ホーム » 経営・リーダー » 直感力は満身創痍から生まれる

直感力は満身創痍から生まれる

2015年06月02日 公開

貞末良雄(メーカーズシャツ鎌倉会長)

《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』[特集:カンを磨く]より》

 

1993年に鎌倉で高級シャツを破格の4900円均一で販売してから口コミで評判が広まり、全国各地に出店を拡大、2012年にはニューヨークにも店を構えたメーカーズシャツ鎌倉。ファッションセンスの高い人のあいだで評判の会社だ。その創業者である貞末良雄会長は、アパレル業界でアイデアマンとして知られている。創業時の苦労に加え、鋭い直感力の秘密を語ってもらった。

〈取材・構成:野間麻衣子/写真撮影:今井秀幸〉

 

商売人はバカになれ

 私自身に経営の直感力とかカンがあるのか分かりませんが、そういうようなものがあるとすれば、長いあいだ商売や経営に携わってきたことが体に染みついて、養われてきたのだと思います。

 そもそもなぜアパレルの商売を始めたのかというと、やはり親父〈おやじ〉の影響はあるでしょう。先祖は江戸時代から続く商家で、親父も山口県で呉服屋を営んでいました。大成功も大失敗もした人間です。

 「商売人は愚直にやるしかない。人をだまして儲けることはまかりならん。良雄、オマエは口達者で、商売の素質はきょうだいの中でいちばんありそうだが、いまのままではダメだろう。でも、オマエがほんとうのバカになれるのなら、大成するかもしれん」

 子どものころ、よくこんなふうにいわれたものです。

 私は大学で電気工学を学び、いったんはエンジニアの道に進みました。でも、親父の薫陶を受け続けた商人のDNAがどこかに宿っていたのでしょう。エンジニアとして働いたのはわずか2年。アパレルの世界に飛び込むことを決めたのです。

 当時は大卒であればそれなりにエキスパートとしてちやほやされ、工場で技術を持って働いている人たちよりも給料がずっと高かった。そういうのはおかしいと感じていたこともあり、生地の卸問屋の丁稚〈でっち〉からスタートしようとしました。

 ところが、大卒エンジニアの肩書が邪魔をして、だれも相手にしてくれない。大阪の問屋の面接を立て続けに落ちて途方に暮れていると、親父がヴァンヂャケットに就職を頼んでくれたのです。親父の店は当時、ヴァンの特約店でした。

 営業マンになりたいと思って入社したものの、しょせんは地方の特約店の息子。田舎者扱いされ、6年間も倉庫番をやらされました。入荷・出荷の製品を検品して、月に一度は棚卸しするという、まさに後方部隊。でも、この6年で物流全体の流れをつかんだことが、いまの経営に生かされていると感謝しています。

 ヴァンで働いた十数年のあいだ、妻となるタミ子に出会い、ハワイでの語学研修に行かせてもらい、最終的には統括部長として、営業から販売促進、物流、商品企画まで、さまざまな仕事をさせていただきました。しかし、1978年、37歳のときに、倒産によって退社せざるをえなくなります。

アパレルの商慣行に疑問

 いま振り返ると、ヴァンヂャケットという会社は、高度経済成長の追い風も受けて事業が急拡大するなかで、将来起こりうるリスクに対する備えが足りなかったのかもしれません。

 売上1000億円という拡大計画が減退のきっかけでした。いくら商品がよくても、価格が高かったり在庫を抱えたりすると経営は傾きます。私も統括部長として経営の数字を扱っていましたから、呼ばれもしないのに役員会に乗り込んで、「売上ありきでは先行きが厳しい」と訴えたことを覚えています。

 こうしたヴァンでの経験が、「在庫を持たない」「高品質・低価格」という、メーカーズシャツ鎌倉の原点にあるのは間違いありません。

 私はアパレル業界に身を置きながら、いずれアパレルは消滅するのではないかと、ずっと思っていました。一般的なアパレルの場合、生地問屋に発注し、商社に生産を委託したあと、商社が買い上げて店舗に卸すのが主流です。しかし、問屋をはじめとする中間業者というのは、消費者にとってはあってもなくてもいいもの。生地の工場と直接取引し、製品は工場から小売店に直接納入してもらうほうが売値を抑えることができるのです。

 中間業者をなくし、製造業と小売業の二つをしっかり俯瞰することで、お客様サイドに立ったものづくりと製造業の生産性向上が実現できるのではないか。ヴァンヂャケットを退職してアパレル会社を転々としていたときも、常にそういうことを模索していました。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。以下、「前途多難の船出も、夫婦で前進」「高級シャツ4900円の理由」「組織図なくても組織的に動く」「海外で信頼を得るには」「リスクをとらずに未来はない」などの内容が続きます。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 

貞末良雄
(さだすえ・よしお)

メーカーズシャツ鎌倉会長

1940年山口県生まれ。’64年千葉工業大学電気工学科卒業。エンジニアとして会社勤務後、’66年ヴァンヂャケット入社。営業、販売促進、物流、商品企画を歴任するが、’78年倒産により退社。数社のアパレル会社勤務を経て、’93年鎌倉でメーカーズシャツ鎌倉を創業。現在、国内25店舗を展開するほか、ニューヨークにも出店している。

 


関連記事

編集部のおすすめ

経営はシンプルに考えるとうまくいく

松本 晃(カルビー会長兼CEO)

現代に生きる中国古典『老子』―柔弱謙下

守屋淳(中国文学者)

これから10年、伸びる業界・沈む業界

池上浩一(野村ホールディングス シニア・コミュニケーションズ・オフィサー)、渡邉正裕(ジャーナリスト/MyNewsJapan社長兼編集長)

熟断思考のススメ~質の高い決断を導く新しい意思決定の手法とは

籠屋邦夫(ディシジョンマインド代表)

“ダントツNo.1”への思いが成功を引き寄せる

前田祥子(山晃住宅ホールディングス会長兼社長 )

日本最大級の癒しイベント出展社募集中

WEB特別企画<PR>

WEB連載

アクセスランキング

WEB特別企画<PR>

WEB連載

日本最大級の癒しイベント出展社募集中
  • Facebookでシェアする
  • Twitterでシェアする

ホーム » 経営・リーダー » 直感力は満身創痍から生まれる

×