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[歓喜の経営]「大失敗賞」が社員の奮起を促す

城岡陽志(太陽パーツ社長)

2014年09月26日 公開 2022年07月11日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年9・10月号Vol.19[特集]歓喜の経営を生みだす より》

 

表彰というと、優秀な成績をあげた社員をたたえるイメージがある。しかし、加工から製品開発まで行う異色の機械部品メーカー、太陽パーツは違う。挑戦の結果として大損害を与えた社員を表彰することで、再起を促すとともに、沈んだ社の雰囲気を一掃するという。1980年の創業以来、不況や円高にも負けず着実に黒字経営を続けてきた同社の力強さの背景には、どうやらユニークな表彰制度があるようだ。城岡陽志社長へのインタビューをもとにレポートする。

<文:高野朋美/写真撮影:清水 茂>

 

大成功者を生んだ「大失敗賞」

 ここに、一枚の賞状がある。そこには、ちょっと変わった文章が書かれている。

 「右の者 前向きなテーマに取り組み失敗に終わったが、社業に多大なノウハウを残したのでこれを称え、表彰する」

 ふつうは「多大な功績を残したので表彰する」だ。ところが、太陽パーツの「大失敗賞」の表彰状には「前向きなテーマに取り組み失敗に終わった」と書かれている。

 そう。同社は、果敢にチャレンジしたものの、失敗に終わった社員を表彰して励ますユニークな会社なのだ。

 「挑戦した末の失敗なら、会社に損害が出たとしても、ノウハウが残る」というのが城岡陽志社長の考え方。たんに失敗しただけでは賞はもらえない。大きな課題に立ち向かい、チャレンジしたという行為が重要なのだ。「チャレンジしない会社は生き残れません。失敗しても減点はしない。むしろ加点して金一封出すことで、絶えずチャレンジする社風を育てています」と城岡社長は言う。

 同社の表彰制度一覧を見せてもらった。「社長賞」「優秀賞」などの一般的な賞のあとに「大失敗賞」「中失敗賞」「小失敗賞」が並ぶ。さらに「『良いところ探し』大賞」「『はい、喜んで』大賞」といったものもある。賞のネーミングを見ただけでくすっと笑えて、気持ちが前向きになる。「うちの表彰制度は、ゲーム感覚なんです」と城岡社長は笑う。

 ところで、社員はこれらの賞をどう受け止めているのか。住宅用品部門をゼロから立ち上げ、会社を「部品を加工するだけのメーカー」から「製品開発も行うメーカー」へと進化させたある社員は、太陽パーツを取材したテレビ番組で、「『大失敗賞』をもらったとき、口には出さないけど『くじけるな』と社長に言われている気がした」と語った。

 かつて彼がやってしまった“大失敗”は、部品を加工する金型の先読み生産だ。取引先の注文にすばやく応えるため、通常は注文を受けてから製造する金型を、あらかじめ顧客のニーズを予測してつくっておくことで、納期の短縮を図ろうとした。

 会社に先行投資してもらって金型を製造し、受注体制を整えた。ところが、いざ注文を受けてみると、取引先から細かい金型変更を要求され、せっかくつくった金型に手を入れなければならなかった。その揚げ句、変更にかかったコストを価格に上乗せしたことで、他社との競争に負けてしまったのだ。彼はその期、見事、「大失敗賞」に輝いた。

 だがその後、同社の金型開発力に目を付けた取引先から、意外な話が持ちかけられる。油圧機器の新商品をつくってほしいという注文が寄せられたのだ。これを機に、設計開発部門を発足させ、新たな製品開発を開始。この部門が、のちに会社の業績を支える特許製品「昇降ウォール用油圧ダンパー」を生み出すことになる。

 

失敗続きの創業時代

 チャレンジを社風とする。その経営哲学には、創業者である城岡社長の半生が深くかかわっている。

 城岡社長は1949年に愛媛県で生まれ、高校を卒業後、すぐに大阪のネジ商社に就職した。「実家はみかん農家だったんですが、両親が入退院をくり返すなかでしだいに食えなくなり、『なんとかせなあかん』という状況になりました。ですが、こちらもサラリーマンの身。親に十分な援助ができません。そこで決意したのが、いつかは独立して親を楽にしようという考え。そのために、30歳で課長になるという目標を定めました。もし課長になれたら、自分には非凡なものがあるはず。逆になれなければ平凡だという証しだから、諦めて一生サラリーマンをしようと思っていました」。

 すると、目標より1年早い29歳で課長に就任。それから1年ほどお礼奉公として会社に勤め、「ネジの商売はしない」と一筆書いたうえで退職した。

 独立資金として400万円を準備していたため、それで会社を興してビジネスを始めようとした。ところが、思ってもみない壁が立ちはだかる。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 


<掲載誌紹介>

PHPビジネスレビュー松下幸之助塾 2014年 9・10月号 Vol.19

<読みどころ> 9・10月号の特集は「歓喜の経営を生みだす」
 仕事の場が歓喜で沸きかえる。あるいは、歓喜とまではいかなくても、仕事の充実を味わえる。これがどれほど大事なことか。人生において相当の比重を占める仕事の時間を、明日の生活費を稼ぐための単なる「労働(labor)」ではなく、意義ある「仕事(work)」と心得、ひいては「遊び(play)」にまで昇華させることができれば、すばらしい成果を生む組織が誕生するのではないか。
 こうした問題意識に立った本特集では、従業員が仕事の上で歓喜を味わえるようにするための考え方と、企業での実践を探った。
 そのほか、クロネコヤマトの経営理念とからめて語った瀬戸薫氏の松下幸之助論や、ある僧侶との出会いによって素直な生き方にめざめた男性の自己修養の姿を描いたヒューマンドキュメント「一人一業」なども、ぜひお読みいただきたい。

 

 

 

BN

著者紹介

城岡陽志(しろおか・きよし)

太陽パーツ社長

1949年愛媛県生まれ。高校卒業後、大阪の商社勤務を経て、’80年大阪府堺市で太陽パーツ創業。’83年法人組織に改組。2002年中国に上海工場新設。同社は部品事業のほか住設機器にも強い。

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