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【ホクトの挑戦】 トップダウン経営から、全員責任経営へ

水野雅義(ホクト社長)

2013年05月07日 公開 2024年12月16日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』特集 日に新たな発想 より》

エリンギ、マイタケ、ブナシメジを主力に、きのこ業界唯一の東証一部上場企業として、業界を牽引しているホクト。カリスマ的創業者がその社名のように、まさに天に確たる地位を築き上げた。しかし、そのカリスマが急逝、2代目はにわかに新しい局面に立たされた。
彼は、創業者とは違う自分を認識、時代の趨勢に合ったより民主的で自主独立的な組織をつくり上げることに取り組み始める。変わることができる会社をどうすればつくれるのか。社員への信頼に基づく新しいリーダーシップを発揮している水野雅義氏に、その極意を伺った。 <取材・構成 江森 孝/写真撮影:村松弘敏>
  

反骨精神をDNAとして日々変わりゆくホクトの挑戦

(前半略)

会社の成果を自分の成果として考えよ

 2006年、私が社長になり、父は会長に就任しました。私自身、まだ早いかなと思いましたが、父は私が40になったら譲ろうと決めていたようです。そのとき、私が国内事業を、父がアメリカでの事業と、健康補助食品を扱う関連会社「ホクトメディカル」を担当することになりました。ただ、「国内は全部おまえに任せる」と言いながら、実際には怒られていましたが(笑)。父はアメリカに住むつもりでいたようですが、2009年に急逝します。そこから、私がそれまで温めていた社内改革のアイデアを実行に移し始めました。父には申し訳ないけれど、現在取り組んでいることは、本人が亡くなったからできていることばかりです。生きていれば、おそらく「何をやってるんだ!」と怒っているでしょう。

 いま、やろうとしているのは、「社員の一人ひとりが、会社の成果を自分の成果として考えられる会社」になるための取り組みで、その1つが研修制度の導入です。父は「おれの姿を見れば分かるだろう」というタイプで、研修など一切いらないと考えていました。そこで外部に依頼して研修を積ませています。ただ、年齢によって受け止め方が違い、若い社員は「よい機会を与えてもらっている」と喜ぶ一方、社歴の古い人間は「いまさら堪忍してくれ」と嫌がります。しかし、上の人間が昔と同じやり方、意識でいると、若い人間が生きてきません。ですから、彼らのためにも、上の人間には変わってもらわないといけないと考えています。

 社歴の長い社員の中には、上から指示されることに慣れてしまい、今自分はどうすべきかという発想やアイデアが何も出てこない者もいます。ただ、それではこの先やっていけない。「自分から進んでやる」という意識に変えていかないといけません。

 それと、父がどなりつけた話と関連するのですが、当社には、怒られるのが怖くて、つい悪いことを隠ぺいしてしまう風潮がありました。言い出せないがために時間がたっていき、その結果大変な問題に発展したというケースが少なくありません。それは、やはりトップダウンの弊害だと思うので、これからは全社一丸となってやっていこうという意識を、生産にしても営業にしても植えつけようとしています。

 とはいえ、長いあいだに染みついたものはそう簡単には変わりません。そうした取り組みを始めた3年前は、好業績が続いた時期でもありました。もちろん自分たちの努力もあったでしょうが、リーマンショックや内食志向などがあって、たまたま業績がよかったのです。ところが、営業は「自分たちが一所懸命努力したおかげだ」と勘違いしてしまった。それが、2012年度は、夏の暑さの影響もあって業績が悪く、「このままではいけない」と彼らも気づいてくれたようです。

 私は創業者がいけなかったとは考えていません。父がいたから現在があるのですし、あのやり方は時代に合っていたのだと思います。でも、当社は今年創立49年目で、来年で50年です。もし父が生きていたとしたら、これまでのやり方が通じなくなっていたでしょう。たとえば、かつては利益を出すために1つの商品ばかり売っていましたが、もはやそれでは全然通用しません。新しい時代に入ってきたといえるので、いろいろなものを変えるのにはよいタイミングだったと考えています。

 当社は2011年に売上高が連結ベースで500億円に到達しましたが、500億が1つの壁になるという話をいろいろなところで耳にします。それを乗り越えるために、創業者がつくったものをアレンジし直しているという感覚です。

責任をもたせるために、あえて口出しせず

 社内を見ると、だれもが変わらないといけないことは分かっていても、「ほんとうに変わっていいの?」と疑っている空気も感じます。先ほどの例のように、どうしても変わり切れない社員がいるのです。その一方で、すっかり意識が変わって「自分たちでやっていこう」という姿勢が見える社員もいます。ですから、私からああしろ、こうしろと指示をする気はありません。価格に関しても、かつては上司から「なんでこんな値段で売っているんだ」と怒られたり、呼び出されたりということがありましたが、私は価格にはいっさい口を出しません。辛抱の要ることですが、もし口を出せば、うまくいかなかったときに「指示どおりにやったらできませんでした」という言い訳ができる。そうならないために、「自分のやることに責任をもって堂々とやればいい」と言っています。

 2012年度の業績の悪さにしても、かつての当社なら、「上からこの値段でやれと言われてやった結果です。私の責任ではありません」という言い方が通用したかもしれません。たしかに、去年の異常気象のような外的要因があるのも事実です。でも、それで全部片付けてしまったら大変なことになる。だから、「自分たちに落ち度はないか」という見方ができるよう、社内を変えているところです。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

水野雅義

(みずの・まさよし)

ホクト株式会社 代表取締役社長

1965年長野県生まれ。1990年青山学院大学経営学部卒業、ホクト産業株式会社(現ホクト株式会社)入社。1995年常務取締役。1997年専務取締役昇格、きのこ生産本部長、管理本部長、きのこ販売本部長等を歴任。2005年取締役副社長。2006年より現職。


<掲載誌紹介>

『 PHP Business Revew 松下幸之助塾』 2013年5・6月号Vol.11 

発売日:2013年4月27日
価格(税込):1,000円

<今回の読みどころ>
 5・6月号の特集は「日に新たな発想」。古今東西を問わず、リーダーの多くは「新しい発想」や「新しいことへの挑戦」を重視する。松下幸之助も、会社の業容が大きくなるにつれて、「きょうもまた本日開業の心持ち」でいる姿勢を事あるごとに社員に求め訴えていた。
 とは言うものの、新しさを追い求め続けることは簡単ではない。本特集では、「日に新た」の思いに徹し、柔軟な発想のもと、それぞれの仕事に挑戦している達人たちに、その取り組み方を学ぶ。
 そのほか、元松下電器副社長で日本テレネット取締役相談役の佐久間曻二氏が松下幸之助から学んだ商売の本質を語る講演録や、米大リーグ・シアトル・マリナーズでトレーナーを務めイチロー選手や長谷川滋利氏などとも交流のある森本貴義氏が「トレーナー道」を記した記事も、読みどころ。

 

 

BN

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