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[歓喜の経営]「承認の欲求」を満たす組織をつくれ

2014年09月25日 公開

太田 肇(同志社大学教授)

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年9・10月号Vol.19[特集]歓喜の経営を生みだす より》

日本人は、どちらかといえば「ほめること」も「ほめられること」も両方苦手である。何か大きな功績を残したとしても、それをみずから誇ったりせず、黙々と日々の仕事に取り組むことに美学を感じている面もあるだろう。そのため会社という組織においても、「ほめる」システムがあまり整備されていないところが多い。しかし、ほめられていやな気持ちになる人間は少ない。むしろ実力や功績を認めて、これを正当に称(たた)えれば、多くの人間が喜び、モチベーションを高められるだろう。組織と個人の関係性研究の権威、太田肇教授に、多様化の時代にふさわしい個人を生かす組織づくり・制度づくりについて論じていただいた。

<取材・構成:森末祐二/写真撮影:髙橋章夫>

 

表彰制度がモチベーションを高める

 組織学者を自称する私が以前から注目し、研究を進め、著書でも紹介してきたのが「表彰制度」という「仕掛け」である。会社経営において、「表彰制度」の導入は非常に大きな可能性をもたらしてくれる。

 何らかの形で社員の取り組みや成果を表彰すれば、その社員の「承認の欲求」は高いレベルで満たされる。承認の欲求が満たされることで、社員は大きな喜びを得ることができる。この喜びが、個人のモチベーションを大幅に高めてくれるのだ。

 そもそも創造的でモチベーションが高い人たちは、それぞれのジャンルで何らかの「賞」を獲得することを目標としている場合が多い。科学者ならノーベル賞、俳優や演出家ならアカデミー賞、作家なら各種の文学賞、スポーツ選手ならオリンピックの金メダルなどが究極の目標になるだろう。

 といっても、賞に付随して得られる賞金や賞品が目的なのではない。もちろんないよりはあったほうが喜びも大きいかもしれないが、究極的に重要なのは「名誉」を得ることである。名誉のために人は努力するのであり、名誉を得たことによって、さらなる高みをめざして努力しようとする。

 会社経営において与えられる表彰も、それが一定以上の権威を有していれば、受賞した従業員の「名誉」となる。賞金や賞品などなくてもかまわない。たとえば表彰に伴って授与される楯やトロフィーを、受賞者の希望に応じて自己負担で購入する決まりになっている会社も存在する。そうした会社を私が調査した範囲では、受賞者がみずからすすんで購入しているケースが大半だった。つまり多くの人が、仮に2万円なら2万円の楯を自分で買ってでも、表彰され、名誉を得て、承認の欲求を満たしたいと願っているのである。会社からすれば、たとえ表彰制度を導入しても、さほどコストをかける必要はないということになる。

 気をつけなければいけないのは、受賞者を選ぶ方法である。ここでは単純な営業成績トップといった賞ではなく、それぞれの会社が独自に設ける賞のこととお考えいただきたい。かりに受賞者を、社長や幹部が密室の中で決めたとしよう。そういう方法で選んでしまうと、必ずといっていいほど不信や不満を抱く人間が出てくるものだ。「あいつは社長のお気に入りだから表彰された」とか「あいつがもらえるのに、自分がもらえないのはおかしい」などと社員から思われた瞬間に、賞そのものの値打ちが損なわれてしまいかねない。

 こうした事態を避ける方法として、「ポイント制」を用いるのもいいだろう。売上をこれだけ上げたら何ポイント、お客様から感謝の声が届いたら何ポイント、どこかで何かを発表したら何ポイントといった具合に、ポイントの割り当てを決めておくのである。そうして一定以上のポイントを獲得した従業員を表彰するというルールがあれば、不満が出ることはまずないだろう。

 あるいは投票制にする場合、部長は10ポイント、課長は5ポイント、一般の社員は1ポイントというふうに決めておくと、非常にわかりやすい。全員の投票なら、社長や役員の意図では決まらないので、公平性を担保することができるだろう。

 もう1つの注意点は、表彰制度と、賞与や昇給・昇進・人事考課などは切り離して考えていただきたいということである。むしろ、そうした人事労務面とは別の次元で、「会社は1人ひとりの従業員のことをこれだけ考えているんだ」という経営者の思いが伝わる表彰であることが望ましい。それが会社への忠誠心が強くなることにもつながるのである。

 表彰制度は、「顕彰型」「奨励型」「HR(Human Relations=人間関係)型」という三つのタイプに分けて考えることができる。

 「顕彰型」は、特に高い業績を上げた個人、チーム、部署に贈られる賞だ。「社長賞」や「特別功労賞」「年間MVP」といった賞がこれにあたるといえるだろう。多くの企業でこの「顕彰型」の表彰制度が採用されている。

 「奨励型」は、目立たなくてもコツコツと努力し続ける「縁の下の力持ち」に贈られる賞である。「努力賞」「奨励賞」などがこれにあたる。具体的な数字に表れにくい部署の仕事や人物にスポットライトを当てることができる。

 「HR型」の賞は、仕事の中でのちょっとした気配りや、楽しい職場づくりへの貢献といった、事業活動とは直接関係がないけれども、人間関係の向上に役立った人に贈られる。「あいさつコンテスト」とか「笑顔ナンバーワン」といった賞がこれにあたる。顕彰型に比べると「軽い」賞であるといえるが、「遊び心」や「ゲーム性」を重視し、だれもが楽しめることが大切だ。

 いずれのタイプの表彰でも、従業員のモチベーションを向上させるのに、たいへん大きな効果が認められている。形骸化せず、さほど負担にもならず、飽きずに楽しめる賞を工夫していただきたいものである。

 

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の一部分を抜粋したものです。ほかに、「組織は個人を生かさなければならない」「研究会と懇親会で社内の和を築く」「社員のやる気を引き出すシステムとは」「個人の責任と権限を明確に定める」「よきリーダーと制度が会社を伸ばす」などの内容が続きます。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 


<掲載誌紹介>

PHPビジネスレビュー松下幸之助塾 2014年 9・10月号 Vol.19

<読みどころ> 9・10月号の特集は「歓喜の経営を生みだす」
 仕事の場が歓喜で沸きかえる。あるいは、歓喜とまではいかなくても、仕事の充実を味わえる。これがどれほど大事なことか。人生において相当の比重を占める仕事の時間を、明日の生活費を稼ぐための単なる「労働(labor)」ではなく、意義ある「仕事(work)」と心得、ひいては「遊び(play)」にまで昇華させることができれば、すばらしい成果を生む組織が誕生するのではないか。
 こうした問題意識に立った本特集では、従業員が仕事の上で歓喜を味わえるようにするための考え方と、企業での実践を探った。
 そのほか、クロネコヤマトの経営理念とからめて語った瀬戸薫氏の松下幸之助論や、ある僧侶との出会いによって素直な生き方にめざめた男性の自己修養の姿を描いたヒューマンドキュメント「一人一業」なども、ぜひお読みいただきたい。

 

 

BN

 

著者紹介

太田 肇(おおた・はじめ)

同志社大学教授 

1954年、兵庫県に生まれる。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。国家公務員・地方公務員を務めたのち、三重大学人文学部の助教授に就任。滋賀大学経済学部教授などを経て、2004年から同志社大学政策学部教授となる。専門は組織論、人事管理論。’08年から日本表彰研究所の所長も務めている。『組織を強くする人材活用戦略』(日本経済新聞出版社)、『表彰制度』(共著、東洋経済新報社)、『日本人ビジネスマン「見せかけの勤勉」の正体 なぜ成果主義は失敗したか』(PHP研究所)など多数の著書がある。

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