[上司のNG行動]叱咤激励とパワハラは紙一重
2012年12月21日 公開 2024年12月16日 更新
《PHPビジネス新書 『上司がしてはいけない40のタブー』より》
上司の一挙手一投足が部下に与える影響は計り知れない
本書のタイトルは『上司がしてはいけない40のタブー』となっていますが、決して、みなさんのマネジメントを萎縮させようとする内容ではありません。
むしろ、タブーとされるマネジメントと、よりよきマネジメントを対比させることで、一層のよきマネジメントを心がけていきましょうという、上司のみなさんにエールをおくる趣旨となっています。
マネジメント(management)とは、「物事にうまく対応すること」でもあります。
自分自身を上手くコントロールすることは自己管理です。部下を上手に育てることは人事労務管理などの領域です。
本書では、自己管理と人事労務管理の視点を踏まえたものになっています。
自己管理においては、上位職になればなるほど、誰かからうるさく言われることはなくなります。
したがって、偏ったものの見方や考え方があれば、自分で気づき、素直に直すという内省のあり方を示しました。
また、人事労務管理においては、私自身がマネジメントされる側、あるいはマネジメントをする側の立場で経験したことや、これまでのコンサルティング活動などで見てきたマネジメントのあり方を示しました。
加えて、今日のマネジメントでは必要不可欠な要素となっている、コンプライアンスの視点も加味しています。
コンプライアンスで求められる行動とは、決して法令遵守だけではないことの共有とともに、上司自身の自己管理として自分を戒めるための視点です。
自分自身の頭の中に思考回路を持って、自己管理をしていこうという意図もくみ取っていただければ幸いです。
さて、これから示す40のタブーは、実際の現場でよく見かけるような身近な事例をもとに作成 しました。事例は、公私混同編、セクシャル・ハラスメント編、パワー・ハラスメント編、指示命令編の4つに分類し、解説を加えています。
誰にでもわかりやすく理解できる内容になっていますので、気軽に上司としてのスキルを身につけていきましょう。
☆ ここでは、パワーハラスメント編から、2つの事例をご紹介します。
部下の話を無視する、打ち合わせの場に入れない
【事例】
上司Aさんと部下Bさんの日常業務の風景です。
部下Bさん「Aさん。○○会社の案件について、ご報告したいことがありますので、ご都合の良い時にお時間をとっていただけませんでしょうか」
Aさん(部下Bさんに話しかけられると、イスをくるりとさせて、背を向けます)
部下Bさん「……それでは、また後で伺います」
(数時間後、再び部下BさんがAさんのデスクに向かいます)
部下Bさん「Aさん。お忙しい中、申し訳ございません。○○会社の案件について、ご報告したいことがあるのですが……」
Aさん(部下Bさんに話しかけられると、今度は、他の書類に目を落として無視します)
部下Bさん「……それでは、また後で伺います」
(Bさんが席に戻ろうとすると)
Aさん「さてと、ちょっとみんな聞いてくれ。昨日の本店での会議内容を伝えたいから、僕のところに集まってもらえないか。すぐに終わるから。あ、B君は、特に関係がないから、自分の席に戻っていいから」
× 陰湿型のパワハラ
部下の話を一切無視する、打ち合わせの場に入れないなどは、部下を育成するマネジメントの視点からも疑問符がつきます。
こうした行為は、暴力や暴言などのハラスメントとは違いますが、同じように相手の心を傷つける、人権を尊重しない行為です。
真綿で首を絞めるような除湿型のパワハラにあたります。具体的には、顧客を取り上げる、事務用品を使わせないなど、部下の意欲を萎縮させるタイプです。
また、相応な仕事を与えない、理由をいわずに同じ仕事を何度もやり直しさせる、必要な情報を知らせないなども、この部類に入るでしょう。
厳しいことをいわなければパワハラではない、言葉使いが丁寧であればパワハラではない、手を出さなければパワバラではない、などの考え方は間違いです。
くるりと背を向けるなどの態度、「チエッ」と舌打ちをするなどの表情ひとつでも、相手を威圧する、傷つけるなど、その人や周囲の人に精神的な苦痛を与えることもあるのです。
○ 感情に流されない度量を持つ
上司といえども人間です。部下の好き嫌いや肌が合う合わないはあります。
しかし、自分の感情にまかせた好き嫌いを中心にしたマネジメント、自分の感覚だけに頼る肌が合う合わないだけのマネジメントは、職場でものをいえない雰囲気をづくり、イエスマンを生む土壌にもなります。
「下手なことをやったら、仲間外れにされるんだな。気をつけないとな」「Aさんに逆らったら、この職場では生きてはいけないな。はい、はいって言っておけばいいんだな」
当然、知らず知らずのうちに人心も離れていきます。
また、部下もひとりの人間です。当然、良い所もあれば悪い所もあります。その良い所、悪い所を踏まえて育成するのが上司の役目です。
そして、どんな人でも、同じ方向、目的に向かわせて仕事を進めることが、マネジメントでは求められています。
上司が「おれの方を向いて仕事をしろ」ではありません。「同じ職場で働く仲間として、同じ方向を向いて、同じ目的に向かって、お互いを尊重し合いながら仕事を進めていこう」です。
そして、いま部下がやっていることは、これまで自分が通ってきた道でもあります。
まずは、部下のいったこと、やったことを受けいれる。部下の良い所、悪い所を広くおおらかな心でとらえてマネジメントをすることです。
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