従業員ではないのか」という匿名の連絡がありました。
会社が慌てて確認すると、確かにそのような事実があり、他の記事なども併せて読むことで、誰が書いたのかほぼ特定できました。そして、実際に、その従業員を呼び出し確認すると、本人も事実を認めました。
この手の問題のややこしさは、本人に全く悪気がないという点にあります。特段会社に嫌がらせをしようとか、特定のお客様を困らせようとかそういうものではなく、あくまでも私的に思ったことを記載しているだけなのです。しかも、匿名だから問題ないだろうと考えているのです。
事がどのように発展するのか想像力が欠如していると言えばそのとおりですが、会社としては問題を事前に防ぐ手段を講じておく必要があります。
そこで、業務を通して知り得たこと、顧客や取引先に関係することは、たとえ匿名であっても情報発信してはいけないことを改めてルール化し、周知していくことも重要です。