経営は“年輪を重ねる”がごとく
2012年08月23日 公開 2024年12月16日 更新
長年、経営の第一線で活躍してきた伊那食品工業会長の塚越寛は、「性善説」に基づき経営をしてきたという。
企業が倒産に遭わずに、長く存続し続けるためにはどのような“哲学”が求められるのだろうか。
※本稿は、塚越寛 著『幸せになる生き方、働き方』より、一部内容を抜粋・編集したものです。
年輪経営に徹すべし
会社は永続してこそ価値があります。無理をすると倒産する危険性もあります。では、どのようにすれば会社を限りなく永続させられるようになるのでしょうか。
1つには、急成長を避け、毎年少しずつ成長していける形を築くことだと考えています。成長のスピードは遅くて構わないのです。むしろあえて低成長を維持するほうがいいでしょう。売上目標や利益目標を立てたりせず、前年をほんの少し上回る状態を守り続けることが重要です。
こうした経営のあり方を、私は「年輪経営」と呼んでいます。樹木が毎年1つずつ年輪を重ねていくように、わずかずつ、しかし前年よりも確実に成長していくのです。
伊那食品工業も、急成長を戒めながら、いいときも悪いときも無理をせず、自然体の経営を心がけてきました。そのおかげで、1958年から2005年まで、48年間連続で増収増益を継続できたのです。
その間に自己資本を充実させ、ほぼ無借金という「足腰の強い経営体質」をつくり上げることができました。
2006~8年は前年を下回ったのですが、それは2005年に寒天ブームが起こり、求めに応じてやむなく増産し急成長したからです。そのとき改めてブームに乗る恐ろしさを確認したものでした。
老舗の経営に学ぶ
会社の永続を目指していくためには、長い間暖簾を守り続けてきた『老舗』から学ぶ必要があると考えます。そこには一朝一夕では身につかない深い知恵が息づいているからです。
老舗は伝統を守り続けていますが、ただ単に昔ながらの方法や材料を守り続けているわけではありません。最先端の製造方法を取り入れ、新しい材料を試し、経営手法を改善するなど、常に変革を繰り返してきたはずです。
そうして何度も新しく生まれ変わることで、新しい時代に対応し、厳しい競争を乗り越えてきた結果、老舗と呼ばれるようになったのです。そこには「不易流行」の理念が根づいています。
私が思うに、老舗には次のような特徴があります。
〔1〕 無理な成長をしない。
〔2〕 安いというだけで仕入れ先を変えない。
〔3〕 人員整理をしない。
〔4〕 新しく、より良い生産方法・材料を採り入れる。
〔5〕 どうしたらお客様に喜ばれるかを常に考え続ける。
特に5番目は、昨今でいえばCS、つまり顧客満足ということです。CSとは決して目新しい考えではなく、古くから老舗が守り続けてきた信念であり、永続と繁盛の根拠であるといえます。