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「大人」になった日本政府のTPPをめぐる試算

原田泰(早稲田大学政治経済学部教授/東京財団上席研究員)

2013年03月26日 公開 2023年02月01日 更新

政府統一試算を発表した意味

これまでバラバラに示されていた数字が、政府統一見解として示されたことには大きな意味がある。政府としてTPPへの交渉参加を決めた訳であるから、当然に統一的な考え方に基づいた数字が必要である。バラバラな数字は議論のたたき台としては良いが、決めるときにはバラバラな数字ではまずい。

もっとも、前述のように、農林水産業の数字には疑問があり、経済全体のGDPの増加額の数字との関係がよく分からない。しかし、ともかく、統一の数字を作って、政府が参加するための形を政治的に整えたということであろう。

また、農業部門の生産減が3兆円ということは、これに対してどの程度の予算を使って手当するかという数字を示唆したものとなる。私の試算の1兆円では、十分な予算を取るのに足りない。生産減を大きく推計しなければ予算を取れないと考えて作った数字でもあるだろう。

政治的意味を含んだ「大人の数字」が、政府統一試算として発表されたということである。農林水産部門の生産減を大きく見る、すなわち、より多くの予算で手当てするから安心せよとのメッセージを込めて、TPP交渉に参加するという宣言である。

 

原田 泰

(はらだ・ゆたか)

早稲田大学政治経済学部教授、東京財団上席研究員

1950年生まれ。1974年東京大学農学部を卒業、同年経済企画庁に入庁。経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て、2011年より東京財団上席研究員。
著書『日本国の原則』(日本経済新聞出版社、現在は日経ビジネス人文庫に所収)で石橋湛山賞を受賞。2012年より早稲田大学政治経済学部教授。

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