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生き方

しあわせを生む小さな種~あなたはもっと素敵になれる

松浦弥太郎(『暮しの手帖』編集長/COW BOOKS代表)

2013年10月23日 公開 2022年12月19日 更新

松浦弥太郎

「ありがとう」で始まり、「ありがとう」で終える

 一日一日を、大切なしあわせの種を蒔くように送りたい。それにはやはり、ていねいな暮らしをするのがいちばんだと思うのです。

 毎日、寝る前にしている僕の習慣は、眠りにつく前にベッドに腰掛け、しずかに感謝を捧げること。友だち、家族、会社の同僚、仕事でおつきあいのある人たち、自分のまわりにある自然に対して……。とにかく自分以外のものすべてに対して「今日一日ありがとう」という気持ちをいのります。手を合わせて声に出し、「今日も一日ありがとうございます」とお礼をいうのです。

 これは宗教的な行為ではなく、ごく個人的な習慣です。「やりなさい」と誰かに強制されたものでもなく、ルールというわけでもありません。自然とそういう気持ちがわいてきて、気がつけば毎日の習慣となっていました。旅先であろうと疲れていようと、寝る前にはこんなふうに必ず感謝することが、自分の中のスタンダードになっているのです。

 毎日、嬉しいことも悲しいことも、たくさんあります。つらくて涙した日もあるし、たまらなく悔しい日もあるのです。それでもすべては、夜寝る前の「今日も一日ありがとうございます」で帳消しになります。

 人は常に外の世界の影響を受けています。嫌なことをされても、嬉しいことをされても、心はゆらぎます。そのままでは迷子になってしまうから、一日一日リセットして、「いちばんの自分らしさ」に立ち戻りたい。僕にとってそのためのボタンが「ありがとう」と言葉にして感謝を捧げること。そうやって自分に立ち戻る儀式のようなものが、僕の心、仕事、暮らし、すべてを支えています。

 この習慣を身につけてから、仮に人から石をぶつけられたとしても、「ありがとう」と感謝すれば自分に立ち戻れる、そう思えるようになりました。

 感謝すべきことはたくさんあります。呼吸ができることもありがとう。手が動くこともありがとう。水を飲めることもありがとう。トイレで用を足すこともありがとう。「自分というものを意識できる」ということが、いちばんありがたいことだとも思います。感謝の気持ちは本当にかけがえのない、計りようがないものです。「ありがとう」はもっとも大事な僕のスタンダードであり、これからも一生抱いていくお守りです。

 もうひとつ、僕が最近心がけているのは「ありがとう」に、もう一言付け加えること。たとえばおいしい食事だったら、どんなふうにおいしかったかを、嬉しかったら、どんなふうに嬉しかったのかを、お礼とともに伝えます。

 「ありがとう。この野菜の香りと、かりっとした歯ごたえは最高だね」

 楽しい話だったらどんなふうに楽しかったのか、感想を添える。掃除をしてもらったのであれば、どんなふうにきれいにしてくれたか、よく観察してお礼をいいます。

 それはたいてい、相手の「ここは頑張った!」というところと一致するので、単に「ありがとうございます」というより気持ちが伝わります。こちらの感謝に相手の喜びがあわさって、お互いしあわせになるのです。

 今日一日、たくさんの人に「ありがとう」を。そして一日の終わりに、一人静かに「ありがとう」を。

★ 自分の心にあう「立ち戻りの儀式」を見つけましょう。

 

<著者紹介>

松浦弥太郎

(まつうら・やたろう)

『暮しの手帖』編集長、「COW B00KS」代表

1965年、東京生まれ。高校中退後、渡米。アメリカの書店文化に惹かれ、帰国後、オールドマガジン専門店「m&co.booksellers」を赤坂に開業。2000年、トラックによる移動書店をスタートさせ、02年「COW B00KS」を開業。書店を営むかたわら、執筆および編集活動も行う。06年より『暮らしの手帖』編集長に就任。

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