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養老孟司、「日本のリアル」 を考える―山と川に手を入れれば、漁業は復活する



2012年09月03日 公開

養老孟司 (解剖学者)

《 PHP新書 『日本のリアル 農業、漁業、林業、そして食卓を語り合う』 より》

 仕事とはなんだろう。大学に勤めている頃、よくそれを考えることがあった。

 大学での仕事はいわば抽象的で、たとえば早い話が、自分の給料と働きの関係がよくわからない。さんざん働いたからといって給料が増すわけでもなく、怠けたからといってとりあえず給料が減るわけでもない。そういう仕事をしていると、経済というものが具体的にはよく理解できない。

 そんな疑問を持ち続けて、人生の後半からは給料取りを辞めて、自分で働くようになった。それでもわからないのは相変わらずである。そういうなかで、一次産業に関わっている人の話を聞くと、たいへん興味深いことに気がついた。

 私の仕事とはまったく違うけれども、似た面もある。どこが似ているかというと、結局はお金とは直接には関係がないところである。もちろん田んぼを耕して、米を作って、それを売るなら経済だが、でもやっている人にはあまりそういうつもりがないらしい。その善し悪しはともかく、仕事に「入れ込んでいる」。研究も同じで、要するに入れ込むしかない。

 そういう仕事が本当の仕事じゃないか。そのうちそう思うようになった。もともと私は虫が好きで、虫を採っていれば幸せである。これはもちろんまったく経済にならない。不経済といえば、これほどの不経済はない。でも一次産業は虫探りとは違って、世の中の役に立つ。虫探りよりずっとすごいなあ。そう思うようになった。

 もう1つ、私は敗戦時に小学校2年生だった。この本『日本のリアル』の中でも話しているが、あの社会的な価値の転換を見てしまうと、モノに直接携わることの大切さがしみじみとわかる。モノに関わらないと、むしろ不安でしょうがない。お金のやりとりだけでは、自分が宙に浮くような気がする。その気分に拍車をかけているのは、インターネットの普及である。こういう時代に、モノに携わったり、ごくふつうの日常を研究している人に出会うと、ホッとする。そういう人たちを選んで、対談をさせてもらったのが本書になった。

 vs 岩村暢子:現代人の日常には、現実がない
 vs 岩澤信夫:田んぼには肥料も農薬もいらない
 vs 畠山重篤:山と川に手を入れれば、漁業は復活する
 vs 鋸谷 茂:「林学がない国」の森林を救う

 最初は岩村暢子さんで、この方の食卓の研究は、日本社会の変化を着実に見つめるという意味で、きわめて重要だと思った。食卓の変化だけを見ても、これだけのことがわかるのかという驚きがあった。1週間、食卓の写真をとり続けてもらうことで、見えてくることがたくさんある。これは事実の迫力というべきであろう。

 続いて農業では、不耕起栽培の岩澤信夫さんにお願いした。対談が済んで本書が出版されるまでの間に、残念ながら亡くなられてしまった。ご冥福を祈ると同時に、今年から私も及ばずながら不耕起の田んぼで、田植えのお手伝いをさせてもらうことにした。邪魔になるだけだと思うが。それからカキの養殖で有名な畠山重篤さんから、まだ津波の跡が痛々しい気仙沼のご自宅でお話をうかがった。最後に全国で間伐の指導をされている鋸谷茂さんに、林業全体のお話をうかがうことができた。

 まだまだお会いしたい人がたくさんある。でもとりあえずの印象を述べると、日本にはすばらしい人たちがいるということである。モノとのつきあい方について、日本の文化は優れた伝統を持っていることがわかる。これを絶やさず、将来につなげていく。本書がその一助になれば望外の幸いである。

☆第3章「山と川に手を入れれば、漁業は復活する」から一部をご紹介します☆

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