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[日本企業の実力]真の強みは重工業と素材・部品

長谷川慶太郎(国際エコノミスト)

2013年03月22日 公開 2022年12月15日 更新

日本の真の強みは、重工業と素材・部品にあり

韓国「ポスコ」の高性能鋼板技術をめぐって、新日鐡住金が1000億円の損害賠償と高性能鋼板の製造・販売差し止めを求めて訴訟を起こしている。新日鐡側は、ポスコが新日鐡のOBから不正に技術を取得したとしている。訴訟の行方はわからないが、定年退職組が韓国に技術を流出させた可能性は高い。

しかし遡ってみれば、ポスコはもともと、新日鐡など日本の技術によってつくられた会社である。

ポスコ初代社長のパク・アジュン(朴泰俊)と私は面識がある。彼は日本の陸軍士官学校を卒業して、韓国で少将まで務めた軍人である。陸軍を退役した矢先に、大統領から呼び出しを受け、日本からの賠償で製鉄会社をつくることになったので、その責任者になってくれるように依頼されたという。彼は、「自分は軍人であり、腰が抜けるほどビックリした」と当時のことを話していた。

彼は鉄のことなど何も知らないので、断ろうとしたところ、大統領から「東京にすぐに行って、八幡製鐡(現・新日鐡住金)の稲山嘉寛社長(当時)に会うように」といわれた。稲山氏に会うと、その後は稲山氏が全面的に取り仕切り、すべての面倒をみて、ポスコを設立したのである。

ポスコの基盤をつくったのは、もともと新日鐡の技術である。また、前述したように、サムスン重工業に造船技術を教え、全面的に面倒をみたのは、石川島播磨重工業である。その他の業界でも、日本企業が韓国、台湾、中国の企業に技術指導をした分野は数えきれないほどある。

現在では、韓国、台湾企業に追いつかれ、追い越された分野もある。だが、もともと日本が技術指導して産業が発展した国々であるから、指導した側の日本とは技術の厚みが違う。

笑い話のようなものであるが、ある韓国人によれば、ソウルの漢江に架かっている27本の橋のうち、信頼できる橋は2本だけだという。その2本は、いずれも戦前に日本がつくったものである。1本は国道1号線であり、もう1本は戦前に日本が物資を運ぶために架けた鉄道路線だ。この2本の橋は、韓国人から非常に信頼されているという。

韓国人にとって、戦後に急成長した自国の技術にはどこか信頼を置けない面があるが、日本人はいつの時代でもけっして手を抜かないから信頼できるのだそうだ。

日本の技術の蓄積は、戦後に始まったものではない。明治以降、百何十年間、ずっと続けてきたものである。韓国や中国が太刀打ちできない技術を日本はたくさんもっているのだから、それを活かしていけばいい。

 

長谷川慶太郎(はせがわ・けいたろう)

国際エコノミスト。1927年、京都府生まれ。53年、大阪大学工学部卒。新聞記者、雑誌編集者、証券アナリストを経て、63年に独立。83年、『世界が日本を見倣う日』で第3回石橋湛山賞を受賞。86年、『日本はこう変わる』(徳間書店)で大きく転換発展する日本経済を描き、ベストセラーに。近著に『シェールガス革命で世界は激変する』(共著/東洋経済新報社)『2013年長谷川慶太郎の大局を読む』(ビジネス杜)などがある。

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