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「こんにちは」に“ございます”をつければ丁寧? 目上から愛される“敬語”の基本

梶原しげる(フリーアナウンサー/東京成徳大学客員教授)

2012年09月11日 公開 2022年12月26日 更新

梶原しげる

「こんにちは」「こんばんは」の敬語は?

さて、ここでもう1つ問題です。「おはようございます」と「こんにちは」「こんばんは」では、敬意に差があるのでしょうか。

「こんにちは」「こんばんは」はカジュアルすぎないかと気にする人がいます。

先ほど、放送・芸能業界では24時間いつでも「おはようございます」とあいさつするという実態をお話ししました。その理由を「いつ始まり、いつ終わるかわからない、はっきりとした時間的な区切りのなさ」で説明しました。しかし、実はそれだけではありません。

若いアルバイトが、偉いプロデューサーや、高名な役者さん(例えば高倉健さん)に対し、昼過ぎだからといって「こんにちはー」では、何となく敬意が足りなすぎる!と感じるものです。

その点「おはようございます」は「ございます」という敬語(丁寧語)がついていますから違和感がない、というのも大きなポイントだというのが私の見解です。

国立国語研究所が発行した『私たちと敬語』という小冊子にもこのことが書いてあります。

朝のあいさつは「おはようございます」と丁寧語の「ございます」がつくから、しかるべきところ、しかるべき相手に使いやすい。でも「こんにちは」「こんばんは」は馴れ馴れしすぎて、目上の人、きちんとした場面では使いにくい。

というのが研究員の見解です。私の推察もまんざらではありません。

その中ではこんなふうな解説も添えられています。

「こんにち(今日)は」の「は」、「こんばん(今晩)は」の「は」は、「AはB」の「は」と同じく「助詞」である。

もともとは「今日は+いいお天気でございますね」「今晩は+お寒うございますね」の、+以下が省略されて今の言い方になったと、言葉のルーツから解き明かしています。

ただ、そのうえで、一般国民からの意見、「『にんにちは』『こんばんは』にも『ございます』を付け加えたらどうか?」という提案には「ダメ!」と断言しています。

現在の共通語、「こんにちは」「こんばんは」を丁寧な形にすることはできません。「ありやありや」ですね。

ただ、この回答だけでは国民への配慮が足りないと反省したのか、「こんにちは」「こんばんは」を「丁寧にする」ヒントを挙げてくれています。

研究員が与えてくれたヒントの1つは、「こんばんは」に代えて、その日の軽い記述をあいさつ代わりに述べる、という方法です。

「日が暮れるとずいぶん寒くなりましたね」などがいいかも、というものです。しかしどうでしょう?「おはようございます」は誰にでも、どこででも、何度でも繰り返し使えますが、「日が暮れると~」は長々しいうえに、何度も同じことを言うのも馬鹿げている気がします。

要するに「こんばんは」に軽い記述を加えた形が、即座に「オールマイティーな丁寧表現」にはなりえないということです。

「こんにちは」については、そういうアドバイスさえありません。

どうしても「こんにちは」「こんばんは」を丁寧に言いたい場合はその言葉のルーツに戻って、「今日は」+「いいお天気ですね」「一雨きそうですね」「蒸しますね」 。

「今晩は」+「一段と冷えますね」「月がきれいですね」「気持ちのいい宵ですね」という具合に気候に軽く触れる程度を「です」「ます」「ございます」といった丁寧語で締めるひと言を添える。面倒ですが、この程度しかなさそうです。

さらには「言葉そのものにこだわらない」という方法もあるのではないでしょうか。私が何度も申し上げている、非言語重視の「態度的敬語」です。

あいさつすべき対象を見かけたら、ささっと近寄り「○○部長!」と声をかける。ここで口角を引き上げ、会えてよかった!と満面の笑顔のあと腰から上を15度前に倒し、ゆっくりと言うのです――「こんにちは」「こんばんは」。

一言ひと言、噛み締めるように。そして「こんにちは」「こんばんは」に続けて「いつもお元気そうで」「いい色に焼けてますね」「ストライプのシャツが素敵ですね」などのひと言を添える。 「名前・役職名」+「こんにちは・こんばんは」+「ひと言」という、前に紹介した「サンドイッチ方式」がいいかもしれません。

敬語=ごますり? いえ、敬語は、対人関係のスパイスとお考えください。

 

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