写真:小池彩子
テレビ番組「プレバト!!」(MBS/TBS系)の水彩画コーナーで大人気の絵の先生・野村重存さんは、「絵のセンスや才能がない」と思っている超初心者、さらにその前段階の初心者未満の人でも、「必ず上手な絵を描くことができる!」と語ります。本稿では絵の超初心者・Iさんが、"絵を描くときのベストな姿勢"と、"ものの輪郭の描き方"について教えてもらいました。
※本稿は、野村重存著『野村重存の世界一わかりやすい絵の授業』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
デッサンとは、1色だけで絵を描くこと
I:野村先生、「デッサンとは、1色だけで絵を描くこと」と学びましたが、ものすごく素朴な質問をしてもいいですか?
野村:どうぞ、どうぞ。
I:なんで1色なんですか? 色をつけてカラフルにしたほうが、よりリアルな絵になると思うんですが。
野村:なるほど。たとえば、夜明け前のIさんの部屋の様子を想像してみてください。真っ暗な部屋のなかに、ほんの少しだけ光がさしてきました。そのとき、部屋を見わたすと、なにが見えますか?
I:うーん......。まだまだ暗いので「あのあたりに、ものがあるな」ということが、ぼんやりわかるくらいでしょうか。
野村:ものの「輪郭」がなんとなくわかるくらいですよね。それじゃあ、もう少し時間がたって、部屋のなかの光の量が増えてきたらどうでしょう。
I:そうですね......。家具やもののかたちや大きさ、奥行きなんかが少しずつわかってくる感じでしょうか。
野村:光のあたる部分と暗い部分の違い、つまり「明暗」が見えてきて、ものの立体感がつかめるようになってきますよね。さらに光が増えて、朝日がのぼってきたら?
I:部屋全体がやっと見えてきますね。
野村:そうですね。家具やものの「色」も、そのときはじめてはっきり見えるはずです。
I:たしかに、色は最後に見えてくるかもしれません。
野村:それと同じように、絵を描いていくときも、①輪郭→②明暗→③色の順番に描いていくとスムーズなんです。まずは、1色でリアルに描けることが大切。色をつけるのは、次のステップと考えてみてください。
I:なるほど。そう考えると、あらためてデッサンは絵の土台、基礎だと納得できました。
絵を描くときのベストな姿勢

I:よーし、今日からりんごを題材にデッサンの練習ですね!
野村:はい! でも、ちょっと待ってください。その前に、まずは絵を描くときの姿勢を意識してみましょうか。
I:えっ、姿勢?
野村:今、Iさんの姿勢は、ノートに文字を書くときのように、前かがみで、テーブルのふちにしっかり腕をのせるかたちになっていますよね。
I:そうですね。これじゃダメですか?
野村:その姿勢だと、腕を動かしにくくて、手首から先くらいしか使えません。視野もせまくなりがちで、絵を描くのには適していないんです。なので、絵を描くときは、背筋をのばして、ひじから指先までを自由に動かせるように、腕を軽く浮かせてみましょう。
I:こうですか? なんだか不安定で、ちゃんと描けない感じが......。
野村:その不安定さがいいんです。デッサンは「最初からきちんと描かない」ことが大切なので。
I:えっ!? どういう意味ですか?
野村:まぁ、論より証拠です。実際にやりながら感覚をつかんでいきましょう。
最初からきちんと描かない

野村:それでは、いよいよ本題に入っていきましょう。今日は、絵を描くときの最初のステップ「型取り」をやっていきます。ものの輪郭を描くことですね。
I:いよいよ実践ですね。ワクワク!
野村:まずは、りんご1個がまるまるおさまるくらいの「枠」を、ざっくり描いていきましょう。上のような感じです。
I:本当に、ざっくりですね。この枠だけだと、これからなにを描くのか、まだよくわからないです。
野村:それでOKです。「この枠のなかに、これから絵を描いていきますよ」という「アタリ」の枠だと思ってください。枠を描くときのポイントは、力を入れずに、軽〜く、薄〜く、何本もの「直線」をサッサッサッと走らせることです。
I:りんごはまるいのに、直線で描くんですか......。はじめから曲線で描いちゃダメですか? 下のような感じで。

野村:その曲線で、りんごをさわったときの、いびつでゴツゴツした感じを正確に表現できるでしょうか?
I:うーん......。
野村:人工物ではない自然のものって、とても複雑なかたちをしているので、いきなり正確にかたちをとらえるのは無理なんです。だから、「最初からきちんと描かない」ことが大切で、まずはアタリの枠を描いて、そこから少しずつ削っていくようにしてかたちを整えていきます。
I:なるほど......。私、最初から完成形を描こうとしていました......。
野村:まずは、ざっくりでOKなんです。最初の大枠だけを描いてみましょう。
I:わかりました。直線で、ザッザッザッと。
野村:力を入れずに、もっと軽〜く、薄〜く、サッサッサッという感じです。あとで消せる線なので、気楽に、何本でも描きましょう。「この線、違ったかな?」とか「ずれたかな?」なんて思う必要もありません。
I:野村先生、私だけでしょうか......。実物のりんごを見れば見るほど、やっぱり曲線で描きたくなってしまうんですが......。
野村:わかります(笑)。それは、Iさんの頭のなかに「りんごは、こういうもの」という強い固定観念があるからですね。人間の脳には、見たものを「だいたい、こんなかたち」とシンプルに編集する力があるんです。日常生活で、複雑なかたちをいちいち正確に認識していたら、頭がパンクしてしまうので。
I:たしかに、どんなものも「だいたい」で把握しているかもしれません。
野村:日常生活をスムーズに送るには、そのほうがいいんです。でも、いざ絵を描くとなると、脳が単純化したかたちのままではリアルには描けません。
I:それじゃあ、どうすれば......?
野村:ずばり、実物を見すぎないことが大切です!
I:えっ!?
野村:対象物をよく観察して、はじめからきちんと描こうとすればするほど、細部に気をとられて、かえって全体像を見失ってしまうんです。特に、Iさんのような初心者は、頭のなかのイメージや視覚に引っぱられやすいので、よけいに。
I:なるほど。






