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なぜ偏差値の高い人が、他人を困らせるのか

加藤俊徳(脳内科医/医学博士)

2015年07月06日 公開 2024年12月16日 更新

学歴が高くて賢いはずなのに、人とうまくコミュニケーションを取れない人がいる。これは、受験のためにある一部の脳を鍛えすぎた結果、いびつになっていることが原因だと加藤俊徳氏は指摘する。高学歴な人の脳について解説する。

※本稿は、加藤俊徳著『高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。

 

脳は鍛えれば一生涯成長を続ける

人間の脳は、誰でも総合力に大差はない。ある分野で優秀な人たちは、脳の特定の部位──私はこれを「脳番地」と呼んでいる──を上手に使っており、それを継続的に発達させる生活を送っているのである。

彼らの優秀さは、誤解を恐れずにいえば、ほかの分野の能力を犠牲にすることで成り立っている。ある能力を伸ばすためには、ほかの能力に目をつぶらなければならないからだ。天才と呼ばれる人の脳をMRIで診ると、発達していない脳番地が一般人よりはるかに多いことがわかる。

「すべての能力が突出した天才もいるのではないか」と言う人もいるが、脳科学者の立場からすると、それはほぼ幻想といってよい。

実際、多くの人がイメージする天才は、変人と紙一重である。変人とは、脳科学的にいうと、脳の成長が変わっているタイプのことだ。

彼らの脳は、自分の専門分野には凄まじい能力を発揮するが、人当たりのよさや、他分野への柔軟性には欠けることが多い。ときには、自分の専門性に対するプロ意識を、気がつかないうちに他人にも向けていることがある。

それは一概に悪いことだとはいえない。世界じゅうの誰もが柔軟性があって、ものわかりのいい人ばかりだったら、天才は生まれないし、文明もここまで進歩しなかったのではないかとさえ考えられる。

では、先ほど述べたような高学歴・高偏差値の人たちに見られるさまざまな問題も、しかたないですませていいのだろうか。私はそうは考えていない。日本で評価される頭のよさは、たいてい従来型の能力観によるものである。学業や学歴を基軸とするこの能力観は、人生の初期段階で瞬間最大風速を測るようなものだ。

人間の脳は30歳前後で成長が一段落するものの、そのあとも鍛えれば一生涯にわたって成長を続けることがわかっている。20歳そこそこの時点での、しかも学業成績という一面的な能力だけで判断するには、人生は長すぎるし複雑すぎる。

自分が変わらなくても、自分をとりまく社会環境は、日々、変化している。そのため、環境の変化に対応できるように能力の変化が脳に起こらなければ、20歳から30歳くらいまではうまくいっても、100歳までもたせることはできない。

私たちは、こうした従来型の能力観を乗り越えなくてはならない。人生の早い段階で、限定的な教材や教科に基づいて高い偏差値をめざす教育は、人間が本来もっている多面的な能力に蓋ふたをして、特定の場面でしか使えない能力ばかりを伸ばそうとしてきたといえる。つまり、特定の脳番地だけを発達させてきたのである。

 

脳番地で能力の偏りがわかる

では、脳番地とは何かについて、ここで説明しておこう。脳番地とは、同じような働きをする脳細胞の集まりと、その脳細胞を支えている関連部位を総称したもので、私は脳全体をおよそ120の番地に分けている。

これらの機能は、その働きの種類によって、いくつかの機能系にまとめることができる。代表的なものが、次にあげる8つの系統である。脳は脳番地ごとに成長するので、普段の生活でも、どの脳番地を育てるかを意識することが大切である。

・思考系...思考や判断に関係する脳番地
・感情系...運動系に接して位置する感覚系を含み、感性や社会性に関係する脳番地
・伝達系...話したり伝えたりすることに関係する脳番地
・運動系...体を動かすことに関係する脳番地

聴覚系...耳で聞くことに関係する脳番地
視覚系...目で見ることに関係する脳番地
理解系...物事や言葉を理解することに関係する脳番地
記憶系...覚えたり思い出したりすることに関係する脳番地

現代社会の価値観では、一部の脳番地を鍛えた人だけが高く評価される。偏差値で表すことができるような、ごく一部の脳番地だ。だが、脳の力は本来、偏差値などで評価できるようなものではない。

伝達系の脳番地が発達している人も、運動系の脳番地が発達している人も、どちらも脳を鍛えた人である。

脳を番地ごとに見ていくと、いままでは評価されにくかった能力、表に出にくかった能力を個別に評価することができる。生まれたときから発達した脳の持ち主などおらず、脳を鍛えるためには一定の時間が必要である。

ただ、特定の脳番地を伸ばせば、手の届かないところが出てくる。光があれば影ができるように、鍛えた脳番地があれば、影になる脳番地も出てくるのだ。

 

受験勉強で脳の一部を鍛えすぎてひずみが生じる

高学歴・高偏差値の人は、特定の脳番地だけが突出して発達しているといえる。それは脳にひずみが生じていることを意味する。

こうした脳のひずみを軽視してはいけない。どんな人にも得意・不得意な脳番地がある。つまり、脳のひずみは程度の大小はあっても、誰もが共通してもっているのだ。

だが、いわゆる頭のいい人は社会で高く評価され、ひずみがあるとは思われてこなかった。従来の学力を重視する能力観の社会では、この問題に気づけなかったのだ。偏差値が高い人の脳のひずみは、社会全体がつくってきたものだともいえる。

彼らは、脳でいえば、左側頭葉(おもに記憶系の脳番地)を著しく発達させている。私はこれまでに多くの脳画像診断を行ってきたが、それが画像にはっきり現れている。いや、むしろ、左側頭葉の記憶系の脳番地を発達させていなければ、難関大学や医大に合格することは難しいだろう。

 こうした特定の脳番地だけに特化した生活を続けた結果、10代で生じた脳のひずみは、大人になっても影響が続く。

学生時代までは、家族や狭い交友範囲でそれほど目立たない。しかし、社会に出ると、あらゆる年代や層、異性とのつきあいで広いコミュニケーション能力が求められるため、人間関係で齟齬が表面化し、際立ってくるのだ。

この表面化が、彼らに人生の2面性をもたらす。1面として、ますますコミュニケーションがとりにくくなり、内向し、自閉化していく。ときにはうつや引きこもりを生む。もう1面は、内向せず、むしろ「高学歴なのにイヤなやつ」へと社会化される。

そうした彼らは弁も立つし、内容は論理的に見えるし、会話だけを見れば間違っていないどころか、正しいと思えるくらいだ。

そして、本人は、「なんでこうもバカばっかりなんだ」「ほんと、使えないやつばかり」と嘆く。まわりの人も、「あの人は頭がいいから、私のことがバカに見えるんだ」ととらえてしまう。

なぜ、大人なのに、人間関係がうまくいかないのか。それは本人だけでなく、周囲も「頭がいいから」と納得していたからだ。学業優秀であれば、学業がダメよりましなはずだ、と誰もが思い込んでいる。

たんに左側頭葉が極端に発達したにすぎないのに、彼らの脳画像を診断しなければ、それに気づけなかったことが問題であった。

高学歴の人ほど周囲とコミュニケーションをとりにくいのは、現代社会でもっとも目立つ例といえるだろう。そうした社会現象が、会社などの組織運営を困難に陥らせることが多い。

というのも、彼らはリーダーになりやすいし、たとえ新人でも有名校出身だからと高く評価され、チームに影響をおよぼしやすいからだ。

だが、この現状は改めることができる。脳には必ずひずみがあり、高学歴の人には特有のひずみが出やすいことに、まずは気づくことが重要である。脳のひずみを許容し、社会が広く理解するようになれば、コミュニケーションはもっと豊かに広がるはずだ。

 

著者紹介

加藤俊徳(かとう・としのり)

脳内科医、医学博士、 加藤プラチナクリニック院長

Toshinori Kato (株)「脳の学校」代表。 昭和大学客員教授。MRI脳画像診断・脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや助詞強調音読法の提唱者。91年、脳活動計測「fNIRS法」を発見。95年から2001年まで米国ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI画像の研究に従事。発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、小児から高齢者まで1万人以上を診断・治療。『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書多数。

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