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日本人の温泉好きは神様のおかげ!? 建国記念の日に「日本の神様」について考える

戸部民夫(歴史作家)

2016年02月10日 公開 2022年10月13日 更新

日本人の温泉好きは神様のおかげ!? 建国記念の日に「日本の神様」について考える

「お天道様は見ている。」と言うように、単なる「昔の物語」ではなく、私たちの暮らしにしっかり根付いている神様。

清めの水や塩の役割、酒屋の守り神、一目ぼれの呪力…古事記や日本書紀の現代につながっている話をわかりやすく解説。

※本稿は、戸部民夫著『日本の神様と日本人のしきたり』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

日本の神話は日本人の血肉となって生きている!

オオクニヌシが出雲の美保の岬にいたとき、波頭を伝わってガガイモの穀の船に乗り、蛾の皮を丸剥ぎした外套を着て、海の彼方から小人神がやって来た。その神は出雲の祖神カミムスビの子のスクナヒコナで、2神は義兄弟となって一緒に国作りを開始した。  ~オオクニヌシ~

日本の神話は、現代日本人の血となり肉となって生きている。「生きている」とは「つながっている」ということにほかならない。神話は、古代の人たちの感性や考え方を表していて、その世界観、宗教観、社会観などから形づくられた精神性は、日本の民族文化の源流となっているといえる。

その日本的な心性の核ともいうべきものが、日本人の日々の生活の根底を支える確かな柱として、脈々と現代にもつながっているということである。

日本神話といえば、一般的には『古事記』や『日本書紀』を中心にした神話体系のことである。この神話物語を読んで古代人の心を読み解いたり、そこに現代人との共通性を感じ取ったりすることも、神話の楽しみ方の1つである。だが、その方法では「今に生きている」神話と出会うことは、なかなか難しいように思う。

では、具体的に「今に生きている」神話とは、何なのかということであるが、これは日本人の身近な生活感覚と、神話の関係を読み解くことで見えてくるものといえる。そこで、拙著『日本の神様と日本人のしきたり』で試みたのが、現実に生活している中から神話を発見する方法である。

日本人の血や肉となっている生々しくて温かな神話とのつながりを求めて、年中行事や生活習慣などの伝統文化の流れを渉猟(しょうりょう)してみると、そこに確かな手応えがある。たとえば、日本の伝統的な年中行事は、もともと季節のサイクルと生業(なりわい)のリズムに基づいて発生している。

弥生時代以来の日本人の中心的な生業は稲作農耕であるが、そこから生まれた生活暦は、大きな流れとして見れば、春の農作業の始まりの予祝祭(よしゅくさい)と、秋に豊作を神に感謝する収穫祭とがある。

その間に農事や労働に関する行事があり、これに冬と夏(旧暦では春と秋)の2大行事である正月と盆という行事が加わって、1年の大きなサイクルが形成されている。この中に神話が現在も生きていることを、確かに感じ取ることができる。

また日本では、人の誕生から死に至るまでの一生の節目ごとに、必ず何らかの行事が行なわれる。そういう、日本人の生活を形づくっている人生儀礼や生活習慣、あるいは数多くの祭りや、さまざまな行事の中にも、「今に生きている」神話というフィルターを通して探ってみると、時代を超えて一貫して流れている日本的な心性を見出すことができる。

現代の日本では、社会の秩序と人間関係を円滑(えんかつ)にする常識や道徳観、あるいは冠婚葬祭のしきたりなどの伝統が、なかなか伝わらなくなってきているといわれる。一面においては、確かに新しい社会環境と人間関係のありようの変化の中で、これまで日本人の生活を支えてきた諸々(もろもろ)の伝統的な要素の影が薄れているように見える。

しかし、本当にそうだろうか。実際に日本人の伝統的・社会的常識や道徳観といったものが、総体的に薄れつつあるのだろうか?戦後の経済発展の中で、日本人の生活を支えてきた伝統的なものに対する意識が希薄化してきたことは、よくいわれている通りである。

しかし、大事なのは希薄化=喪失ではないということだ。希薄化することと、喪失することとは全く意味合いが異なるものであるから、そこを錯覚してはならない。

「今に生きている」神話を柱にして、本書をまとめながら確認した結論からいえば、伝統的な日本の心性というものは、薄れて見えにくくなりつつも、生活の中のさまざまな側面で生き生きと伝わっているということである。それは同時に、神話が日本人の生活の中で古代から今日までずっとつながり続けているということを示している。

今、日本人の日々の生活の基盤となってきた社会や文化のあり方を、見つめなおさなければならない時期にきているといわれる。それは、日本人の生活や心を支えてきた伝統的な考え方や感性のあり方を再認識し、時代感覚に対応する確かなものに再構築することであると考えられる。

その意味で、「今に生きる神話」を知ることが、日本の社会や文化の底流に流れ、日本人の心を支えているものに近づくことができる1つの目印となれば幸いである。

 

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