プロ弁護士が見た「頭のいい人の話し方」とは
2013年12月20日 公開 2023年01月11日 更新
<交渉>
頭のいい人は、他者からの支持があることを伝える
人に説明をしているときや、仕事の依頼をしようとしているときに、相手の反応がいまいちだ、という場合もあるでしょう。
「なるほど。でも××ですよね」
「たしかにそうだけど、××だからなあ」
と、言われることもあれば、
「よさそうですけど、あまり聞かない企画ですよね」
「いいかもしれないけど、そんなことやって大丈夫ですかね」
と、不安の声をもらされることもあるかもしれません。
ここでのポイントは、はなからやる気がない、というわけではない、ということです。
「そんなのできないです」
「それはちょっと無理です」
「うちではできませんね」
「むずかしいですね」
そういう返答がストレートにくる場合であれば、説得するのに相当な労力が必要でしょう。そもそも「YES」を引き出すこと自体が厳しいかもしれません。
でも、ここでのシーンは、相手も「なるほど」「たしかにそうだ」と言っているのです。あるいは「よさそうだ」「いいかもしれない」と言っています。
悪くはないのです。
もっといえば、その相手は、あなたの説明や提案に興味はもっています。でも、それを実行する、引き受ける、には、ためらいがある。そういう状況なのです。
このような場合に、相手の心をつかみ、賛同してもらうためには、相手がどこに懸念をもっているのかを知ることが必要です。
そこで、さきほどのシーンの言葉をみると、「でも××ですよね」「××だからなあ」という表現があります。
この場合、「××」に耳を傾ける必要があります。
次の2つでは、「あまり聞かない企画ですよね」「そんなことやって大丈夫ですかね」という具体的な言葉がでています。
こうした懸念は、ひとことでいえば、「変なこと」に巻き込まれるのではないか、という不安です。
より具体的にいえば、「自分だけが変なこと」をして恥をかく危険です。
話を聞いている限り、賛同してもよい内容だけど……。
まさか自分だけ(自社だけ)だったら困るな。
恥をかくな。評判を落とすな。信用を落とすな。そんな心理です。
「自分だけ」という孤立状態に陥ることが、不安なのです。
そんなときに便利な言い方があります。
「一般的には、○○だといわれています」
「一般的には、○○という方向になっています」
「一般的に、○○の傾向がでてきています」
つまり、「一般性」を獲得している、という事実を指摘するのです。
一般的に……ということは、小学生の子どもがお母さんに「みんなやってるよ」「みんな買ってるよ」と言うのと同じです。
自分だけではない、多くの人もやっているんだ、ということです。これは、人が「少数派」になることをおそれ、「多数派」でいることに安心する心理から来ています。
相手によっては、「一般」や「多数」に必ずしも同調しないという人もいるでしょう。
権威のある人や、優秀な人(企業)ほど、多数ではなく、少数であることを望みます。
「少数精鋭」という言葉があるように、「優秀な少数」でありたいのです。オリジナリティの欲求ともいえます。
このような相手に「一般的には……」と言っても、みんなやっていることなら、うちはやらないよ、と思われてしまう危険があります。
このような場合は、「他の精鋭」を引き合いに出します。
「○○さんも基本的に賛同してくれています」
「○○さんもやりたいとおっしゃっていました」
「○○さんもなかなかいいじゃないかと言っていました」
このように、多数ではなくても、少数の精鋭(権威者・仲間など)が賛同していることを指摘すると、「自分だけが変なことをする」という不安は払拭できます。
その人は多数である必要はなく、少数でもいいから「精鋭」でありたいわけです。「精鋭」のひとりが賛同しているとなれば、「やはりな」と思うわけです。
「いい企画だと思ったけど、やはりあの人も賛同しているのか。じゃあ、やろう」
そうなればしめたもの。
交渉のひと押しに使える便利な言葉が、次のものです。
「一般的には、○○だといわれています」
「○○さんも基本的に賛同してくれています」
使ってはいけないのは、その人が権威の場合です。あるいは、その人に強い自負がある場合です。「他の人は関係ない」とへそをまげられる危険があるからです。
<書籍紹介>
プロ弁護士の武器と盾になる話し方
「頭がいい人は、こんな時にはそう言うのか!」――弁護士として活躍する著者が法廷や株主総会で見た、説得力・信頼感を感じさせる話し方。
<著者紹介>
木山泰嗣
(きやま・ひろつぐ)
弁護士
横浜生まれ。弁護士。上智大学法学部卒。都内の鳥飼総合法律事務所に所属し、税務訴訟及び税務に関する法律問題を専門にする。青山学院大学法科大学院客員教授(租税法演習)。上智大学法科大学院「文章セミナー」講師。
著書に、『弁護士が書いた究極の文章術』『小説で読む民事訴訟法』(以上、法学書院)、『税務訴訟の法律実務』(弘文堂・第34回日税研究賞「奨励賞」受賞)、『もっ.と論理的な文章を書く』(実務教育出版)、『弁護士だけが知っている反論する技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。