数学的知識は必須...「AIに仕事を奪われない人」に備わる共存力
2025年01月20日 公開
AIやロボティクスの進化によって、もはやAIを使うことは日常になりました。今後、事務職や製造業で働く派遣労働者はAIに仕事を奪われてしまうのでしょうか?
AI時代に求められる「AIと共存し能力を補い合うスキルを持った人材」について、20年以上にわたり人材ビジネス業界の変遷をウォッチし続ける株式会社オーピーエヌ代表取締役社長の水野臣介氏が解説します。
※本稿は、水野臣介著 『人材ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。
オフィス派遣とAIの脅威
皆さんご承知の通り、AIの進化により、オフィス業務の自動化がかなりのペースで進んでいます。多くのオフィス業務はAIにより効率化され、生産性が向上しました。
インターネットの検索画面には、AIが有用と判断した情報が提示されるようになっています。最近ではMicrosoft OfficeにもAIが搭載されました。そう、もはやAIを使うことが日常になったのです。
こうした進化に伴い、オフィス派遣の仕事内容も変化することが予想されます。
単純作業はAIに代替され、今後はAIと共存し能力を補い合うスキルを持った人材が求められていきます。
この記事では、AI時代におけるオフィス分野の人材派遣がどのように進化し、それに対してどのような心構えが必要かを探っていきます。
AIは、特にルーチンワーク(定型業務)の自動化において効果を発揮します。
例えばデータ入力、スケジュール管理、問い合わせ対応などは、AIを使うことでより迅速かつ正確に処理されるようになっていきます。
これまでは業務管理システムの中にあるデータベースをもとに、人の手を介して、連絡メールやデータ提供などがなされていました。Excelなどのデータを変換・加工して会社のシステムにインポートしたり、エクスポートしたりする作業は、かつて「PCスキル」とされていましたが、今後はAIによって代替されます。
それだけではありません。データ分析や予測モデルの作成、文書の作成などの業務もAIは自動化・効率化します。そういった作業をAIが担う時代が来るのであれば、人間はその時に備えて、別のスキルの勉強を始めなければいけません。
一方、AIでは対応が難しい業務、例えばアイデアや企画を考えるクリエイティブな仕事、人間関係を重視する業務は引き続き人間が担っていきます。このように、AIと人間の役割は補完関係にあり、適切な役割分担が必要となるのです。
AI時代に求められる人材
AI時代のオフィスでは、従来の人材派遣業務が大きく変化します。
単なる事務作業員ではなく、AIを活用できるスキルを持ち、デジタルリテラシーが高い人材が求められています。AIを導入することにより職場のシステムやネットワークの環境も変化していくため、柔軟に対応できる適応力も大切な要素です。
従来のオフィスワークはデータ入力や書類管理などの事務処理が中心でしたが、AIがそれらの業務を行うようになれば、今後は「AIツールの管理・運用」や「AIによって得られたデータの解釈・活用」といった新しいスキルが必要とされます。派遣社員はこれらを習得することで、企業の重要な戦力となります。
「じゃあ、いったい何を勉強すればいいの?」と突っ込みたくなりますよね。具体的に必要となるのは、プログラミングと基本的な数学の知識です。
AIや機械学習でよく使われるプログラミング言語は、AI・データサイエンス分野で最も使われている「Python」、統計学やデータ分析に強い「R」、データ抽出に役立つ「SQL」などです。AIは非常に幅広い分野ですが、基礎的な部分から段階的に学び進めるのが効果的です。
また、AIの管理には数学的な知識も必要です。深い理解は後回しにして、基本的な部分だけをおさえておくと良いでしょう。線形代数や確率・統計、微分・積分などの入門レベルの知識だけでも良いと思います。
オンラインでも、AIや機械学習を学べる無料・有料のコースがたくさんあります。初心者におすすめなのは「Learn with Google AI」。Googleが提供するAI学習リソースでは、機械学習の基本やTensorFlow(オープンソースの機械学習のソフトウェアライブラリ)を使った実践的なアプローチを学べます。
このように、必要なことをおさえておけば、少しずつAIに対する理解も深まります。
「AIと共存する人材」という視点で、スキルを身に付ける時代が来ています。
ロボティクスと製造派遣
ロボティクスとはロボット設計や制作、制御に関する研究分野で「ロボット工学」とも呼ばれます。
近年では、AIやIoTと連動し、製造業、医療・介護分野、農業をはじめ、さまざまな業種・業界にパラダイムシフトをもたらしています。
ロボティクスが急速な進化を続ける背景には、人手不足や人件費の高騰により、作業の自動化ニーズが高まったこと、それに伴ってロボットのスペックや作業能力が向上していったことがあります。AIやIoTの進化がロボティクスと結びつくことで、第4次産業革命が始まったという見方をする人もいます。
日本の少子高齢化は急速に進行しています。
不足する労働力を補うための政策として、特定技能などによる外国人労働の規制緩和や定年以降の就業、障がい者雇用の促進の他、就職氷河期世代の再就職支援の取り組みがあります。産業界におけるロボット導入もそのひとつです。
事務職に次いで派遣労働者が多い製造業に目を向けてみましょう。
「工場ロボット」は、人間の手に近い複雑な動作が可能で、製造の自動化に広く使われています。以前は人の作業を代行する「産業用ロボット」が主流でしたが、最近は人と一緒に作業をする「協働ロボット」が急速に進化しています。
初期の産業用ロボットは、1960年代にアメリカで開発されました。ユニメーション社が製造した「ユニメート」がその始まりとされています。
その後、産業用ロボットの市場は、KUKAやABB、ファナックなどの企業の参入により急速に拡大しました。ただし、当時の産業用ロボットは、工場内の柵で仕切られた専用エリアでのみ稼働することが許されており、人と連携して作業することができませんでした。
「協働ロボット」が開発されたのは、2000年代に入ってからです。
センサーが搭載され、作業エリアに人が近づくと自動停止するなどの安全確保がなされました。これにより人とロボットの協働が実現します。例えば、組立て作業では、大まかな作業はロボットが行い、調整作業は人間がするといった分業ができるようになりました。このことは、工場の作業効率を飛躍的に向上させました。協働ロボットを活用した生産ラインを構築することで、作業ミスを減らし、製品の質を一定に保つこともできます。
工場ロボットは、各メーカーが自社の強みを活かすことで独自に進化しており、今後もさらに多様で高度な自動化が進みそうです。
では、果たしてロボティクスは製造業で働く派遣労働者から仕事を奪うのでしょうか? とんでもない。製造業では約100万人の労働力が不足しています。その不足をカバーする新しい相棒として、ロボットが一緒に働く時代になったのです。
国内の製造業の現場では、約2万台の協働ロボットが導入され、すでに多くの派遣社員がロボットとともに作業をしています。今後はますます、ロボットとの協働にマッチした人材教育の推進が望まれるでしょう。