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プロセス志向 ~ 今ここに集中すれば、人生はうまくいく

2013年09月24日 公開

トーマス・M・スターナー(ピアノ調律師、ジャズピアニスト)

《『今ここに集中すれば、人生はうまくいく!』(茂木健一郎:訳)より》

 

世界を席巻した日本の製造業のプロセス志向

 僕たちの社会は、プロセスを重視することの価値を認めていない。だけど、プロセス志向の国が生み出すものの中には、明らかに永続的な価値が存在している

 1970年代半ば、製造業界に激変が起こったことを覚えているかい? その頃、誰もが日本製の車を欲しがるようになった。

 アメリカの車より、日本車の方が、明らかに性能が良かったからだ。なぜ日本車の方が高品質なのか? どうすればこの問題を解決できるのか? 思わぬ事態に、アメリカの自動車会社は慌てふためいた。

 車だけにとどまらず、日本製のピアノもアメリカで人気が出始めていた。聞いたこともない、どう発音すればいいのかもわからない社名のものもあったけれど、品質は確かに良い。

 日本人は、生活においても、仕事においても、プロセスを重視する国民のようだった。独自の職場環境や思考形式を持つ日本企業を真似ることは難しく、アメリカ企業は苦戦していたんだ。

 仕事でつき合いのあったピアノ業者が、面白いエピソードを教えてくれた。東洋と西洋の違いを、実によく表している話だ。

 彼は自分の店で、日本製のピアノを販売しており、あるとき、そのメーカーの工場見学ツアーに参加した。工場の組立ラインには、型抜きされたピアノのプレート(弦が張ってあるハープ型の部分)を扱うエリアがある。ピアノのプレートは鋳鉄製で、型から出した直後は、ごつごつしているため、塗装前に研磨が必要だ。その作業をしていた日本人の職人は、非の打ちどころがないほど美しいプレートに仕上げていた。

 僕の知り合いが、その職人に、1日に何枚くらいのプレートを仕上げているかと聞くと、職人は困惑したような顔でこう答えたそうだ。

 「完壁に仕上げられる枚数だけ、作っているよ」

 「でも、上の人に何か言われるでしょう?」と彼は聞き返す。

 「上の入って?」と職人。

 「あなたがちゃんと仕事しているかどうかを、チェックする人のことですよ」

 「私がちゃんと仕事しているかどうかを、なぜ誰かにチェックしてもらわなくちゃならないんだい?」

 そして、その職人はこう言ったんだ。

 「これは、私の仕事なんだ」

 西洋人で、こういう発想をする人は、なかなかいないだろう。たとえ1枚のプレートを完璧に仕上げるのに、丸1日かかったとしても、この職人は職務をまっとうしており、会社の期待に応えたことになる。

 この仕事をするうえで職人に求められているのは、意識を目の前のものに集中し続けること。そういう状態で作業を進めることで、最高の製品を生み出すことができていた。20枚の無難なプレートを作るよりも、1枚の完璧なプレートを作る方が重視されていたんだ。

 ここで理解してほしい大事なポイントがある。この場合、完璧なプレートを作ることが目標だったわけだけれど、日本人は、その目標をあくまでも「舵」として捉えていたということ。そうすることで、最終的にアメリカ製のピアノを凌ぐ、質の良い製品を作っていたんだ

 日本のメーカーが、自動車や音楽、エレクトロニクスの業界で、驚異的な存在となっていった理由がわかるんじゃないかな?

 

簡単に満足したいがゆえに得られない幸福

 かたや、西洋的な文化はどうだろう? 僕たちは、何につけても、待つということができない。今すぐに「成果」を欲しがってしまう。プロセスは端折って、いきなり成果を求め、何でも即刻手に入れなくては気がすまない。

 その典型的な例が、クレジットカードだ。「今すぐ手に入れて、あとで支払う」という思考形式のせいで、多くの人が負債を抱えることになっている。

 クレジットカードは、「プロセスの前に成果を得る」ということを前提に機能するのだけれど、これは真の満足感が得られるようなやり方じゃないし、虚しさがつのるだけだ。

 みんな経験したことがあるだろう。とても欲しいものがあるのにお金がない。だからツケで買う。そして大抵の場合、目的のものを手に入れた満足感は、請求書が届くずっと前に消え去っている。

 こういう思考形式にとらわれてしまうのは、「簡単に満足したい」と思っているからだ。ただし、簡単に満足はできるけれど、満足感はすぐ消えてしまう。なぜって、このやり方では真に価値あるものを得ることはできないからね

 自分が一生懸命努力したことに関しては、何だって覚えているだろう。だけど、それほど苦労もなく手に入れたものについては、どれくらいのことを覚えているだろうか?

 ものであれ、スキルであれ、何かを手に入れるためのプロセスにエネルギーを集中し、忍耐力と自制心を発揮して、ついにそれを手にしたなら、簡単に実現したときには感じられない喜びを味わえる。

 自分が手に入れたものに思いを馳せるとき、まず思い出すのは、手に入れるまでのプロセスであって、獲得した「もの」ではないはずだ。精神的な弱さを克服しながら、努力を重ねた結果、喜びと満足感を得たことを思い出すんじゃないだろうか? それは、繰り返し思い出すことのできる、永遠の記憶となるだろう。

 僕は 25年前、夏の間ずっと働いて貯金し、初めて車を買った。その車への愛着はそれほどないんだけれど、お金を稼ぐためにやった仕事の1つひとつは、はっきりと覚えている。

 友人たちが海辺でのんびりしているとき、僕は3つの仕事を並行させながら一生懸命働いた。そして夏が終わる頃には、どの友人も成し遂げていないこと――「自分の車を買う」という目標が達成できたんだ。

 たいしてお金が溜まっていない頃に、もう車を買ってしまいたいと思ったこともあった。そのとき、父親から言われたことをよく覚えている。

「車を買うことで得る満足感よりも、そのために頑張って働いたという満足感の方が、ずっと大きいと思うよ――」

 父は正しかった。いざ自分の車を手に入れてみたら、働いていたときに期待していたほど価値あるものだとは感じなくて、なんだか拍子抜けしたんだ。

 

 「今すぐに手に入れたい」という考え方は、個人レベルにとどまらず、社会全体に浸透している。多くの企業は、組織や従業員の長期的な健全性よりも、短期的な利益に関心があるだろう。だけど、短期的な満足を重視することの危うさに、ほとんどの人は気づいている。

 僕たちは暴走列車に乗っているようなものだ。ブレーキをかけなければならない。1人ひとりが、今このときを大事にし、成果ではなくプロセスを重視すれば、それがあるべき姿だと気づくだろう。それに気づけば、人生に苛立つことがなくなり、心が安定する。そしてきっと、今、自分の手の中にあるものや、今、自分がいる場所に満足することができるだろう。

 

◇まとめ◇

+ 「今ここ」のプロセスを重視し、目の前のものにエネルギーを注ぐことを目標にすると、それができるたびに、達成感を味わえる。

+ 無意識のうちに植え付けられている「結果に重きを置く思考」や「簡単に満足したい気持ち」を手放そう。

+ 永遠の記憶として、自分の中に残るのは、手に入れた「もの」ではなくて、手に入れるために努力を重ねた「プロセス」。


<書籍紹介>

今ここに集中すれば、人生はうまくいく!

トーマス・M・スターナー著
茂木健一郎訳

今ここのプロセスに集中すれば、マイナスの感情に悩まされることなく、心穏やかに成功できる。著者自身の経験から得た幸せのヒント。

 

<著者紹介>

トーマス・M・スターナー

25年以上の経験を持つピアノ調律師。世界的な演奏家のピアノ調律を数多く手掛け、ヴィンテージピアノの修復も行なっている。自身もプロのジャズピアニスト。音響や映像の分野の知識も豊富で、作曲家としても活躍している。東洋・西洋の哲学や、スポーツ心理学を学ぶ中で、「プロセスに集中する力 The Practicing Mind」の大切さを知り、その気づきを活かして、音楽関連のスキルのみならず、ゴルフやアーチェリーなどのスポーツを習得する。この「プロセスに集中する力」をテーマとしたラジオ番組や講演は、ビジネスパーソンをはじめ、スポーツ関係者や学生を中心に好評を得ている。デラウェア州ウィルミントン在住。



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