ホーム » 生き方 » いつまでも過去にとらわれているな

いつまでも過去にとらわれているな



2011年03月24日 公開

加藤諦三(早稲田大学名誉教授)

《 『「自信が持てない人」の心理学』より 》

◎幸福な人と不幸な人

 優柔不断な人間というのは、欲深い人間なのだと思う。少しでも得をするほう、少しでも楽なほう、少しでも有利なほう、そちらを選ぼうとして決断できないのであろう。
 少しでも損をするのはいやだ、少しでも無駄をするのはいやだ、そんな気持ちが強すぎて、決断できないという面があるのではなかろうか。
 もうひとつある。優柔不断な人間は不幸なのではないか、ということである。昔、学生時代によく三木清の『人生論ノート』を読んだ。いくつかの言葉が記憶に残っているが、その中のひとつは、幸福は力である、という言葉である。幸福な者は勇気もあるし、決断力もある。そのような気がしてならない。
 不幸な人間が幸福になるために、勇気や決断力が必要なのである。ところが、人とはまことに皮肉な存在で、幸福になると決断力が出てくる。不幸な人間が幸福になるために必要なのが、前向きの姿勢である。それなのに、人間は幸福になると自然と前向きの姿勢になる。不幸になると、いつの間にか後ろ向きの姿勢になり、後悔ばかりしている。
 何かをすればしたで、「ああ、あんなことさえしなければ」と後悔ばかりしているし、何かをしなければしないで、「あの時ああしてさえいれば」といつまでも後悔している。
 Don't try to saw Sawdust!(おがくずをのこぎりでひくな!)とカーネギーの本にある。
 いつまでも過去にとらわれている。前に進めない。
 逆にあきらめの早い人というのがいる。やってしまったことは仕方ないとあきらめて、今、自分のできることをする人である。幸福な人なのだと思う。
 株に手を出した主婦が、損をしてたちなおれなかったりする。「ああ株さえしなければ......」といつまでも悔んでいて、何も手につかない。おそらくもともと不幸な主婦なのであろう。
 欲求不満耐忍度という言葉がある。人によって、欲求不満に耐えられる人もいれば、耐えられない人もいる。望んだほどよい成績をとれなくても、また元気で生活を始める中学生もいれば、悲観して自殺する中学生もいる。また元気で生活を始める中学生のほうが、基本的なところで幸福なのであろう。
 うつ病的人間の考え方の特徴は、うつ病の研究者アーロン・ベックによると自分に欠けているものを自分の幸福に不可欠と考えてしまうことである。これなども、うつ病者というものがいかに不幸であるか、ということであろう。不幸であれば不幸であるほど、自分にないものに気をとられる。不幸であれば不幸であるほど、自分に欠けたものが大切なものに感じてくる。

◎自分にないものではなくあるものを見よ

 私は以前よく、自分にないものではなく自分にあるものに気をむけろ、と書いた。私にはこれがない、あれがない、とないものばかり数えあげないで、私にはこれがある、あれがある、と考えろ、ということである。
 私にはお金がない、とお金のないことばかり考えて、不幸になる人がいるような気がした。そこで私は、私にはお金がないけれども健康がある、と考えたほうがいいと主張したのである。私は美人ではないけれども友達がいる、という具合である。
 確かにその通りだと思うが、今考えてみると、どうも幸福な人は、自分に欠けているものをあまり問題にしないようである。つまり、自分に欠けているものを問題にしないから幸福なのではなく、幸福だから問題にしない。お金がないから不幸なのではなく、もともと不幸だからお金のないことが気になる。
 幸福は力である。幸福な人間は「ない」ということに耐えられるのである。お金がないといって朝から晩までブツブツと不平をいっている主婦もいるし、その中でなんとかやりくりして笑顔をたやさない主婦もいる。われわれはそのような場合、よくできた主婦、といういい方をする。確かによくできているが、基本的なところで幸福なのであろう。小さい頃、親からありのままの姿を受け入れられた、結婚して夫に心から愛されている、こんな人が「よくできた人」といわれているのではないか。
 小さい頃、親から一方的な感情を押しっけられ、結婚してからも夫の人間不信に悩まされている人が、そんな、よくできた人になれるであろうか。私はそんな神様のような人間がいるようには思えない。夫婦仲がよくて幸せな妻のほうが、子供の幼児的依存心からくるわがままに耐えられるのではなかろうか。子供の自然の成長を待てる母は、幸福な人であるに違いない。
 私の友人で、借金を毎月返している人がいる。しかし彼は、借金のことはあまり考えない。逆に、毎月の返済が終ったら、今返している分のお金で何を買おうかと、買うもののことばかり考えている。

加藤諦三(かとう たいぞう) 加藤諦三(かとう たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。1973年以来、たびたびバーヴァード大学研究員を務め、現在、早稲田大学名誉教授。またバーヴァード大学ライシャワー研究所准研究員、日本精神衛生学会顧問。ニッポン放送系ラジオ番組「テレフォン人生相談」レギュラーパーソナリティとしても活躍中。 おもな著書に『アメリカインディアンの教え』(扶桑社文庫)『自信』(知的生きかた文庫)『自信と劣等感の心理学』(だいわ文庫)『心の休ませ方』(PHP研究所)『行動してみることで人生は開ける』(PHP文庫)『「うつ」になりやすい人』(PHP新書)など多数。

書籍紹介

「自信が持てない人」の心理学

『「自信が持てない人」の心理学』

潮田、滋彦 著
税込価格 1,470円(本体価格1,400円)
ブログやツイッター、メールなど、だれでも手軽に情報を発信できる時代。しかしながら、思わず読む気をなくしてしまう文章も少なくない。では、どうすれば相手に伝わる文章、喜んで読んでもらえる文章を書くことができるのか。
本書では、165の練習問題を解いていくことで、3つのルールが体得でき、いつの間にかレベルアップする、読み手をうならせるテクニックを公開する。

最新著書

真面目なのに生きるのが辛い人

PHP新書『真面目なのに生きるのが辛い人』

加藤諦三 著
2011年3月15日 発売
税込価格 756円(本体価格720円)
なぜ生きることが辛いのか。なぜ不安と不満が解消しないのか。原因は相手にはない、たいてい自分にあると説く自己を見つめる心理学。


日本最大級の癒しイベント出展社募集中

WEB特別企画<PR>

アクセスランキング

WEB特別企画<PR>

日本最大級の癒しイベント出展社募集中
  • Facebookでシェアする
  • Twitterでシェアする

ホーム » 生き方 » いつまでも過去にとらわれているな