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社会

[感情労働] 体より、気持ちが疲れていませんか?

岸本裕紀子(エッセイスト)

2013年07月24日 公開 2022年12月22日 更新

岸本裕紀子

上司の立ち位置

最近の若者は、ブランド品や海外旅行、車などに興味を示さなくなったということで、一度、講義を受けもっている大学の女子学生に、

「ブランド品なんかには興味はないの? ○○のカバンとかほしいと思わない?」と聞いたことがありました。

「あまりありませんね。身につけている人を羨ましいとも感じないけれど、すごく似合っていたら素敵だな、とは思います」

見事な正論、恐れ入りました。「わあ、それ、○○でしょ。いいですね!」とブランド品というだけで、無条件にきゃあきゃあ憧れた私たち世代とは、大違いなのです。

それで思い出したのですが、今どきの若手社員は、部長というだけで、課長というだけでは尊敬しない、偉いとも思わないそうです。

「ただ年を取って勤続年数が長いというだけで、威張っていて、自分じゃあパワポも使えなければ、ストラテジーも立てられないような上司なんて、どうしようもないですよ」などと切り捨てます。

「それじゃ、どんな上司が理想なの?」と聞くと、「自分たちより、専門知識が豊富で、リーダーシップや交渉力があり、戦略的発想ができる、そんな上司ですかね」と言うのです。

昔から、凡庸な上司とできる部下という組み合わせはあったと思いますが、それでも上下関係はちゃんと成立していて、部下もそれなりに上司のいいところを見ていたし、上司には従っていたと思います。

ブランド品でもかっこよく着こなしている人は素敵だと認めるけれど、似合わないで持っているだけの人なんて認めない、というのと同じで、単に年長というだけで上司になっている人間に対しては、その正当性を認めないのです。

そういう人から指示されるのは仕方ないとしても、注意されたり、意見されたりするのは我慢ができないらしいのです。

ある若手社員が、上司から言われた企画書のたたき台を、完璧な形でまとめたのですが、それを見た上司が、「そこまで細かくやらなくてもよかったのにな」と言いました。その途端、その若手社員はキレて、席を外してしまったそうです。

上司にしてみれば、「よくやってくれたのはわかるけれど、この企画書はたたき台なわけだし、そんなに無理しなくてもいいよ」くらいのつもりだったのでしょう。

が、真面目な社員は、上司をはじめ周囲の人間に対して、自分のように完璧さを求めない仕事の仕方や、予想していた(すごいじゃないか!)のと違ったリアクションに怒りを覚えたようなのです。

30代半ばから下の就職氷河期の若手社員からすると、バブル期入社の先輩や上司は、ただ漫然と会社員生活を送ってきたように映るといいます。

「呑気な時代だったからかもしれませんが、あの人たちは、1人ひとりが専門性や独創性をもって仕事のクオリティを高めるというよりは、上司への『よいしょ!』を含めた社内での調整力、組織への適応力なんかでここまでやってきたのではないかと思うのです。だとすると、私たちのお手本にはならないですよ」

時代が変われば、求められる素質も異なります。先輩や上司は、若者たちが目指すべきものをもってはいないし、働き方に対する姿勢や価値観が違うのは、ある意味、仕方がないことなのです。

おそらく、上司も若手社員のそんな視線には何となく気づいているのだと思います。自分たち上司をバブル期入社の甘い世代と見ていることを、です。金融機関に勤める45歳の次長が言いました。

「彼らに追い越されることは、15歳近く年が離れているので、あと5年くらいはないと思いますよ。でも、この関係はあんまり心地いいものじゃないですよね。彼らは彼らで、サバイバルの時代を生きていかなきゃならないから、力をつけようとするのは当然なんだけどね」

バブル全盛期、彼らが新入社員だったころ、上司や先輩に飲みに誘われて、自慢話を聞くのが日課のようでした。

しかし、自分たちの世代はそんな話はできないといいます。今の世代のように語学や資格を取るなどの努力はしていないまでも、それなりに頑張ってきたのに、それを甘いとか漫然と会社員生活を送ってきたと言われても...。

世代間のコミュニケーションのズレの問題は、ちょっとセンチメンタルな感情労働の例です。

 

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