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なぜ「いい子」が盗撮に走るのか? 努力ゼロで達成感を得る「コスパの罠」

斉藤章佳(精神保健福祉士・社会福祉士)

2026年08月12日 公開

なぜ「いい子」が盗撮に走るのか? 努力ゼロで達成感を得る「コスパの罠」

盗撮で捕まるのは非行少年ではなく、実は「成績優秀な子」でした。勉強と違い努力ゼロで達成感が得られる「コスパの良さ」の罠とは? 斉藤章佳氏の著書『校内盗撮』にて、現代っ子の歪んだ心理をわかりやすく解説しています。今回は、そんな興味深い研究結果を同書よりご紹介します。

※本稿は、斉藤章佳著『校内盗撮』(集英社インターナショナル)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

盗撮を「コスパがいい」と思う心理

性加害少年たちにとって、盗撮の魅力はその「手軽さ」です。『NHKスペシャル』の番組取材では、高校生の頃に加害を始めた19歳の少年が次のような主旨の発言をしていました。

「部活で結果を残したり、学校のテストでいい点数を取ったりするのは、努力が必要だし、それってどれもつらいんですよ。でも盗撮って、努力なんていらないんです。ただ(女性の)後ろについていって、カメラを起動して、録画ボタンを押して、スマホをスカートの中に差し込めば、それでオッケー。簡単なんです」

少年は盗撮を、努力が不要でスリルを味わえる「アトラクション感覚」で行っている、と表現していました。依存症が進行するプロセスとして、①報酬の即時性、②アクセスのしやすさ、③自己効力感の肯定的変化の3点があげられますが、彼の発言もまさにこれに当てはまっています。

現代の若者は、費やした時間や労力に対する満足度、タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)を非常に重視する傾向にあります。動画を倍速で視聴する、本を読まずに要約サイトで内容を把握する……無駄を省いて効率良くリターンを得ることを是とする価値観は、若い世代に支持されています。彼らにとって、さしたる労力をかけずに優越感や達成感を手に入れられる盗撮は、文字どおりローリスク&ハイリターンな犯罪でありタイパとコスパが良く見えてしまうのでしょう。

本来、確かな達成感は努力の積み重ねの末に得られるものです。しかし、彼らにとって盗撮は、最短ルートで自分を強者に仕立て上げる、まやかしの成功体験となっているのです。

大人からみれば合理性を重んじるはずの若者が、ともすれば社会的な死を招く性加害を、なぜ「タイパとコスパがいい」と誤認するのか。この論理破綻こそが、性加害者が抱える認知の歪みなのです。

 

7割が普通家庭。「いい子」が陥る盗撮の闇

かつての非行少年といえば、家庭環境に恵まれず、ケンカや万引きを繰り返し、暴走行為をするといった固定観念がありました。しかし、盗撮などの性加害を繰り返す「性非行少年」たちは、学校生活にうまく適応している、いわゆる「いい子」が大半を占めています。

この傾向はクリニックのデータでも明らかです。性加害の問題で受診した286名の少年のうち、76%は不登校の経験がなく、87%には万引きなどの非行歴がありませんでした。さらに、身体的虐待やネグレクトといった明らかな機能不全を抱える家庭で育ったケースは3割ほど。つまり、7割近くの少年はごく標準的な家庭環境で育っていました。ASD、ADHDを発症しているケースは全体の約4割を占めているものの、約半数はこれといった特性はみられませんでした。(図3 -3、3 -4、3 -5、3 -6)

クリニックのデータ グラフ

京都少年鑑別所の調査結果でも、性加害少年は他の非行少年に比べて知能指数が高く、成績も優秀で、学歴が高い傾向にあることが指摘されています。

一見すると、どこにでもいる普通の少年が、なぜ重大な性加害に及ぶのか。そこには大人からは見えない、現代の闇があるのではないか。そう考える方もいらっしゃるでしょう。

しかし、少なくともクリニックにやってくる少年たちを私が見る限り、彼らには「闇」を感じられませんでした。どこにでもいる純朴そうな子がほとんどで、多くの場合は、好奇心や友達同士の悪ふざけがエスカレートし、本人たちもそれを「性暴力」という意識のないまま暴走し、たどり着いた先が性加害でした。

『NHKスペシャル』の番組で少年が述べているように、勉強やスポーツなどで評価されるためには相応の努力が求められます。しかし、スマホをわずか数秒間タップするだけで「達成感」「優越感」を得られる盗撮は、少年たちにとって非常にタイパ&コスパのいい刺激になっています。

校内盗撮をする少年たちは、「デジタル時代が生んだモンスター」ではありません。彼らは、性的同意や、プライベートパーツの概念、身体の権利、社会のルールを、学ぶ機会を持たないまま成長し、ふとしたきっかけで一線を越えてしまった「どこにでもいる子どもたち」です。

かつて「良い子 悪い子 普通の子」という言葉がありましたが、盗撮などの性暴力については、どの子でも加害者になりえる側面があります。私たち大人も、「親の言うことを聞くいい子なら、性加害なんてしないから大丈夫」といった安心感や、「盗撮なんて一部の非行少年だけがやること」といった先入観を捨てることが重要です。また、いざ問題が起きた際、子どもが抱くいびつな優越感や相手を「モノ」として扱う認知の歪みをいち早く発見し、問題を曖昧にせず介入、そして子どもを治療教育プログラムへスムーズにつなげることが、被害者も加害者も出さない社会への第一歩になります。

プロフィール

斉藤章佳(さいとう・あきよし)

精神保健福祉士・社会福祉士

加害者臨床家。西川口榎本クリニック副院長。1979年生まれ。あらゆる依存症の臨床に携わり、現在までに3500名以上の性犯罪者の地域トリートメントに関わる。3児の父親。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(共にイースト・プレス)、『小児性愛という病│それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方』(集英社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『セックス依存症』『子どもへの性加害性的グルーミングとは何か』(共に幻冬舎新書)など多数。

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