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オリックス・宮内義彦/「確固たる信念」は時代遅れ

宮内義彦(オリックスグループCEO)

2012年07月30日 公開 2022年05月23日 更新

宮内義彦

経営者にとって苦難はつきものだが、その中でも日々成長し、幸せを掴むにはどうしたらよいのか。オリックスグループCEOの宮内義彦氏は、社会人にとっての幸せとは「自己実現」であると語る。同氏がビジネスの世界で長年培ってきた、経営者のための人生哲学を語る。

※本稿は、宮内義彦・著『世界は動く 今日は新しい日だ』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

社会人にとっての「幸せ」とは

社会人にとっての「幸せ」とは、何でしょう。

この50年あまり、私は、「新社会人」「新会社の創業メンバー」「グループCEO」「財界活動」「政府関係委員」「球団オーナー」等々、さまざまな体験をさせていただきました。新しいことに挑み、思ったことを率直に発言し、時に厳しいご批判を浴びることもありました。

ただ私は、これまでの自分の活動や発言を、悔いたり撤回しようと思ったことはありません。それは、自分の良心に照らして後ろめたいことがないからです。ビジネスの世界に50年以上身を置くなかで、見当が外れたりミスを犯したことはいくらでもありますが、そのような場合でも、私は気持ちを切り換え、後に引きずらないようにしています。

そもそも、ミスを犯すことより恐ろしいのは、羹 〈あつもの〉 に懲りて膾 〈なます〉 を吹くことではないでしょうか。新しいことにチャレンジするのをやめ、周囲との摩擦を避け、ひたすら「安全運転」に徹する。結果として、その社会人は本当に「幸せ」を手に入れられるのでしょうか。そして結果的に、その人は経済社会に貢献したと言えるのでしょうか。

「無事これ名馬」という格言がありますが、これを多くの社会人がありがたがって座右の銘とした日には、個人も会社も、そして社会や国全体も、成長・発展を遂げることができないでしょう。

「昨日まで完璧だったから、同じことをしていれば、これからも大丈夫」というのは、大きな錯覚だと私は思います。今日という一日は、世界中の誰にとっても新しい始まりなのです。世界は動く、日々新たなりです。

日本には、何百年、あるいは千年も続いてきた老舗の企業やお店があります。では、そこで働く社員や職人さんたちは、何百年も千年も、「昨日と同じこと」をひたすら続けてきたのでしょうか。

おそらく違うと思います。各時代の荒波にもまれながら存続するということは、「同じことを続けているだけでは、お客様に見限られてしまう」という危機感を抱き、不断の努力、改善を続けてきたことの証でしょう。そうした不断の努力を行って社会に役立つ「場」を見つけ、自己実現を果たすことが、社会人にとっての「幸せ」なのだと私は思います。

私はこれまで、さまざまな機会に発言し、また考えを著書として出版してきました。その言葉のエッセンスを編集したのが本書『世界は動く』です。その時、その場における私の能力、判断を言葉にしたもので、そのすべてが最適であるとはとても思えません。

しかし、全体をお読みいただき、読者の皆様に何がしかのヒントをご提供できるならば、私にとっては望外の「幸せ」です。

(以下、第3章「経営の要諦」より抜粋)

 

「確固たる信念」は時代遅れ

トップの心構えとして「不動の姿勢」や「確固たる信念」という表現がよく使われますが、いかがなものかと思います。世の中は常に変わっているのですから、昨日ベストだったものでも、今日は時代遅れになっている可能性があります。

経営は、1つの大きな決断があるのではなく、小さな決断の連続だと思います。お客様あっての商売ですから、絶えず環境の変化に目を配っていないといけません。

「確固たる信念」は、現代ではとても通用しません。とくにサービス産業においては、フレキシブルな企業経営こそが欠かせない要素だと私は思います。

 

専門能力を磨く

日本では長年、同一の資本関係を有する企業間で取引する系列取引が行われてきました。系列取引の下では、経営者など組織の中心となる人材は、激しい競争に負けないための訓練を積んだ専門能力を持つ必要はなくなります。

これらの企業では、経営力以外の要素、例えば、円滑な人間関係を築く基盤となる人格などが、より影響力を持つことになります。ビジネスの結果によって判断されるよりも、その属性の適否が問われてきました。

人物が立派であるのは大切なことですが、それだけでは経営者の役目を果たしたことにはなりません。これからの経営者には専門能力が問われており、その役目を十分に果たすことが社会的責任と言えるでしょう。

 

「厳しさ」と「浪花節」のバランス

「きついことを言う一方で、浪花節 〈なにわぶし〉 が通じるような経営」というのが、私が考えている経営です。

「市場経済とは、従業員を大切だと考えないこと」と誤解している人がいますが、従業員を粗末にしておいて、企業は市場にアピールできるはずがありません。

そんな会社が、マーケットから評価される商品やサービスを生み出せるはずがないのです。従業員を大切にして、それで初めてマーケットにアピールできると私は考えています。

ただし、従業員を大切にするという、その「大切」の仕方が重要です。よくできる人は、より大切にし、できない人には厳しく対応し、改善を促すこと。この筋を通すことが重要だと思います。

 

ビジネスチャンスは独自の発想から

日本のような先進工業国は、進展するグローバリズム、情報化社会のなかで新しい産業分野をつくりあげ、競争力を発揮しなければ、先進国グループの中で生き残れないばかりか、新興国にも追い抜かれかねません。

このような環境で経営をしていくには、人のまねでは立ち行かなくなるでしょう。IT革命が利益機会を企業から奪う一方で、今まで思いも寄らなかったビジネスチャンスももたらしています。それを捉えるためには、独自の発想が求められます。

これからの経営者にとって大切なことは、自分の頭で考えて、しかも、固定観念を持たないということではないでしょうか。

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