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「母子家庭の子はヤンキーになる」と言われ “ギャルママと娘”を描いた物語が抗う偏見

PHPオンライン編集部

2026年06月05日 公開


装画:しらこ

最新作『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』で、シングルマザーの家庭や貧困、思春期の葛藤を真っ正面から描いた福木はるさん。

前作『ピーチとチョコレート』での「容姿への悩み」に続き、今作でも「周囲の目」や「属性による偏見」に縛られ、息苦しさを抱える子どもたちが登場します。なぜ福木さんは、厳しい現実を抱えた主人公たちを描き、そして「ハッピーな結末」にこだわるのでしょうか。

その背景には、福木さんご自身の経験がありました。生きづらさを抱える子どもたち、そしてかつて子どもだった大人たちへ贈る、YA小説の持つ可能性について伺いました。

 

当事者がエンパワーメントされる結末で描きたい

『ピーチとチョコレート』

――『ピーチとチョコレート』では体型に悩む萌々ちゃん、『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』では貧困の母子家庭に育ち、ギャルのママを恥ずかしいと感じているかふうちゃんが主人公です。2作品に共通して、周囲の目を気にする思春期の葛藤が描かれていますが、どのような思いでこのテーマを書かれたのでしょうか?

【福木】ティーンの時期って、それまで自分が世界の中心にいるような感覚で過ごしてきたのが、急に周りが見え始めて、「あれ、自分って大丈夫かな」と不安になる時期だと思うんです。

私も小学生の頃までは自然体でいられたのに、中学校に入ってからは「自分はここでどんな役割を求められているんだろう」と考えてしまうようになりました。でも、これは特別な体験ではなくて、一見明るく見える子たちも、それぞれに緊張感を抱えながら生きているはずなんですよね。だからこそ、その息苦しさを少しでもやわらげるような物語が必要だと思って書いています。

――『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』には、スナックのママやギャルのシングルマザーなど、偏見を持たれがちな大人たちも登場します。これにはどのような意図があるのですか?

【福木】これは自分の中にずっとある問題意識です。私も子どもの頃、「母子家庭の子はヤンキーになるんでしょ」といった言葉を投げかけられたことがあって。人はどうしても、見えている情報だけで他者を判断してしまう。その前提に揺さぶりをかけたいという思いがあります。

例えば『ピーチとチョコレート』の萌々のキャラクターでいえば、「太っている子」は内気か、あるいは自虐的に明るいか、というようにイメージが固定化されがちですよね。こうしたイメージは、メディアや物語の中で繰り返し再生産されてきた側面があると思いますし、その蓄積が当事者を傷つけてしまうことも少なくないと感じています。

特に若いシングルマザーに対するSNS上の言葉は厳しいものが多くて、その背景には映画などで描かれてきたイメージの影響もあるのではないかと思います。また、若いシングルマザーが登場する作品では、ラストが悲劇的に描かれることも多いですよね。ティーンの時期は、物語の中に自分の未来のヒントやロールモデルを見つけようとする時期でもあるので、「この環境に生まれた人はこういう結末になる」と無意識に刷り込まれてしまうと、とても息苦しくなる。

だからこそ、そうではない物語を、自分の手で少しずつ増やしていきたいんです。愛ちゃんのようなお母さんも、かふうのような子どもも、『ピーチとチョコレート』に登場するブラックミックスの莉愛のような子も、当事者が自分自身を肯定できるような結末で描きたい。そういう思いで書いています。

 

息苦しさを、物語を通して少しでもほぐしてあげられたら

『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』

――『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』には、理想的な家族のもとで暮らす杏ちゃんも登場します。一方で、彼女は中学受験のプレッシャーを抱え、「家族ガチャに失敗した」といった発言もしています。とても現代的な悩みだと感じましたが、今の子どもたちを取り巻く社会について、どのように見ていますか?

【福木】一度コースから外れたら取り返しがつかない、という感覚を、常に突きつけられているような気がしています。そのプレッシャーが、子どもにも親にも大きな負担になっているんじゃないかと思うんです。

多様性については、社会全体として少しずつアップデートされて、人に対しては寛容になってきているはずですが、その分、自分自身に対しては厳しくなっているのではないか、とも思います。

例えば、歌やダンスで成功したいなら、有名なチームに入らないとプロにはなれない、と子どもが考えてしまう。私は子どもの頃、安室奈美恵さんに憧れて家でずっと踊っていたんです(笑)。当時は、「誰でも夢を持っていいし、もしかしたら叶うかもしれない」という、どこか開かれた感覚がありました。

でも今は、SNSなどによって情報が可視化されすぎている分、現実的な条件が先に見えてしまい、以前よりも自由に夢を描きにくくなっているのではないかと感じています。

そうした息苦しさを、物語を通して少しでもやわらげることができたらと思っています。

 

ハッピーに生きるための「映画」

――『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』では、「ハッピーに生きるための3つのこと」の一つに「映画を見ること」が挙げられていますね。なぜ映画なのでしょう?

【福木】私も、母子家庭で育って、姉たちとも年齢が離れていたので、『女の子~』のかふうのように、遅くまで一人で家にいる時間が長かったんです。ビデオテープに録画した映画を、セリフを覚えるくらい何度も繰り返し見ていました。振り返ると、あの時間が自分を支えてくれていたんだと気づきました。

映画の中のちょっとした一言や、そこで味わった感情が、ふとした瞬間に自分を救ってくれることがある。小説に限らず、ドラマでも映画でもアニメでもバラエティでも、現実から少し離れて別の世界に没頭できる時間はとても大切で、その中で自分にとって意味のあるものに出会える。そういう実感があったので、「映画を見ること」は必ず入れたいと思いました。

――具体的にはどんな映画を見ていたのですか?

【福木】ティーンの頃に一番好きだったのは、ドリュー・バリモア主演の『25年目のキス』です。少し前のラブコメですが、主人公は新聞記者で、中学時代は見た目が冴えず、一軍のクラスのイケてる子たちにいじめられていた女性なんです。大人になっても思うようにいかない中で、上司から「イケている高校生の生活を潜入取材してこい」と命じられる。

「冴えなかった自分でも主人公になっていい」「見た目が魅力的だから愛されるわけではない」ということを、その作品から教えてもらった気がします。当時は、きれいな女の子が主人公になる作品が多かったので、すごく衝撃的でした。その感覚は、『ピーチとチョコレート』にも少なからず影響していると思います。

――『25年目のキス』、観てみます! 他にも作中では様々な映画が登場しますが、その選定基準も教えてください。

【福木】『ローラーガールズ・ダイアリー』や『ハートストッパー』など、ティーンの子たちが楽しめて、共感できそうな作品を選びました。『旅するジーンズと16歳の夏』は、もともとYA小説が原作で、揺れ動く気持ちをそのまま体感できる作品です。

それに加えて、母と娘のすれ違いを描いた作品も入れています。本作のテーマと重ね合わせながら、リストを組み立てていきました。

 

プロフィール

福木はる(ふくぎ・はる)

児童書・YA作家

沖縄県出身、千葉県在住。琉球大学教育学部卒業。小学校教諭を退職後、こども支援の活動に従事。現在は、子育てをしながら執筆活動に専念している。2023年、『ピーチとチョコレート』で第64回講談社児童文学新人賞の佳作に入選し、本作がデビュー作となる。

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