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「ビッグチャンス」日本企業が再び世界の覇者になる日

冨山和彦(経営共創基盤[IGPI]代表取締役CEO)

2014年08月13日 公開 2022年10月27日 更新

 

ラディカルイノベーションの時代は例外的な時代

3つめはこの先、より産業的な発展段階として、不連続型のラディカルイノベーションが圧倒的に優位だった時代は一段落するということだ。「個」よりも「集団」の勝負になるということだ。

過去20年間というのは、おそらく産業史の中でも際立って個のオリエンテーションで戦えた時代だった。デジタル・テクノロジー・ベースのラディカルイノベーションがあちこちで引き起こされ、世界は目まぐるしく変わった。それこそプログラミングの能力やビジネスモデルの発想力があれば、ザッカーバーグ1人で世界を変えられるのだ。

だが、そういう個のイノベーションが時代を席巻する時期というのは、人類史全体で見ると非常に限られている。むしろほとんどのイノベーションは技術の蓄積とチームワークで生み出されてきた。

たとえば、米国の産業史において20世紀の初めもラディカルイノベーションブームだった。トーマスーエジソン、グラハム・ベルといった天才の発明がイノベーションの波となり、世界を変えていった。ヘンリー・フォードもこの時期の大天才の1人である。彼らが米国を世界一の工業国へと発展させるのである。

しかし、その後、産業発展のドライバーは、より集団的な組織力に立脚した連続的なイノベーションにシフトする。実は、自動車産業で「個」の発明で世界を変えたと言えるのはこのヘンリー・フォードが最後だ。

フォードのモデルTが全米を席巻してからわずか十数年後、GMはより計画的な経営管理やマーケティッグ力によってフォードから自動車産業のトップを奪う。そして長らく米国の製造業、いや世界の製造業の王様として君臨したのである。自動車産業はあっという間にラディカルイノベーションから連続的なマネジメントイノベーションの時代に移ったのである。

後にそのGMを追い詰めたトヨタのモノづくり力にしても、トヨタ生産システムのカンバンであれ、自動化であれ、ジヤスト・イン・タイムであれ、発明者は特定できない。集団的カイゼン努力の産物だ。そしてこのように、産業的なイノベーションの大半は、実はもっと連続的で、もっと集団的なものなのだ。

産業の変転が示す歴史的事実は、ラディカルイノベーションが支配的になる時代は例外的な時代であり、大半の時期は連続的なイノベーションの時代が続くということだ。

そしておそらく、ITの世界でさえ、人類史上稀なる個人の思いつきで世界が変わるというフェーズはそろそろ終わるのではないか、もうだいぶネタが切れてきたのではないか、という印象を受ける。

たとえば今、巷で騒がれているウェアラブル(身につけられる)次世代デバイス(グーグルグラスのようなメガネ型、時計型などが登場している)は完全な複合技術だから、誰もがあっと驚くようなプロダクトは出てきにくい。

さまざまなハードウェア、ソフトウェアを組み合わせ、すり合わせていかないとイノベーションが起こせないので、誰か1人の天才的な思いつきだけでは製品化しにくくなっているのだ。

 

日本企業としての本当の強み、根源的な強みがどこにあるのか再確認せよ

繰り返しになるが、これから先イノベーションが期待される医療や介護、ヘルスケアといった分野は、さまざまな要素のすり合わせでサービスを実現していく世界で、端末1個でイノベーションは起こせない。機械と人、ハードとソフト、端末とビッグデータなど、いくつもの要素を組み合わせ、さまざまな現場の状況に合わせて活用するとなると、最適化が鍵になる。

それは完全に、日本企業が得意のすり合わせの世界だ。この20年間でぐるっと一周まわって、日本企業の持つ強みが生かせるモードに戻ってきたというのが私の実感だ。

情報通信革命は、情報の非対称性やアクセシビリティという大きな課題を解決してきた。インターネットやGPSが登場して、大変なイノベーションが起きたわけだが、世界経済を牽引してきたIT産業も成熟してそろそろネタ切れになってきた。

すると、必ず次のフェーズに行くわけで、たとえば、ビッグデータは過去に起きた現象をエンピリカル(実証的)にフィードバックする仕組みなので、累積経験量が大事な技術領域になる。それは本来、日本企業の得意分野だ。

ヘンリー・フォードが生んだ大発明である量産型産業としての自動車ビジネスを、連続的イノベーションで進化させたのがGMであり、トヨタである。最初は一生懸命米国のやり方を学んで取り入れるのだが、それを継続的カイゼンで別次元まで進化させる。これから時代がまた連続的なイノベーションモードに入っていくとすると、日本企業の多くにとって追い風、ビッグチャンスなのだ。

しかしそんなことは日本企業以外もわかっている。だから漫然と待っていてもその風は掴めない。もちろん古い会社のカタチのままでは、新しい風は絶対に掴めない。自分たちの取り柄、コアコンピタンス中のコアコンピタンスは本当は何なのか。

それを突き詰めたときに新しい時代に選択すべき事業ドメイン、事業モデルは何かが見えてくる。そこで比較優位のないものは。さっぱりと捨て去ること。まずは厳しい「あれかこれか」をできるようになることが、新しい「すり合わせ」時代の競争で覇権を取り戻すためには必須の条件なのである。

複合技術化したときに、従来の日本企業のように自社開発、クローズド・イノベーションにこだわると、再びよくない展開が待っている。すべての技術を1社が握っていることはあり得ないので、世界中からその時点で一番いい要素技術を選び、それらを組み合わせてつくるべきだ。

コマツのKOMTRAXも最初から自社開発したのではなく、M&Aでベンチャーから技術を買って手に入れたものだ。そういう時代に、相変わらず日本の電機メーカーがすべて自前でやろうとするのは間違っているし、かといって日本の中途半端なメーカー同士で組んだりすると、もっと悲惨な展開になる。2軍のオールジャパン体制で勝てるほどグローバル市場は甘くない。

そうならないためには、オープンイノベーションで世界中から一番いい要素技術を持ち寄り、それをすり合わせるという2ステップが必要になる。「オープンイノベーション」と「統合型・すり合わせ型アプローチ」をうまく共存させて、いかにアウフヘーベン(止揚)できるか。

この2つは二律背反ではなく、力のある日本企業が本気で取り組めば、必ず両立できるというのが、私自身の経験則である。

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