
厚生労働省の報告によると「管理職に昇進したいと思わない」人は61%にのぼるといわれています。一方で、実際に社会や会社を動かしていくためには、管理職の仕事は必要です。
本稿では、日経クロスウーマンが行った調査、約3000人の現役管理職と管理職経験者に聞いた「これから管理職になる人へ 大事にしてほしい27のこと」について、「管理職を長年経験できてよかった」と仰る大正大学特任教授で元鳥取県知事、元総務大臣でもある片山善博さんに解説して頂きます。
※本稿は、片山善博著『管理職になる前に知っておきたかった50のこと』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。
健康に気を付ける
「健康第一」は「27のこと」の中で、私が2番目に大切だと考えている項目です。健康でなければ気分が晴れません。できるだけいい仕事をして、生活も楽しもうと思ったら、健康は必須です。
管理職だからといって「力尽きるまで働かなければいけない」というのはだめです。私が過去にそばで一緒に働いた、有名な政治家にはそういう人がいました。大変な事態が起きたときに職場に寝泊まりして家族の元に帰らなかったんです。
その人の目が日を追うごとにぎらぎらしてきてね。「今のままだと体を壊しますよ。リーダーは頑丈でなければいけないですから、早く家に帰ってください」と、周りに進言してもらって家に帰しました。
リーダーだからといって必要以上に自分を追い込んではいけないんです。部下がいたたまれなくなりますから。リーダーは常に心身ともに健康で、精神的にも時間的にも余裕がないといけません。徹夜同然でふらふらなリーダーに、部下は相談しにくいですよ。
睡眠や食事はちゃんと取ること。特に知事時代、私は健康を第一とし、夜更かしは一切しませんでした。毎朝6時頃に家を出て、近くの小高い山に登り、ウォーキングをかねて往復1時間程度歩いていました。
同じように歩いている人もいたので、朝のあいさつをして言葉を交わしてね。汗を流して朝からリフレッシュして職場に向かいました。管理職だからこそ、健康第一です。
今も1日1万歩を目標に歩いていて、大抵クリアしています。野菜を多く摂り、食品添加物が入っているものは避ける。ケーキなどの甘い物が大好きですが、糖質を多く取りすぎないように節制する。お酒も昔はずい分飲んでいた時期もありましたが、最近は飲まない、もしくは少量にする...など、食生活にも気を付けています。夜更かしもしません。
できるだけ残業しない
不要な残業は積極的にやめましょう。私はできるだけ自分も残業せず、部下の残業も減らすようにしました。
自治省で課長を務めていたとき、従来はみんな「国会待機」というのをやっていました。翌日の国会で、国会議員から自分が担当する分野に関して質問される場合に、大臣や局長の答弁書を事前に作らなくてはいけないんです。だから、議員からの質問が届くまで待機するのです。
でも、夜中まで待っても、結局、質問が来ないことがよくありました。いわゆる「空振り」です。日によって帰る時間は違いますが、待機した結果、職場を出るのが夜11時、12時になるのはざらでした。
これは本当に無駄でした。でも、空振りを避けることは可能だったんです。質問する予定の議員リストが、前日に発表されるので、それを見て勘を働かせれば「今夜は待機する必要はなさそうだ」と分かります。
ですから、私が課長になってから、待機の必要がなさそうな日は、連絡要員を1人だけ残して、「みんな解散」と言って自分も帰宅するようにしました。「万が一、質問が飛んで来たら自分のところに連絡をしてほしい。私が答弁書を書くから」と言ってね。もちろん連絡要員は当番制にしました。
こうして無意味な国会待機をなくしましたが、その後、いきなり質問が飛んできて困ったことは一度もありませんでした。周りの部署はみんな変わらず残っていましたけれどね。
残業しないようにすると、やはり自分も部下も楽になりますよ。多少リスクはありましたが、そうやってリスクを取ってでも、やったかいはありました。
遅くまで職場にいると、翌日の仕事がはかどりません。早く家に帰って、早く寝たほうが翌日の生産性は圧倒的に上がります。本当に忙しいのであれば、朝早く出社すればいいのです。
ちなみに、人間ドックには行きません。これだけ長い間生きていると、自分の健康状態は大体分かります。病院にもあまり行きません。風邪を引いても「数日で治るな」と経験則で分かりますから。
悩んだって、なるようにしかならない
正直に言うと、私にとって最後の管理職的な仕事だった知事を辞め、慶應義塾大学の教授になったときはほっとしました。「これからは自分のことに専念すればいい」と感じましてね。管理職の仕事は、それなりに大変だったんだと、そのときに初めて理解しました。
しかし、だからといって管理職時代を振り返って「嫌だった」「やらないほうがよかった」という思いは一切ありません。私にとって、かけがえのない充実した日々でした。
管理職時代の私の心の中はこんな感じでした。鳥取県知事のときは、台風が鳥取県地方に来ることが分かると、「梨の木が折れたりしないかな」「農家の被害はないかな」「道路が洪水で流されて交通を遮断しないか」...といった心配が膨らみました。救急車や消防車のサイレンが聞こえると、夜中でも「どこで何があったんだろう」と咄嗟に考えました。
一般の管理職と知事の仕事では、性質がやや違うところもあるかもしれませんが、例えば海運会社の管理職だったら、中東で紛争が起きたら「うちの船は大丈夫だろうか」と、気が気じゃないと思います。こんなふうに会社の経営者や幹部、管理職たちは、会社や組織、顧客などのことを常に考えているはずなんです。
しかし、実際に管理職の仕事をしていたときに、それが重荷に思えたり、緊張感に押しつぶされたりするといったことは一切ありませんでした。肩こりに悩んだこともありません。くよくよしたり悩んだりすると悪循環になりますから。
「悩んだって、なるようにしかならない」と、私はいつも思っています。自分がベストを尽くせば、なるものはなるし、ベストを尽くしても実現できないことはしょうがない、と。「こうしたら、ああなるだろうか」と、一応考えはしますが、悩んで夜眠れなくなるといった経験はありません。
緊張感やストレスをなくすには、自分1人でできる趣味を持つことをお勧めします。自宅で考え事をしていて行き詰まったときなど、1人でできる趣味があると、それが気分転換のきっかけになります。
私の趣味の1つは切手です。以前は切手をどんどん収集し、それを眺めるのが楽しみでしたが、今は「集めた切手をどうやって使うか」「楽器をモチーフにした切手は音楽好きのあの人宛ての手紙に貼ろうか」などと考えていると、ウキウキしてきます。少々のストレスなら、これだけですっきりします。