「理系企業」と「文系企業」は何が違うのか
2014年11月10日 公開 2014年11月10日 更新
《『理系企業と文系企業 何がどう違うのか?』より》
後悔しない会社選びのために
そもそも筆者が、企業を理系と文系に分けて考えてみようと思ったのは、まったくタイプの異なる2つの企業に在籍した経験からでした。それは旧カネボウとキヤノンです。
旧カネボウで23年間、その後キヤノンで13年間勤めましたが、その企業文化の違いは筆者にとって新鮮な驚きでした。会社が変わるだけで、こうも雰囲気や習慣、言語までが違うものかと逆に知的興味をかき立てられたものです。
その原因をたどっていくと、どうやら筆者のまわりにいた文系人と理系人の違い、ひいてはその企業創業以来のDNAの違いらしいことがわかってきました。そこで、いろいろ調べていくうちに面白くなり、本を書けるくらいの材料がたまりました。詳しくは拙著『キヤノンとカネボウ』(新潮新書)、『経営学よりためになる「会社学」のすすめ』(PHPビジネス新書)をご参照ください。
さて本書は主として就職活動中の学生を対象に、筆者の体験や集めた情報を役立ててもらおうと書いたものです。もちろん、転職を考えている人にも有益なはずです。
ハイブリッドな就職と転職活動を
就職戦線は、つい最近までは氷河期といわれていましたが、今年は逆転、学生にとっては追い風の売り手市場になりました。また転職活動は、キャリアアップと自己実現できる企業を求めて、潜在的ですが着実に進行しています。
企業は今、人材の質も量も獲得するのに躍起です。インターンシップや面接で甘い勧誘があるかもしれませんが、拙速な判断は避けるべきです。就職したい企業は、後悔しないように多角的にハイブリッドな視野で選びましょう。その際、基準としたいのは次の3点です。
(1)社長の資質=今は好調な業績ですが、将来低迷したとき、自社が変身できるだけの予見を持っている社長ですか?
(2)企業の価値と目的=自分と企業の価値と目的が合致していますか?
(3)やりたいこと=自分のやりたい仕事がその企業にありますか?
本書は、日本に限らず、アメリカや中国の就職希望人気企業の情報を収集して就職戦線の現況を学生たちの目線で検討しました。
理系人と文系人の主張
本書のテーマは、理系出身者の多い「理系企業」と文系出身者の多い「文系企業」を比較することで、どんな違いがあるかを浮かび上がらせようとしたものです。
ここでちょっと理系人と文系人の主張を聞いていただきましょう。
◇理系人=「われわれは、自然科学と技術の長足な進歩を実現し、生活の活動範囲を世界に拡大し、寿命を延ばして人類の発展に多大な貢献をしてきました。それに比べ、あなたたち文系人は、人扱いは上手で、口先ではあたりさわりがありませんが、人類の進歩に何か役に立ってきましたか?」
◇文系人=「それは、一方的な言い分ですよ。あなたたちが確かに人類の進歩に貢献したことは認めますが、同時に副作用も誘発していますよ。たとえば、飛行機を発明しましたが、同時に飛行機事故も発明しましたね。自動車と自動車事故も然りです。フロンの発明は深刻ですよ。オゾン層を破壊し、そのうえ大気中に出たフロンは回収不能です。紫外線という殺人光線は地球にとって脅威です」
◇理系人=「われわれの短所ばかりを強調していますが、今や携帯やスマホなしで、日常生活やビジネスをやっていけますか? 大海で漂流して無人島に漂着しても、電気やガスがなければ原始人に戻ってしまいますよ」
◇文系人=「携帯やスマホは家族や友人やビジネスがあることが前提で、もしなければ無用の長物です。人間は、幸福、絆、愛情、信頼、伝統など見えないものでつながって生きています。本当に大切なのはモノではなくて、見えないものほど大切なのではありませんか?」
なるほど、理系人にも文系人にもその主張には一理ありそうですね。
地球環境問題が深刻になってきた現代社会に生きるわれわれは、理系と文系それぞれの役目を互いに理解し合い、人間生活が向上するよう1人ひとりが貢献しなければなりません。逆にお互いが相容れないまま、将来の脅威になるようなことは絶対に避けなければなりません。
本書では、理系人と文系人の性格や行動の特徴を探索し、相互理解を求めました。
理系企業と文系企業は、何がどう違うのか?
ところで、理系人が主導する製造メーカー(理系企業)と、文系人が主導する情報・サービス会社(文系企業)は、何がどう違うのでしょう。
日本の社会では、企業名を聞けばそれが理系企業か文系企業かがおおよそ判別できます。理系企業は、創業者の強烈なDNAで製造メーカーとして世界を席捲してきました。文系企業は、国民の日常生活の質の向上のため情報・サービスを供給して内需を充実させてきました。
ところがここ20年、日本の高度経済成長を支えてきた企業たちは低成長経済に悩み続け、その結果、終身雇用と年功序列という日本独自の制度は崩壊しつつあります。その理由は、企業存続の危機が現実問題になってきたからです。
理系企業の代名詞であったソニーやシャープが海外企業の急速な追い上げで厳しい経営状況に陥りました。文系企業の代表である金融業でも、日本は国際金融マーケットで劣勢に立たされています。金融取引額では、今やニューヨークとロンドンは雲の上。東南アジアでは香港にも及びません。
しかし、これまで日本企業はオイルショックや円高、バブル崩壊、リーマンショックを乗り越えてきたではありませんか。この苦境も、若い世代の人々の力で必ず乗り越えられるはずです。
本書は、「理系企業」と「文系企業」という新しい視座を提供することで、特に就職や転職を考えている若い方々に企業選びの参考にしていただきたいという思いを込めました。日本の企業には理系、文系のどちらにも経済大国・日本をつくりあげてきた力強いDNAが、今も脈々と受け継がれていることを知ってほしいのです。
本書を読むことで、理系企業と文系企業の創業以来のDNAや企業文化の違い、さらに会社というものの面白さを知っていただけたら、これはどの喜びはありません。
なお、文中で「理系企業」「文系企業」という用語を使っていますが、筆者が大学の理系、文系出身者の割合や業態などをもとに独自に分類したものであることをあらかじめお断りしておきます。
<著者紹介>
横田好太郎(よこた・こうたろう)
1948年(昭和23)、東京日本橋生まれ。早稲田大学卒業。1972年にカネボウ入社。化粧品部門、繊維部門などで主としてマーケティングを担当。1995年、カネポウを退社し、キャノンに入社。主に技術情報に関するマーケテイング活動を推進。2008年キャノンを退社し、海外アーティストの招聘、日本文化の発信を手掛けるジャパン・カルチャー・ネットワーク〔株〕を設立。現在、同社代表取締役。
著書に『キャノンとカネボウ』(新潮新書)、『[社会学]のすすめ』(PHPビジネス新書)がある。