「老後の資金が貯まらない」「親の介護費用が足りない」など...。お金の問題は多くの人々の悩みの種となっています。お金がない状態は、人の心を不安にさせてしまうものなのです。では、お釈迦さまはこの問題をどう捉え、どういった教えを説いたのでしょうか? 僧侶の大愚元勝さんが語ります。
不安ランキングのトップ3にいつもあるのは「お金」
世の中には、さまざまなランキングがあります。その中に、人々が抱えている不安に関するランキングもあります。
ランキングの結果は、どういう調査機関が、どういう人たちを対象に調査をしたものかによって変わってきます。
セコム株式会社が2021年に全国の20代以上の男女500名に不安に関するアンケートを取りました。その結果、不安の理由第1位は「老後の生活や年金」、2位は「身体の健康」、3位は「心の健康」だったそうです。
Webメディア「マイナビニュース」が、社会人経験のある男女に「いま抱えている仕事の悩み」について調査をすると、「給与が低い」という回答がダントツで1位だったそうです。世代別に分けて見ても、20~50代のすべての世代で「給与が低い」が2位以下に大差をつけて1位という結果になっています。
養命酒製造株式会社は、20歳~69歳の女性1,000名に、現在の悩みを聞きました。そのトップ3は、1位健康状態、2位家計、3位仕事という結果です。
我が国、日本だけではありません。2009年に日本内閣府が、日本、韓国、アメリカ、イギリス、フランスの若者に悩み事のアンケートを取りました。日本、アメリカ、イギリスでは「お金のこと」が1位、韓国とフランスでも2位という結果です。
さまざまな調査結果がありますが、年齢、性別、国に関わらず、悩みのトップ3にはお金が入っています。
人類がお金を発明して以来、人々はお金のために働き、協力し、争い、苦しんできました。
実は仏教にも、私たちを不安にさせ、悩ませるお金について記した教えが残されています。お釈迦さまが、どのようにお金を稼ぎ、どのように財を成せばいいのかを具体的に説いた教えです。
そんな話をすると、「まさか」と驚かれる方があります。仏教とは、「お金への執着を離れて清貧を保つ教え」というイメージを持っている人が多いのでしょう。
確かにお釈迦さまは、出家者に対しては、労働生産を禁じました。お布施を豊富に施されたとしても、贅沢も、蓄財もしないように説かれました。しかし在家者に対しては、勤勉に働いて、財産を持つことを大いに奨励しました。
お釈迦さまという人は理想論者ではなく、"超"現実主義者だったのです。
さらに、ただ蓄財を奨励するだけでなく、「具体的にどのようにして得たお金を運用していくのか」ということまで教えています。
では、今から2500年以上前にお釈迦さまが説かれた、「お金に困らないで生きる知恵」を見ていきましょう。
お釈迦さまが説いた資産を着実に守り増やす方法
「お金に困らないで生きるにはどうしたらよいか」この問いに対するお釈迦さまの答えはシンプルです。
「収入を4分割して使いなさい」と言うのです。
この教えは、一見単純で簡単そうに聞こえますが、行うとなるとこれがなかなか難しい。けれども、実行できれば確実にお金への不安が減っていきます。
どうするのか。
例えば1ヶ月に20万円の収入があったとします。
その20万円を「必要な生活費」、「自分が欲しいもの・好きなことへの出費」、「貯金」、「将来への投資」に4分割して振り分けるのです。
20万円の4分の1は、5万円です。だから5万円を生活費に、5万円を欲しいもの、好きなことへ使い、5万円を貯金して、5万円を本を買うなどの投資に回す。
「今どき5万円では生活できない!」と突っ込みを入れたい人もいるでしょう。けれども大切なことは、「5万円では生活できない」と決めつけるのではなく、「どうしたら5万円で生活できるか」を工夫することが大切です。
さらに私は、この4分割したお金の使い方に優先順位をつけることをおすすめしています。
第1に優先すべきは貯金です。
給料をもらったらまずは貯金。必要な生活費よりも前に貯金をします。「自分にとって必要な生活費」なんてものは、どれだけでも膨れ上がります。「自分にとって必要」と言ってしまえばいくらでも増やせるのです。ですから、まず一番最初に貯金をしなくてはいけません。
また、「給料が少ないから貯金できない」と嘆く人がいます。けれども、給料が多ければ貯金できるかと言えばそうでもないのです。
実は、総務省統計局が行った家計調査で、収入別の平均貯蓄額が出ています。収入が多い人の方が、使ったとしてもまた入ってくるお金が多いがゆえに、油断をして貯金をしていない人も多くいるようです。
また、収入が多い人は生活水準が高くなりやすく、スポーツクラブ、車、服など身の回りの出費が多くなりがちです。一つブランドものを買ってしまうと、他のものもある程度は高級感のあるものを揃えたくなるものです。こうして、収入が多くても貯蓄ができていない人が生まれてきます。
昔は「天引き貯金」といって、会社が給料から差し引いてくれるということもありましたね。住職になる前は、会社を立ち上げて色々な人を雇用していました。中には自分でお金を管理できない人もいます。お金をもらったら、「宵越しのお金は持たない」と飲み屋で使ってしまうのです。
ですので、最初からお金を渡しませんでした。預金口座を作ってもらって、本人に渡す前に貯めるべき分をその口座に入れて、「手取りはこれだけしかありませんよ」と天引きした給料を渡していました。そして退職するときに、その口座の通帳を返すということもしました。
とにかく給与を4分割したら、一番優先順位を高くつけて実行すべきが貯金です。
2番目に優先すべきは自己投資です。収入を増やしたければ貯蓄をしながらも絶対に忘れてはいけないのが、この「自己投資」です。
本を買ったり、資格を取得したり、新たな技能を取得したり、、、私も20代でこの方法を知ったとき、貯金をしたあとは、自己投資、将来への投資を大切にしていました。身銭を切って学んだことは、確実に収入を上げてくれます。収入が上がると、貯金や株式投資などの比率も上げることができるようになります。
そして3番目に必要な生活費を決め、最後に自分の欲しいものにお金を使います。
私自身、学生の時にこの方法を知って以来、ずっとこの方法を守ってきました。このルールがキツいと感じた時期もありました。どうしても4分の1という比率が守れないこともありました。
けれども、①収入を常に「貯金、投資、生活費、好きに使う」と4分割して振り分けること、②優先順位を守ることさえ気をつけていれば、着実にお金に対する不安は減っていきます。
またこの知恵は、個人の資産管理だけでなく、会社の経営にも応用できます。
私は、今でこそ住職を本業として生きていますが、かつて「僧侶になりたくない」と寺を飛び出して、複数の事業を立ち上げた時も、同じようにこのお釈迦さまの4分割法を意識してお金を管理していました。
その甲斐あってか、それなりに大きな借入れもしましたし、それなりに大きな設備投資もしましたが、大きくお金でコケることはなく、会社の経営を軌道に乗せてから後進に引き継ぐことができました。
私の例などは取るに足らないものですが、このお釈迦様の4分割法を応用して、極貧生活から巨万の富を築き、成功者のお手本として歴史に名を残す人物がいます。本田静六という人です。
日比谷公園などの名だたる庭園を手がけてきた大学教授ですが、彼は9歳の頃から極貧生活を送りながら、苦学の末に大学の教授になりました。お給料がしっかりともらえるようになっても、極貧だった頃の自分の生活水準を変えずに貯蓄をしていき、最終的に巨万の富を得ました。
しかし定年後に、家族のために最低限のお金を残して、他は全部寄付してしまうのです。そして元の質素な生活に戻り、健体康心にして生涯現役で働き、85歳まで長生きしたのでした。
本多静六はこんな言葉を残しました。「金儲けは理屈でなくて、実際である。計画でなくて、努力である。予算でなくて、結果である。その秘伝はとなると、やっぱり根本的な心構えの問題となる」
まさにお釈迦様の教えを、頭だけで理解しないで実践をしていったことがよく分かります。