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[日本企業の実力]真の強みは重工業と素材・部品

長谷川慶太郎(国際エコノミスト)

2013年03月22日 公開 2022年12月15日 更新

家電は衰退しても、素材・部品は日本の独壇場

すでに、日本企業がテレビやビデオといった技術で儲ける時代は終わったが、世界がほしがる生産素材を開発して提供していくかぎり、日本企業が生き残り、繁栄する道はいくらでもある。

もともと家電技術というのは、それほど高度な技術力を必要としていない。現在のデジタル製品は、パーツを買ってきて組み立てるだけでできてしまう。また、自動車や鉄道システムのように、命を守る高度な安全技術が必要なわけでもない。家電やデジタル機器は、発熱や発火を防止できれば、おおよその安全は確保できる。産業用の製造装置のような、寸分の狂いもない高度な品質も要求されない。

家電技術自体は、それほど高度な技術ではないから、韓国でも、台湾でも、中国でも、すぐにマネができる。

日本の技術力の真の強みは、重工業と素材・部品にある。組み立て技術でできる家電製品と違い、素材・部品技術は、ただでさえ追いつくのが難しいことに加えて、日本企業はこの分野にもっとも多くの研究開発費を投じている。ますます、世界を引き離しているのが実情だ。

素材・部品分野が強みをもっているのは、日本の完成品メーカーが、部品メーカーや素材メーカーをたんなる下請け扱いせず、よりすぐれた部品をつくってもらうために、パートナーとして共同で開発しようとしているからである。

たとえば自動車の場合、ボディを形成する薄板が必要になる。軽くて頑丈な薄板をつくれば、燃費もよくなり、安全性も高まる。トヨタは新日鐡(現・新日鐡住金)と共同で研究を行ない、情報交換をすることで、世界最高の薄板を完成させた。トヨタと新日鐡との共同開発製品である。この共同開発の姿勢があるからこそ、日本の素材は最終製品に最適になるように、きわめて高い品質のものがつくられる。

同様のことは、アパレルでも起こっている。

ユニクロは、東レと共同で素材開発を行なっている。ユニクロは、どういう製品を、どのくらいの量がほしいかということを東レに伝え、一緒になって考える。東レの側は、ユニクロからまとまった注文が得られるので、さまざまなアイデアを出し、素材の開発を本気になって行なう。

素材ができあがると、ユニクロはそれを海外に持っていって、低コストで加工、縫製する。その結果、安くて品質のすぐれた製品ができ、「ヒートテック」などの世に知られたヒット商品に結びついている。

日本では多くの業界で、素材や部品のメーカーと最終製品のメーカーが共同で開発を続けているから、ニーズのある品質の高い素材・部品ができあがる。世界のどの企業も、そういう素材・部品をほしがるわけである。

世界最高品質の素材・部品であるから、価格競争にも巻き込まれない。一定の利益を乗せて、収益を確保できる。それをさらなる研究開発に回すという好循環が生まれている。

自社でしかつくれない素材・部品をもっている会社は、円高になっても恐れることがない。そのぶんを価格に転嫁するだけである。

円高になって、家電メーカーは、韓国、台湾の企業に勝てなくなったが、韓国、台湾企業は、日本の素材・部品を使わざるを得ないので、彼らが利益を挙げれば、日本の素材・部品メーカーも利益を挙げられる。

そのような構図であるから、韓国のサムスンが世界で製品を売りまくり、利益を挙げれば挙げるほど、日本からの部品の輸出が増え、対韓国の日本の貿易黒字が増えていく。

 

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日本の真の強みは、重工業と素材・部品にあり

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