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齋藤孝・「即席会議」のすすめ

齋藤孝(明治大学文学部教授)

2015年03月18日 公開 2022年12月21日 更新

《PHPビジネス新書『[新版・会議革命]不毛な会議・打ち合わせをなくす技術』より/写真撮影:長谷川博一》

 

決断の遅さが命取りに

 何か不祥事を起こした会社が、それを当初は隠蔽しようとしたり、事態の把握に手間取ったり、公式の対応が遅くなったりして、火に油を注いでしまう……。こういう事例はよくあります。

 とくに最近は、SNSやブログ等が広く浸透し、誰でもあることないこと発信できます。中には悪意に満ちた誹謗中傷の類いも少なくありません。そのひとつひとつに対処することは難しいでしょうが、かといって黙殺すると、的を射たクレームを見逃してしまったりする。一般消費者を主な顧客とする会社にとっては、なかなかストレスの多い時代になった気がします。

 とり得る対策としては、とにかく判断と行動のスピードを上げることでしょう。トラブルをゼロに抑えることは不可能としても、できる限り“火種”のうちに消火するということです。

 しかし組織である以上、誰かの独断で動くわけにはいきません。実際、それによって傷口を広げてしまうケースも少なからずあります。かといって関係者全員が揃うのを待ち、会議を開いて全員のコンセンサスを得ていては、時間がかかって仕方がない。結論が出る頃には、すでにその方策では間に合わなくなっているおそれもあります。

 トラブル発生時に限った話ではありません。何の疑いも持たれずに行われてきた従来型の会議も、時代のスピードに合わない場面が増えてくると思います。

 例えば、あるプロジェクトを始めてみたものの、早々に無理筋であることが判明することは意外によくあります。世の中は刻々と変化しているので、これ自体は仕方のないことでしょう。

 問題は、その後の処理です。早急に撤退または軌道修正を図る必要がありますが、概して日本の会社はこれが苦手です。とくに大企業の場合、対外的なメンツや社内のコンセンサスにこだわるあまり、対応が遅くなることがある。その結果、ズルズルと無理筋を継続し、損失を余計に膨らませてしまったりするわけです。

 そういう事態を回避する手段は、会議しかありません。ただし「来週の定例会議の議題に」などと言っている場合ではない。いかに臨機応変に会議を開き、早期に決断するかが問われます。

 

会議室に集まるだけが会議ではない

 そこで有効なのが、いわば“即席会議”。とりあえずその場に居合わせたメンバーで協議し、当座の対処案をその場で決定する。かける時間はせいぜい5分から10分。立ち話程度でかまいません。参加できなかったメンバーにはメールでその旨を伝え、了解を得る。これなら、結論が出るまでさして時間はかからないはずです。

 あるいはもう少し込み入った案件なら、関係者に一斉メールで事態を報告し、最適な対処法を尋ねる手もあります。そのやりとりで対処の責任者を決め、その責任者の権限で対処方針が決まり、全員がそれに協力するという形がもっとも早いでしょう。

 いずれにせよ、わざわざ時間を決めて会議を開かなくても、この程度の“即席会議”はその場ですぐにできるはずです。

 一般に取締役会などでは、出席者が多忙で揃わない場合、持ち回り決議を行うことがあります。決議案をまとめた紙を回覧板のように回し、全員が判を捺すことで議決とみなすわけです。今はメールを使えば、これがもっと簡便にできるようになりました。普通の会議でも、素早い判断が必要なとき、活用しない手はないでしょう。

 もう少し意思疎通が必要なら、自らがメッセンジャーとなり、しかるべき人を個別に直接訪ね歩いてもいいでしょう。例えば何らかの解決策を携えてAさんのもとへ行き、「BさんとCさんにはこれで了解を得ています。進めていいですか」と尋ねるわけです。全員の声を聞いたところで総括し、「この方針で行きます」と確認のメールを全員に送れば、その時点で“会議”は終了です。

 これなら確実に返事をもらえるし、案件の重大さや緊急度も伝わる。相手の表情から、理解度や案件に対する姿勢も読み取れます。直接会って話す分、自分の意思も伝えやすい。つまりある種の“根回し”の機能もあるわけです。もちろん、全員で集まるより時間も手間もかかりません。メールが当たり前の時代だからこそ、自分が“モバイル”になって直接会うメリットも少なくないと思います。

 あるいは、別の会議でしかるべき人が集まる機会を捉え、その場で問題提起して総意をまとめる手もあります。「動議」というと穏やかではありませんが、「ついでにちょっとだけお時間を」と切り出せば、さほど面倒には思われないでしょう。むしろ、その案件のために新たに会議を開く手間を考えれば、ずっと効率的です。

 実はこれらは、私か大学でしばしば実践している方法です。役職上、よく会議を主催する立場にいるのですが、立ち話的な即席会議を開くこともあれば、一斉メールですませることもあります。何かのついでに総意をまとめることも、自ら“モバイル”になることも少なくありません。

 おかげで、従来の定例会議をいくつか減らすことができました。組織としての決断も早くなったし、個々人は浮いた時間をそれぞれの仕事や研究に回せます。組織の内外から感謝されることはあっても、批判を受けたことはありません。

 「何を早急に決めなければならないか」という焦点さえ定まっていれば、こういう“会議”はどんな組織でも可能ではないでしょうか。

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著者紹介

齋藤 孝(さいとう・たかし)

明治大学文学部教授

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーンョン論。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『読書力』(岩波新書)、『日本語の技法』(東洋経済新報社)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』(以上、ダイヤモンド社)、『三色ボールペンで読む日本語』(角川文庫)、『5日間で「自分の考え」をつくる本』(PHP研究所)、『プレッシャーに強くなる技術』(PHP文庫)、『1分で大切なことを伝える技術』『すぐに使える! 頭がいい人の話し方』(以上、PHP新書)、『上昇力!』(PHPビジネス新書)など多数。

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