岩田規久男・増税する前に名目成長率を上げよ
2013年03月29日 公開 2022年12月08日 更新
《 『リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済』より》
なぜ消費税増税が必要なのか
2013年1月から復興特別所得税が適用されます。2037年までと、長期にわたって課税されるもので、通常の所得税に2.1%が上乗せされます。
また、2014年の4月からは消費税率が8%、つまり3ポイントの増税になり、さらに2015年10月からは10%になります。
消費税に関しては、社会保障の財源だとされています。たとえば基礎年金は、今でも国庫負担をしていますが、その財源不足を補うために消費税が増税されるわけです。
ただし、そう言われているだけで、消費税の使い道がきちんと決まっているわけではありません。
すでに2009年から基礎年金の国庫負担が、それまでの3分の1から2分の1に引き上げられており、保険料収入では年金給付、特に国民年金が賄えない状況になっています。つまり、すでに国庫からお金が投入されているものの、このままでは年金をはじめとする社会保障費が足りなくなるので消費税増税が必要だというわけです。
名目成長率はインフレ目標政策で上げられる
社会保障費を考えた場合、年金の未納問題を解決することが先決です。また、それと同時に名目成長率を上げることが重要です。
名目成長率が上がれば保険料収入も増えます。つまり、所得が増えるにつれて、保険料収入も増えます。
名目成長率を上げるためには、インフレ目標政策が効果的です。名目成長率は最低で3%、できれば4%程度上がるのが理想的です。
一部には、「金融緩和で市中にお金を流すといっても、実際に流れない」という主張もあります。
しかし、インフレ予想さえ出てくれば、それだけで効果があります。日銀がマネタリーべースをインフレ率が安定的に2%に上がるまで増やすことを表明すれば、インフレ予想が生まれます。
それは、将来、貸し出しや銀行の証券投資などが増え、それに伴って貨幣供給が増えるだろう、と投資家が予想するからです。
その結果、何が起こるかといえば、まず株価が上がります。投資家はインフレ予想に反応して株式にお金を使うからです。また、インフレが予想されると円の購買力が減りますから、外貨預金にしたほうが得だということになり、その結果、円安になります。
円安や株価の上昇が起こると、企業は余っているお金を生産の拡大や設備投資に回し始めます。バランスシートもよくなりますから設備投資が可能になり、また、リスクもとりやすいので積極的な経営を行なうようになります。
さらに、輸出も伸びますから、生産が増え、所得も増えます。それによって、消費も増え、やがて供給が追いつかなくなると物価が上がり始めます。そのときになって、一般の人もこれからはインフレになると気づくわけです。
現在(2013年3月)、企業も投資家たちもお金をたくさん持っています。そのため、銀行からお金を貸し出してもらう必要はありません。銀行が貸し出しや証券投資を増やさない限り、市場全体のお金は増えませんが、それでもかまわないということです。
しかし、一般の人には、日銀のやっていることを理解できません。銀行の貸し出しが増えませんから、実体経済には何も影響を与えていないと感じることでしょう。そして、それが、もう15年も続いているわけです。
インフレ期待で何が起こるか
一般の人には、なかなか理解しにくいインフレ期待ですが、ひとたび広まると一気に期待が膨らみます。たとえば「バレンタインショック」や「安倍ショック」のように、株価がポーンと上がります。
「バレンタインショック」や「安倍ショック」で、株価は上がりましたし、円安にもなりました。
ところが、「バレンタインショック」のときには、日銀が「2015年になっても、やはりデフレが続く」と言うものですから、インフレ期待はしぼんでしまいました。
つまり、「日銀にはデフレ脱却の強い意思がない」と思われてしまうと、せっかくのチャンスを逃してしまい、元の木阿弥になってしまうということです。
一方、2012年12月中旬現在、円安になっているのは、「自民党の安倍総理ならインフレ目標政策を実施するに違いない」と投資家たちが読んでいるからでしょう。
我々は、テレビやラジオのニュースを見聞きしても、新聞や雑誌を読んだとしても、なかなか気がつきませんが、投資家は景気の動向や経済政策に非常に敏感な嗅覚をもっています。どこかで、すごいエネルギーが開発されたとか、新しい薬が研究されているといった情報をキャッチすると、必ずそういう会社の株価は上がります。
ところが普通の人は、後になってから「あっ、そうだったのか」と気づきますから、およそ「先物買い」とは緑がありません。
それでも、少しずつ上がっていることに気づくと、「まだまだ上がるのではないか……」と思って、後追いで買うようになります。
実は、それでも一向にかまいません。なぜなら、そうした動きが徐々に広まり、社会全体に浸透していけば、市況が活発になるからです。すると、やがて市場の貨幣が不足しますから、銀行の貸し出しに頼むことになります。
しかし、デフレが続いている限りは、銀行は国債を買うことくらいしかできません。つまり、いつまでたっても貸し出しが伸びないということです。これは、銀行本来の仕事をしていないということになります。