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免疫学の世界的権威が教える “「ちょい悪」健康法”

安保徹(医学博士)

2013年06月18日 公開 2022年12月21日 更新

「メタボ」って本当に悪いこと?
   

「メタボ」はがんばって生きてきた証

 ご存知の方も多いと思いますが、2008年4月から「メタボ健診」が義務化(40歳以上の人)されました。腹囲、血圧、血糖値、コレステロール値などをはかり、結果によっては肥満に対する保健指導も受けることになります。

 もちろん、メタボリックシンドロームをなにもせずに放置しておけば、将来、重大な事態が起こらないとは限りません。ですが、「メタボ」を敵視し、肥満を最大の敵に仕立て上げてお腹周りに一喜一憂する現在の風潮には疑問を感じます。

 メタボリックシンドロームとは、内臓型肥満に加え、高血圧症や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病が重なって発症している状態です。たしかに、こうした状態は歓迎すべきものではなく、改善するにこしたことはないわけですが……。

 そもそも、肥満がこれほどまでに悪役とされるようになったのは、近年、特に内臓脂肪の脂肪細胞というのが単なる脂肪の貯蔵庫ではなく、いろいろなホルモンを分泌して代謝に深くかかわっている「働く細胞」だということがわかってきたからなんですね。分泌される物質の中には生活習慣病の発症に影響を与えているものがあることも明らかになってきた。だから、「メタボ」の最大の悪役は肥満ということになってくるわけです。

大切なのは生き方の修正

 しかし、本来、夜遅くまで働くような過酷な生き方を見直すことなく、やせることだけを考えてダイエットをするのは危険なことなんです。それでなくても長時間労働で余裕を失っているサラリーマンに、体型まで文句をいったらかわいそう……。

 ではなぜ危険かというと、「メタボ」における肥満には二面性があるからです。

 高血圧や糖尿病は交感神経緊張を強いる生活が長く続いたために誘発されたものです。それと肥満とは一概に同列にはできません。

 なぜなら、肥満はそうした過酷な生き方の緊張をほぐすために体が「食べる」という行為で副交感神経を優位にして体をリラックスさせ、自然にバランスをとろうとしてきた結果だからです。「メタボ」は、過酷な生活をどうにか生き延びてきた証でもあるのです。

 つまり、エネルギッシュなサラリーマンのような交感神経緊張型の人間が破綻に向けて突っ走らないように、手綱を引いた結果が、太るという姿に表れているわけです。

 しかし、そうして増えてしまった脂肪細胞は、結局、回りまわって他の要因を悪化させる悪役になります。だからといって、肥満という結果だけを敵視して、交感神経緊張型の過酷な生き方を修正せず、癒しを担ってきた「食」をとり上げるのは実に危険なことなのです。

 メタボリックシンドロームを治したければ、生き方を変えることです。睡眠をきちんととり、無理を重ねる生き方を改めれば、血圧も下がり、むさぼるようにがつがつと食欲を満たしていた習慣もおさまって、体重が減ることはもちろんのこと、血糖値やコレステロール値も次第に下がってきます。

 メタボリックシンドロームの根本的治療法は、生き方の修正なのです。それなしにただ食を減らし、薬で高血圧や高脂血症を治すというような対症療法だけを行っていては、やがて緊張が極限に達して破綻をきたすことにもなりかねません。

◇まとめ◇ 
「メタボ」とは、エネルギッシュなビジネスマンタイプの交感神経緊張型人間が、「食べる」 という行為で副交感神経を優位にして体をリラックスさせ、自律神経のバランスを保とうとした結果が、姿形に表れたものです。

 

安保 徹

(あぼ・とおる)

1947年、青森県生まれ。医学博士。東北大学医学部卒業。元新潟大学大学院医歯学総合研究科教授。専門は免疫学。米国・アラバマ大学留学中の80年、「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクロナール抗体」を作製。89年には胸腺外分化T細胞を発見、96年には白血球の自律神経支配のメカニズムを解明するなど、免疫学の世界的権威として知られる。
主な著書に、『免疫革命』(講談社インターナショナル)、『安保徹の新体温免疫力』(ナツメ杜)、『「まじめ」をやめれば病気にならない』(PHP新書)、『疲れない体をつくる免疫力』(三笠書房)、『免疫健康学』『免疫力が上がる生活 下がる生活』(共に、PHP文庫)など多数。


<書籍紹介>

大往生 できる生き方 できない生き方

安保徹 著
本体価格 533円

がん検診は受けない、本来死に苦しみや痛みはないなど、世界的な免疫学者が教える病気や死におびえずに元気に年を重ねるための極意。

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