大型ネコ科にハマる人続々! 辛酸なめ子が目撃した、大人気『ほぼねこ』写真家の素顔
2024年05月07日 公開 2024年12月16日 更新
ネコ科について語る『ほぼねこ』著者のRIKUさん(イラスト:辛酸なめ子)
昨年12月に発売され大きな話題を呼んでいる写真集『ほぼねこ』。SNS総フォロワー数20万人を超えるRIKUさんが全国の動物園で撮影したネコ科の大型動物たちの、まるで猫のような愛らしい姿を収めた写真が90点以上掲載されています。現在2頭のホワイトタイガーの赤ちゃんを公開している宇都宮動物園で、コラムニストの辛酸なめ子さんがRIKUさんの撮影に密着しました。
文・イラスト 辛酸なめ子
「ほぼねこ」の癒しのパワー
猫のような猛獣たちの写真集『ほぼねこ』(辰巳出版)
ある日、ネットを見ていたら、トラやヒョウが猫のようなかわいいポーズでゴロゴロしている写真が目に入ってきました。RIKUさんが撮られた『ほぼねこ』(辰巳出版)というネコ科の動物写真集が出ていることを知り、すぐに猫好きの友だち数人に告知。ちょうどイベントの仕事で関わりがあった辰巳出版の方に「ほぼねこ」の癒しのパワーについて伝えたところ、レビューのご縁をいただくことになりました。
かねてから、地球で最も完成度が高いのはネコ科の動物だと思っていました。ネコ科は身体能力が高く、見た目も美しく、ストイックで、賢くて、スピリチュアルで人間よりもよほど霊格が高い生き物に思えます。ネコ科の中でも無敵の存在なのが大型のトラやライオン、ヒョウといった面々。
でも魂の奥には猫がいるので、時々猫っぽい仕草が出てしまいます。『ほぼねこ』は、そんな萌える瞬間を捉えた写真集。長年動物園に通って撮影しているRIKUさんだからこそ撮れるシーンです。
例えば、ライオンのお父さんが娘に爪研ぎのやり方を教えているところや、ユキヒョウの母娘がボールで遊ぶ無邪気な姿、へそ天で無防備に寝ているトラ、おかあさんのモフモフのしっぽにじゃれるユキヒョウの子ども、寝顔があどけないホワイトタイガーなど......。
癒されるとともに、爪や歯の鋭さ、手の大きさを見て、近寄りがたい存在だと気付かされます。ヒエラルキーの中でもトップの存在だからか、余裕があるのでしょうか。ライオンやユキヒョウの子どもが口角を上げて微笑んでいるように見えるショットも。
澄んだまなざしのネコ科の子どもたちの写真を見ると、不思議な感動で胸が熱くなってきます。こんな表情を撮影できるのは、動物たちに心を許されている証拠です。
爪とぎをするライオンの父娘(写真集『ほぼねこ』より/写真:RIKU)
宇都宮動物園での撮影に同行!
宇都宮動物園で暮らすシラナミお母さんと、向かって左がアイカちゃん、右がイオリちゃん(写真:RIKU)
いったいどんな風に撮影しているのか気になったので、ある週末にRIKUさんに同行させていただきました。辰巳出版の担当の方と一緒に、RIKUさんが頻繁に行かれているという宇都宮動物園へ。
駅からバスで30分という立地ですが、何時間もかけて通われるとは、ネコ科への愛がないとできません。ここにはホワイトタイガー(ベンガルトラの白変種)の親子がいます。
お昼前に動物園に着いて、さっそくホワイトタイガーの檻の前へ。2012年生まれのお母さん、シラナミと、23年10月に生まれた双子のアイカとイオリが暮らしています。子ども同士がじゃれ合う横で、お母さんが骨をかじっていて、来場者のことを気にしていない様子でした。
ホワイトタイガーは人気なのでたくさんの人が見守っていましたが、その中にさり気なくRIKUさんもいらっしゃいました。ホワイトタイガーの公開開始の時間にはすでに到着し、もうひととおり撮影したそうです。
動物に警戒されることはなさそうな温和な雰囲気の男性でした。ネコ科好き同士なのか、周りの人とも顔見知り風でした。そういえば、以前取材した『毎日パンダ』の高氏貴博さんも優しい雰囲気で、上野動物園ではマダムによく声をかけられていたことを思い出します。
本格的なカメラを持っているマニアの方は意外と女性が多いです。高氏さんは限られたパンダ見学時間の中、肉眼でほとんどパンダを見ずにシャッターを押し続けていたのが印象的でしたが、RIKUさんの推し動物はゆったり見られるので撮影も余裕があるようです。
あざといポーズのアイカちゃん(写真:RIKU)
「アイカちゃんは目がパッチリしてアニキン系の顔ですね。イオリちゃんはお父さんに似て面長です」と、素人にはわからない専門用語で語るRIKUさん。お母さんのシラナミは伊豆アニマルキングダム(アニキン)出身で、美形の遺伝子を受け継いでいるそうです。
「アイカちゃんは甘えん坊でお母さんにまとわりついている。おてんばな性格です。イオリちゃんはマイペースですね。気が強くて食いしん坊です」
いかにもマイペースそうなイオリちゃん(写真:RIKU)
RIKUさんはホワイトタイガーの子どもたちの性格を飼育員さん級に把握していました。お父さんは別の檻にいて、子育てはお母さんのワンオペだそうです。
「トラのお母さんは、子どもをよくなめてあげたり面倒見良いですよ」
シラナミは軽く吠え声を上げながら歩き回っています。子どもたちに何か説教でもしているのでしょうか。
RIKUさんは何度も宇都宮動物園に来ていて、他の動物はほとんど見ていないとか。
「ここにはホワイトタイガーが見たくて来ているので、14時30分の展示終了までずっといます」(※展示時間は宇都宮動物園のホームページで確認してください)
全国各地に推しのネコ科がいて、それぞれ年に何回も訪れて撮影しているそうです。
「どの動物園にも好きな個体がいますね。旭山動物園にはユキヒョウのユーリが、いしかわ動物園にはユキヒョウのヒメルがいます。浜松市動物園のアムールトラのきょうだいもかわいいです。上野動物園のスマトラトラのミンピが3頭の赤ちゃんを産んだので、公開されたら見に行きたいです。とべ動物園でもジャガーの赤ちゃんが生まれたので行ってみようかと......。親子でいる姿がかわいいです」
ネコ科の赤ちゃんの情報を網羅しているRIKUさん。RIKUさんのSNSをチェックすれば、どこに行けばネコ科の赤ちゃんと会えるかわかります。周りのネコ科マニアの方々も同様に全国を回って、時には海外にまで遠征し、推し動物に会いに行っているとか。動物側に認識されていると良いのですが......。
「名前を呼んだらしっぽを上げて反応してくれる場合もあるそうですよ。僕は声を出すのはちょっと......大きいカメラを持っているだけでも浮くんで、これ以上は......」
RIKUさんは目立たないように、動物たちと適度な距離感を保っています。ネコ科への畏敬の念を感じます。
ほほえむような表情のユキヒョウの子ども(写真集『ほぼねこ』より/写真:RIKU)
多い時は1日で1万枚撮影することも...
トラのヘソ天(写真集『ほぼねこ』より/写真:RIKU)
「大谷翔平の結婚のニュースで世間が盛り上がっていた時も、北海道の円山動物園でオスと思われていたライオンが、実はメスだった、というニュースの方が自分にとってよっぽど重大でした」と、優先順位はネコ科ファースト。
ふと、訪れた動物園でユキヒョウやトラと出会い、魅力に目覚め、そこからネコ科全般が好きになったことが撮影を始めたきっかけだそうです。
普段は会社員をしていて、「毎週土日は必ずどっか行ってます」とのことで、交通費が毎月すごい金額に。最近は宿泊費も値上がりしているのが悩みどころです。さらにカメラのレンズも高額で、メモリーカードやHD代もバカになりません。入場料は年パスがお得だとのこと。
「多い時は1日で1万枚くらい撮影していますね。最近1TBのメモリーカードを買いました。写真を整理する気力がなくて、外付けHDをどんどん買って入れてます。30台くらいあります」
写真集、あと何十冊も出せそうです......。でも、動物たちに会いに行くとお金では換算できない喜びが得られるようです。先ほどからホワイトタイガーの家族を見ていると癒しのパワーが半端ないです。
「癒されますね。一日撮影してかわいいシーンが3.4枚くらい撮れたら満足です。ネコ科は表情豊かなのが魅力で、びっくりした顔や笑顔を見せてくれます。トラもいろいろな表情がありますが、よく舌をしまい忘れる子がいて......」
そんな話をしていると「かわいい~!」という叫びが聞こえてきました。ホワイトタイガーの子どもたちがお母さんに甘えているようです。会話して撮影を中断させてしまい失礼しました。
スッとカメラを構えるRIKUさん。一眼レフで撮影したホワイトタイガーの写真は......驚いたことに檻が写っていなくて、何にもさえぎられず、かわいい姿がよく見えます。それと比べて私がスマホやコンパクトなデジカメで撮った写真は「ほぼ檻」と言ってもいいくらい、檻で邪魔されて見えません。
「ほぼ檻」になってしまう(写真:辛酸なめ子)
「良いレンズでFの値を低くして撮ると、被写界深度が浅くなるので、手前の檻がぼやけて飛んで見えなくなるんです」
と、ハイレベルな技を教えてくださいました。動物園で激写している方々は距離が近いのに何でレンズが長い望遠で撮っているのかと思っていたら、手前の檻をボケさせるためだったんですね。
そうしているうちに、飼育員さんがプールに少し水を放出したのに興味を持ったアイカとイオリがおそるおそる近付いて見ている姿がまたかわいいです。ネコ科の一挙一動はずっと見ていられます。
ネコ科の魅力にハマっているRIKUさんですが、なんと飼っているのは猫ではなく犬! そしてペンネームも飼い犬の名前から来ているそうです。
もしかしたらネコ科の推し活と「ほぼねこ」撮影で、猫成分的には十分満たされているのかもしれません。猫を飼っている人だけでなく、事情があって飼えない人、検討中の人も、動物園で暮らす『ほぼねこ』たちを眺めれば、多幸感で満たされる......そんな効果をRIKUさん本人も体現しています。
「アニキン」こと伊豆アニマルキングダムのホワイトタイガーの赤ちゃん(写真集『ほぼねこ』より/写真:RIKU)
「アニキン」こと伊豆アニマルキングダムで撮影された運ばれる赤ちゃんホワイトタイガー(写真集『ほぼねこ』より/写真:RIKU)
【辛酸なめ子】
漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。著書に『電車のおじさん』『新・人間関係のルール』ほか多数。
【RIKU】
愛犬のミニチュアダックスフンドを飼い始めたことをきっかけに一眼カメラを購入。2016年に動物園でトラとユキヒョウを見て動物の美しさに感銘を受け、本格的に写真を撮り始める。会社員として働きながら、休日に日本全国の動物園に足を運び、主にネコ科動物を撮影。SNSを中心に作品を発表し、Instagram、Xなどの総フォロワー数は20万人を超える。
Instagram:riku_0710
X:@rikunow
【宇都宮動物園】
栃木県宇都宮市の北部に位置する「自然とどうぶつとこどもたち」のふれあいテーマパーク。動物との距離が近く、触れ合えることが魅力。ホワイトタイガーの赤ちゃんの公開時間はホームページで確認を。
栃木県宇都宮市上金井町552-2
https://utsunomiya-zoo.com/