アリの巣も「南向き」が人気? マップなしで太陽の方角を教えてくれる自然の神秘
2026年07月07日 公開
「つまらないのは、お前がつまらないからだ」
――かつて師匠から受けたこの言葉を胸に、日常に潜む自然の面白さを探求し続けているネイチャーガイドのノダカズキ氏。
著書『自然はすごい いつもの道が美しく見える5つの視点』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、ノダ氏は「一本の野草がそこに生えていることには、必ず意味がある」と語ります。
「生命の本質は熱である」といわれるように、私たち人間が「衣・食・住」に心を砕くのも、元を正せば「体温を適度に保つ」ための工夫です。実は、足元の小さなアリたちも、私たちと同じように「不動産」の視点で太陽の熱を賢く利用して生きています。
日常の散歩道が「発見の宝庫」に変わる、身近な場所に潜む「太陽のサイン」の読み解き方を紹介します。
※本稿は、ノダカズキ著『自然はすごい いつもの道が美しく見える5つの視点』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
生命の本質は「熱」である
「生命の本質は熱である」ということを世に打ち出したのは、量子力学の父シュレディンガーです。なんだか小難しく感じますが、これが意外と的を射ています。
人間にとって生きるために欠かせない三要素といえば「衣・食・住」ですが、どれもつまるところ、体温を適度に保つための工夫と言えます。暑すぎず、寒すぎず。そうやって私たちは、快適に生き延びようとしてきたわけです。
あれこれ必要な人間とは対照的に、野生動物が本当に必要としているものは「食べ物」と「寝床」だけ。食べ物で身体を温め、体温が下がらないように巣を作る。
つまり、熱源の確保こそが、動物も人間も、生きるための最重要課題なのです。
逆に言えば、人間の生活費の多くは熱源の確保に使われています。「暖をとるために働いている」と言っても、そんなに間違ってはいません(人間は「暖」以上のものに時間と労働力を使っている、自然界でも変わった生き物なことはさておき)。
そんな生きていくために必要な「熱源」という視点で世界を見ていきましょう。
アリの巣と人間の不動産との共通点
たとえば、人間界の南向きの土地。不動産では人気がありますよね。実際に地価も高い。これは日当たりの良さ、つまり太陽の熱をいかに取り込めるかがポイントになっているからです。
建築家が家を設計するときも、建物の配置には細心の注意を払います。寒冷地では、リビングを南向きにして太陽の恩恵を最大限に受け、キッチンや浴室は北側に配置するのが定番です。なぜなら、火を使う場所はそもそも暖かくなりやすいからです。
寒い地域で街歩きをしてみると、多くの家が南向きにリビングがあるのはもちろん、太陽光を多く取り入れるために窓が大きくなっていることに気づくでしょう。
とても当たり前といえば当たり前ですが、太陽に合わせて住居は設計されているのです。
同じことが自然界でも起きています。特に昆虫たちは、寒さにめっぽう弱い変温動物。寒い季節に、いつもは素早いハエがやたら鈍く感じられるのはそのせいです。
彼らも、冬を乗り越えるために住まいにひと工夫を加えています。寒冷地に住むアリたちの巣は、日照を最大限に受けられるよう設計されています。多くの巣が、太陽の昇る方向――つまり南東に向かって並んでいるのです。アリたちはできる限り早く太陽の光を浴びて、体温を上げ、活動時間を稼ごうとしています。
これは実際に自分でフィールドワークを行いながら気づいたのですが、まさに人間界の不動産を見ているようでした。
道に迷ったら自然のサインを探す
アリの他にも自然の中には、太陽の方角を教えてくれる目印がいくつもあります。
たとえばキノコ、コケ、地衣類といった植物。ジメジメした場所をあえて選び、そこに根を張って生きている日陰者たちです。
彼らはたいてい、日光の少ない北側にひっそりと現れます。森の中で迷ったら、木の幹に生えたコケを見て北を探す――そんなサバイバル術もあります。街中でも、建物の北側の路地を歩けば、コケが地面にびっしり生えていたりします。スマホの電池が切れたとき、最後に頼れるのは意外とこういう自然のサインです。
他にも使える技があります。「建物」もまた自然の一部。外壁が南向きだと、太陽の光をもろに浴びて、劣化が早くなります。
このように、Googleマップなんて使わなくても、自然のサインを読み解けば東西南北はわかる。自然が用意してくれた、無料で電池いらずのナビゲーションです。
私たちの暮らしは、気づかないうちに太陽という巨大なシグナルに支えられているのです。住まいのことを考えるとき、街中を散歩するとき、ちょっとだけ太陽の機嫌も気にしてみてください。もしかすると、太陽と自然の関係性が、あなたにいろいろな方向を教えてくれるかもしれません。









