ライターとしてさまざまな媒体で活躍するも、自己肯定感の低さから自分を好きになれずに悩んでいた横川良明氏。そんな彼が、「自分が嫌いなままでもいい」と思えるきっかけとなったのが、知人を真似して始めた多拠点生活。自分を好きになるために、あらゆる試行錯誤を経て気づいた、本当に大切なこととは?
※本稿は、横川良明著『自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』(講談社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
自分を変えたい一心から、多拠点生活へ
失敗を繰り返して、最近ようやく気づいたことがある。きっかけは、 友人の多拠点生活だった。同じライター業を営む彼女は、東京にいるのは月に1週間程度。残りの期間のほとんどを全国各地で過ごしていた。そして、同じ宿で知り合った旅仲間と交流を深めたり、現地の酒場に顔を出しては大将やママからひどく可愛がられていた。
年を重ねると、自分のポテンシャルを見誤るのか、無駄に行動力だけ上がる。ブログを通じてその様子を見ていた僕は、僕も旅をしたらなにか変わるかもしれないと、早速多拠点生活を取り入れてみることにした。
しかし、所詮他人の真似をしてみたところで猿真似にもならない。知らない土地にやってきた僕は、まず交流の場を持とうと酒場の開拓から始めてみた。こういうのは、個人経営の、ちょっとさびれたくらいの店構えの方が大将との距離も近そうだ。
そうアタリをつけてみたものの、暖簾をくぐってみたら思ったよりも大将が高倉健に寄ったタイプの人で、まるで会話がはかどらない。店の選択を間違えた。さびれた酒場も悪くないけど、もっと自分と同世代の主人がやっているような店の方が、お互いフランクに話しやすいかもしれない。
学生時代のあの感情を、大人になって味わうとは...
ということで、次の日はいかにもちょっと若そうな店をチョイスしてみたけど、それはそれで今度は常連客が大盛り上がりで一歩も輪の中に入っていけなかった。きっと酒の力を借りようとしたのが良くない。ただでさえ酒は気を大きくさせるんだから。
陽キャと酒はサンポールとカビキラーくらい混ぜるな危険である。もっとシラフで仲良くなれる場所を見つけたらいいと思い直し、今度は宿をゲストハウスにしてみた。
部屋は8人同室のドミトリー。寝床は2段ベッドだ。これだけ距離が近ければ、問答無用で親交も深まるはず。ついに最後のカードを切るようなつもりでゲストハウスにやってきたが、目論見はまったくうまくいかない。
同室の宿泊客に「こんにちは」と勇気を振り絞って挨拶してみたものの、遠慮がちに目礼が返ってくるだけで終わった。え? まさかのシャイ?
交流用のダイニングスペースでこれ見よがしにご飯を食べてみても、みんな足早に通り過ぎていくだけ。完全に、みんなが机を寄せ合う中、 ひとり小島で弁当を広げる昼休みのあの感じだった。まさかあの侘しさと気恥ずかしさを大人になってから味わうとは思わなかった。