破傷風トキソイドワクチンが全国的に供給停止となっており、医療機関では注意を呼びかけています。「傷は小さくても、破傷風は命に関わります」そう語るのは、竹内内科小児科医院院長の五藤良将医師です。夏休みに入り、外遊びやスポーツでケガをしやすい季節に入った今、医療現場ではある破傷風に対する警戒感が強まっています。(写真はすべてイメージです。また本記事は2025年7月時点の状況をもとに執筆されたものです)
破傷風とは何か? 死にも至る危険な感染症

――破傷風とは、どのような病気なのでしょうか?
破傷風は、傷口から体内に入った破傷風菌が毒素を出し、神経を麻痺させてしまう感染症です。とくにテタノスパスミンという毒素は非常に強く、筋肉のこわばり、けいれん、重症化すると呼吸困難に陥り、死亡することもあります。
年間の患者数は100人前後と少ないものの、致死率は約30~40%。決して軽視できない病気です。
――破傷風菌の感染は、どういった経路で起きますか?
破傷風菌は土の中、動物の糞、古い木片など自然界に広く存在しています。表層10cmほどの土には、約半数の確率で存在しているともいわれていて、庭仕事、農作業、外遊びなどの些細なケガからでも感染する可能性があります。
――人から人には感染しないのですね?
はい。破傷風はヒトからヒトへの感染はありません。ですが、注意すべき例外として、新生児破傷風があります。これは、破傷風免疫を持たない母親が、衛生環境の整っていない状況で出産した場合などに、ごくまれに起きます。日本では非常に稀ですが、発症すれば致死率は7割を超えます。
どんな傷が危険?リスクの高い傷の特徴と応急処置
――どのような傷が破傷風のリスクになるのでしょうか?
次のような条件があるとリスクが高まります。
・傷を負ってから6時間以上経っている
・傷が1cm以上と深い
・組織の損傷がある、異物が残っている
破傷風菌は酸素のない環境を好むため、深くて閉じた傷ほど危険です。ただ、小さな擦り傷でも土や糞などがついたまま放置すると発症の可能性があるので、油断は禁物です。
――「釘を踏んだときなどは、血を出したほうがいい」と聞くことがありますが、本当ですか?
はい、ある程度は正しい考え方です。というのも、体に刺さった異物を無理に押し込まず、少しでも体外に押し出すように出血させることで、傷口に入った菌や異物を一緒に排出する効果が期待できます。
ただし、出血させれば十分というわけではなく、傷口の洗浄と異物の除去が重要です。破傷風菌は嫌気性菌なので、傷の奥に残った異物が菌の温床になってしまいます。
トキソイドワクチン接種歴が明確でない場合には、傷の治療と同時に抗破傷風免疫グロブリン(TIG)の投与が推奨されますので、傷の大小に関係なく、医療機関で診てもらうのが安心です。
破傷風の症状進行と特徴的な症状
――破傷風の症状はどう進行しますか?
大きく4段階に分かれます。
・第1期(潜伏期):ケガから7~21日で発症。開口障害(口が開けにくい)や嚥下障害などが出ます。のど風邪に似ているが、痛みがないのが特徴です。
・第2期:顔が引きつる痙笑や、筋肉のこわばりが強くなります。
・第3期:全身のけいれん、高熱、不整脈、後弓反張(体が反る)など、命に関わる症状が出る重症期です。
・第4期:回復期ですが、筋肉の硬直や神経反射がしばらく残ることもあります。
――破傷風になると、光や音にも敏感になると聞きますがどんな症状ですか?
はい、重症期には光や音、振動といった刺激がけいれんの引き金になります。しかも、患者さんの意識ははっきりしているので、痙攣のたびに強烈な痛みを感じる。とても苦しい状態です。そのため、治療時には暗室で安静にし、刺激を最小限に抑える必要があります。
ワクチン不足の現状と対策方法
――そして今、その予防策であるワクチンが不足しているのですね
そうなんです。破傷風の予防に使う破傷風トキソイドワクチンが現在、製造元の都合で全国的に供給停止となっていて、医療機関への納入が止まっています。
通常なら、ケガをしたときに予防的に接種できるのですが、今はそれが困難。特に免疫歴が不明な方、接種が未完了な方に対する対応が難しくなっています。
――ワクチンを打てない今、どうすればよいでしょう?
一番大切なのは傷の管理と早期受診です。泥や糞、砂が触れた傷は、小さくても必ず洗浄し、異物が残っていないか確認しましょう。
ワクチンが使えない場合でも、抗破傷風免疫グロブリンの投与や、抗菌薬、外科的処置によって発症を防ぐことが可能です。『大丈夫だろう』と放置せず、すぐに医療機関を受診してほしいですね。
破傷風は、めったにかからない病気に思えるかもしれませんが、感染すれば命に関わる病気です。ワクチンが不足している今だからこそ、一人ひとりが意識することが大切。外でケガをしたら、まず流水でしっかり洗う。迷ったら受診する。それだけで大きく防げる病気です。
――未接種の場合には接種を検討すべきですか?
ワクチンの供給が再開されたら、未接種の方や10年以上経過している方は、ぜひ接種を検討してほしいと思います。日本では、3種混合(DPT)ワクチンとして3回の初回接種+追加2回、その後10年ごとの追加接種が推奨されています。お近くの医療機関に相談するとよいでしょう。






