アップルの社内では、どんなプレゼンが行われているのか
2012年01月06日 公開 2024年12月16日 更新
同じ内容のスライドでも、デザインによってまったく別物になる
「Before」のようなスライドをつくりがちたが、「After」のほうが聴き手の記憶に残る。
「Before」は
●不必要な背景や文章が入っている
●文章が主体で、視覚的なインパクトが弱い
●余白を埋めようとしている
●色や書体のコントラストが弱い
●英文・和文・画像の関係がわかりづらい
「After」は
●不必要な要素は排除している
●画像の内部にテキストを組み込んでいる
●余白を使って、読ませたい文字へ視線を導く
●色や書体のコントラストが明確
●英文・和文・画像の関係がわかりやすい
(関係の強いものが近くに配置されている)
いつもと同じように話せばいい
最後に、プレゼンを向上させるためには何を心がければいいのかをおうかがいした。
「これから、日本のプレゼンは変わります。
私は、よく『日本人は素晴らしいプレゼンターになれる』といっています。そういうと、『アメリカにはオバマやジョブズがいるけれど、日本人には無理だ』という人がいます。
けれども、日本人にもすごいプレゼンターはいます。孫正義さんや茂木健一郎さん、また、DREAMS COME TRUE(ドリカム)などです。ドリカムの吉田美和さんと中村正人さんは、もちろん優れたミュージシャンですが、笑顔やアイコンタクトで何万人もの聴衆とのつながりをつくるのが、並外れてうまい。
日本人は、プレゼンのとき、手元の資料に目線を落として聴き手とのアイコンタクトをせず、笑顔もないことが多いのですが、普段はそうではありません。プレゼンになると違う人になってしまうのです。プレゼンのときも、いつもと同じように話せばいいのです。
スクリーンはビジュアルに徹するべきだというと、日本人はそれではうまく話せないと反論する人もいますが、そんなことはありません。
私は大学でも英語でプレゼンを教えているのですが、まだ英語力に不安がある学生は、スクリーンに文章を映して、それを読もうとします。でも私は、スクリーンはビジュアルだけにさせます。すると、自分の言葉で表現して話さなければならなくなります。それができたとき、学生は自信に満ちた表情になるのです。
スクリーンに映した文章を読むだけでも、日本では『よくできました!』となるのかもしれません。しかし、それでは、言葉は悪いかもしれませんが、芸ができた犬が褒められるのと同じではないでしょうか。
スライドのデザインについても、センスがないと嘆くことはありません。デザインのプロになるわけではないのです。基本的なことを押さえれば、かなり改善できます。
デザインセンスを向上させるには、禅の教えにあるように、身の周りに気づきをもつのがいいでしょう。身の周りのグラフィックデザインや自然には多くの気づきがあるのです。
その点で、日本にいることはとてもラッキーなことです。ジョブズが禅に注目したように、日本には学ぶべきものが多くあるのですから。
『スライドの枚数は何枚にするべきでしょうか?』というような質問は、間違った質問です。座禅をしているときに『集中できないんですけれども』と質問すること自体が間違っているのと同じです。
運動でも、『何分間走ればいいのでしょうか?』『何キロカロリー摂ればいいのでしょうか?』と簡単に答えを求めようとしてしまいがちですが、ほんとうに重要なのはそんなことではなく、ライフスタイルでしょう。重要なのは、スライドの枚数ではなく、スライドをどう使うかです。
ユニクロや楽天といった新しい会社では、もうプレゼンに対する考え方が変わっています。将来は、日本にも多くの上手なプレゼンターが生まれると信じています」
ガー・レイノルズ(Garr Reynolds)
関西外国語大学准教授
1961年米国オレゴン州生まれ。住友電気工業(株)米国アップルでの勤務を経て現職に。プレゼンの実施・指導における世界的な第一人者。西洋のプレゼン技術に日本文化の「禅」を融合させた手法は世界でもっともシンプルなメソッドとして名高い。企業向けの研修やコンサルティングのほか、世界中の企業や大学に招かれてセミナーを行なう。