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仕事

いつのまにか理念が身につく竹中工務店の全寮制新人教育

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』編集部

2014年07月15日 公開 2023年02月02日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』 2014年7・8月号Vol.18[特集]理念をきわめる より》

 

創業400年を超える老舗ゼネコン大手の竹中工務店。ここに入社した新人社員を待つのは、1年間の寮生活だ。同期の仲間と朝晩をともにし、同じ釜の飯を食う毎日。さらに職種を問わず、事務系であろうと、現場である作業所での仕事が課せられる。こうした日々の中で、駆け出し社員たちは竹中の経営理念をその身に刻むという。同社の新入社員教育とはどのようなものか。近年寮生活を経験した若手社員らへの取材をもとにレポートする。

<取材・文:高野朋美/写真撮影:髙橋章夫>

 

「ただいま」が言える場所

 「いまどき寮生活なんて」。そんな声が10代・20代から聞こえてきそうだ。神戸市の静かな一角にたたずむ、竹中工務店の深江竹友寮。満開の桜が春風に揺れるころ、新入社員は1年間の寮生活を経験するためこの門をくぐる。今年4月、外国籍4人を含め、男性138人、女性22人の新卒総合職社員が入寮した。

 昔に比べ、若い世代が集団生活をする機会はかなり減っている。寮生活があると聞いて、入社を希望する学生たちは尻込みしないのか。「寮に入ることは、就職説明会のときに話しています。寮生活がイヤだという就活生は、そもそも当社にエントリーをしないでしょうね」と、人事室能力開発部の川井敏広部長は説明する。

 しかし、実際はどうなのだろう。「最初は抵抗がありました」。そう話すのは、入社7年目の宮内賢治さん(写真/職種=建築施工)。だが、住み始めてまもなく、考えが変わる。「すぐに『寮っていいな』と思うようになりました。学生時代には仲よくならなかったタイプの人とも、住んでいればおのずと仲よくなります。いつのまにか人好きになれました」。入社5年目の森山実記さん(職種=設備設計)も、「初めて出会った人と暮らすわけですから、エアコンの温度調整など、細かいことで個人差が生じることもあります。でも、ふり返ると、楽しい思い出だけが残っています」と笑顔で語る。

 慣れない集団生活であるにもかかわらず、なぜ寮生活をすんなり受け入れ、「楽しい」とさえ言えるのか。入社5年目の山口浩志さん(職種=建築設計)がこう説明してくれた。「寮は『ただいま』が言える場所。みんなでラウンジに集まって、いろんな話をしました。まだ新人なので、急に仕事を覚えられない。だから、悩みやストレスがどうしてもたまる。それを相談し合えることで、『あしたもがんばろう!』という気持ちになれるんです」。

 2人で1部屋をシェアする。ベッドで寝返りを打てば、隣のベッドの相手と顔を合わすほどのスペースだ。広いとはとても言えない。だが、そんな空間で寝起きをともにするうち、ポツリポツリと自分のことを話すようになり、打ち解けていく。

 なかには、互いの生活スタイルが合わない場合もある。しかし、「部屋を変えてほしい」と申し出る前に、「どうすればお互いが快適に過ごせるか」を考えるようになるという。歯ぎしりのひどいルームメートに、マウスピースをプレゼントする人もいたそうだ。

 「私たちの仕事は、1人でやる仕事ではなく、いろいろな部署の社員や職人の方々と一緒にやります。人とかかわるのが日常なので、寮内でのコミュニケーションぐらいとれないと、そもそも仕事をやっていけないという思いがあるのです」と、森山さんは力説する。

 1つ屋根の下で悩みや喜びを共有しながら過ごす「仲間との時間」。それは、新人たちにとって楽しい時間であるばかりでなく、伝統ある竹中工務店の名にふさわしい社員となるべく、知らず識らずのうちに社会性を育んでいる大切な時間でもあるのだ。

 

経営理念を現場で実感

 竹中工務店では、新卒総合職のことを「新社員」と呼ぶ。先輩社員が金色の社章を付けているのに対し、新社員は銀色の社章。1年間の寮生活と研修を終えたとき、社章の色が銀から金へと変わる。

 新社員は寮生活と並行し、会社でOJT研修を受ける。技術系社員であれば、設計部門、技術部門、そして工事現場である作業所をそれぞれローテーションで経験し、建物づくりの全貌を学ぶ。そうしたなか、ごく自然なかたちで竹中工務店の経営理念を身につけることができるのが研修の特徴だ。

 森山さん(写真)は最初、「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念の意味について、よく分からなかったという。

「『最良の作品』とは何だろう、と。でも、研修で設計と作業所を経験するにつれ、言葉1つひとつが理解できるようになりました。当社では手がけた建築物を『作品』と呼ぶのですが、1つの建物をつくるのに、これだけの労力がかかって、これだけの人の思いが詰まっているのだと、分かってきたのです。『作品』は、それを一言で表した言葉なのだな、と」

 入社2年目の遠藤恵太さん(職種=企画・管理)は、「上下和親し共存共栄を期すべし」という社是の一つを、作業所で理解したと話す。

 

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。以下、「自治による問題解決」「若手の先輩社員が寮長」「共通体験が固い結束力に」などの内容が続き、最後に執行役員人事室長へのインタビュー「棟梁の心を伝えるのが竹中流教育」があります。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 

<掲載誌紹介>

2014年7.8月号Vol.18

 7・8月号の特集は「理念をきわめる」

 経営理念なくしては、真に力強い事業活動の推進はむずかしい。では、理念があればそれが可能かといえば、必ずしもそうともいえない。高尚な理念がただの「絵に描いた餅」になっている例はたくさんあろう。理念に命を吹き込み、社員のモチベーションの向上と事業の発展に結びつけるためには、理念が社員に深く理解され、体にしみこむまでに「きわめる」ことが必要ではないか。  こうした問題意識に立った本特集では、会社として、また社員一人ひとりが企業理念を「我がもの」とするための考え方と方法を探った。  そのほか、世界的経営学者である野中郁次郎氏の松下幸之助論や、京都に拠点を置く計測機器の世界的企業である堀場製作所の人財論なども、ぜひお読みいただきたい。

 

 

BN

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