齋藤孝・「即席会議」のすすめ
2015年03月18日 公開 2022年12月21日 更新
発言は1回15秒以内に
ただし、こういう“即席会議”を成功させるためには、クリアすべき条件が2つあります。
ひとつは、問題の要点を15秒以内で話すこと。かつて私は、『1分で大切なことを伝える技術』(PHP新書)という本を上梓しました。仕事上で話をする場面では、それが会議であれセールストークであれ、1分以内にまとめて話したほうがいいと説いたのです。それ以上に話していると、「長い」「ダラダラしている」という印象になって、聞いてもらえないどころか反感を買うことにもなる――そんな趣旨でした。
ところが今や、1分でも「長い」と感じるかもしれません。誰もが忙しいし、まして立ち話的な会議をしたり、格上の人に事情を説明したりするとなると、なおさらでしょう。
これは、自身が聞かされる立場になることを想像すればわかると思います。キャッチボールをしているのに、相手がなかなかボールを投げてこないとすれば、「イラッ」と来るはずです。共有財産である時間を相手が浪費するとすれば、それは自分のお金を奪われることに等しい。だから「15秒」なのです。
一見すると難しい条件のようにも思えますが、実はそうでもありません。私は大学の授業で、学生に「15秒ルール」を徹底させています。発言する際にはけっして15秒を超えないこと。そのためには余計な情報をそぎ落とし、要点だけに絞ること。それもアバウトではなく、ストップウォッチを使って厳密に測っています。こういう訓練を重ねると、そのうち慣れてきっちり15秒以内で話せるようになるのです。
ただし仕事上の込み入った話となると、さすがに15秒では足りないかもしれません。それでも、せいぜい30秒でひと区切りつけたほうがいい。その上で、相手から質問があれば補足的に説明を加えていくわけです。15秒の訓練に慣れれば、これも難しくはありません。
ついでに言えば、15秒または30秒を有効に使うためにも、なるべく早口で話す癖をつけたほうがいいと思います。情報量を増やせることはもちろんですが、その場に緊張感とリズムをもたらします。「ゆっくり話すほうが親切」と思っている人もいるかもしれませんが、少なくとも仕事上では逆です。むしろ相手をイライラさせる一因になりかねません。
私はかれこれ20年、学生に「ストップウォッチを買って練習しろ」と言い続けてきました。時計の秒針で代用してはダメ。ストップウォッチのボタンを「カチッ」と押すから緊張感が生まれ、いい練習ができるのです。
しかし、サボって買わない学生も毎年います。そういう学生ほど上達が遅いのは、世の必定でしょう。私としては「買え」としつこく迫る手もありますが、最近は譲歩することを覚えました。「そんなに買いたくないなら、せめてスマホのストップウォッチ機能を使え」と。
スマホなら、すでに多くの学生が片時も離さずに持っています。「カチッ」が「ポチッ」に変わっても、相応に効果はあるはず。練習しないよりはずっとましです。もちろん多くの社会人も、今すぐ練習をスタートできるはずです。
清濁併せ呑む「覚悟」を決めよ
そしてもうひとつ、クリアすべき条件は、決断に対して覚悟を決めるということです。
スピーディに決断を下すことには、リスクもあります。将棋でいえば「早指し将棋」のようなもので、名人戦のように2日がかりで戦う場合とは違って拙速になりやすい。じっくり熟慮していれば別のアイディアが浮かんだ可能性もあるし、詳細を詰めるほど問題が増えて決断しにくくなるものです。
もっとも、短時間だからといって正しい決断ができないわけではありません。むしろ瞬間的に判断するからこそ、間違いが少ない可能性もあります。その分、脳をフル回転させるし、枝葉の部分を大胆にそぎ落として大局を見ようとするからです。時間制限があって初めて、人間は思考のアクセルを踏み込む。これは、多くの学生を教えてきた私の実感です。
いずれにせよ、どれほど優れたアイディアも、遅きに失しては一文の価値もありません。拙速を覚悟の上で早期の決断を優先することが、時代の要請ではないでしょうか。
<書籍紹介>
新版・会議革命
不毛な会議・打ち合わせをなくす技術
齋藤孝著
本体価格890円
ツールが発達しても、日本の会議はあいかわらず超非効率。今度こそ「不毛な会議」を日本から一掃すべく、著者の初期代表作を緊急復刊!