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i Podは数学が奏でる

桜井進(サイエンスナビゲーター)

2010年12月18日 公開 2022年12月20日 更新

桜井進

《『面白くて眠れなくなる数学』より》

1秒の音を4万以上に分割?

 今や音楽や映像はデジタルにより録画録音、編集、配信されていることはみなさんご承知の通りです。

 i Podなどインターネットを通したデジタル配信は、CDやDVDといった「モノ」を過去の遺物にした感すらあります。すべてはデジタルがなしうるマジックです。

 デジタルとは「指折り数える」から派生した言葉です。私たちは10本の指を持つことから「10進法」という数の数え方を生みだしましたが、「0と1」だけのコンピュータを使ったデジタル音楽の場合は、「2進法」を用いています。

 ところで、音楽とは音の集まりですが、音とは波のことです。その特徴は連続的に変化することです。昔のレコードはこの波を、物理的に、直接レコード盤に刻み込みました。これが、アナログ・レコードです。

 それでは、アナログであった音楽が、どのようにしてデジタル機器を通して取り扱われるようになったのでしょうか。

 この核心部分には数学があります。アナログをデジタルに変換することを「AD変換(アナログ-デジタル変換)」といいますが、そのポイントは「分割」です。まず音楽は、マイクを通して電気信号(アナログ信号)に変換されます。時間軸と音量(電圧)の2つに分割が必要になりますが、時間軸は1秒間を 4万4100分割して音の大きさ(電圧)を測ります。これをサンプリングといいます。

 サンプリングされた音(電圧)をどれだけの精度で読みとるか。ここで、量子化といわれる分割が必要になります。

 音楽CDは、基本的には「16ビット」です。そこで、「2の16乗(=65536)分割」して電圧を数値化(デジタル化)します。これが「44.1キロへルツ」「16ビットサンプリング」などと言われるものです。

 CDはアルミニウムの薄膜に溝を焼き付けることで「0と1」、つまり2進数のデジタルデータを記録します。つまり、CDには4万4100分の1秒ごとの「16ビット」で量子化された数値が2進数で記録されていることになります。

 ちなみにこの取り決めはオランダの家電メーカーのフィリップスと、日本の家電メーカーのソニーによるものでした。

ナポレオンと共に行動した数学者

 CDを再生するとき、デジタル(2進数の数値)をアナログ(波)に変換する「DA変換(デジタル-アナログ変換)」が行われます。実は、ここにはフランス革命の息吹が潜んでいるのです。

 ナポレオンのエジプト遠征にも同行させられた数学者フーリエ(1786~1830)をご存じでしょうか。彼の名を歴史に刻むのが「フーリエ変換」の理論です。熱伝導の研究から一般の波動についての分析手法に関する革命的理論です。CDのデジタルデータをアナログの波に戻すための理論が「離散フーリエ変換」です。

 コンピュータが高速に計算することで、デジタルから波(音)が復元されます。つまり、現代のデジタル音楽には、通奏低音としての数学の調べが根底に流れているのです。

 皆さんも是非、CDの音楽を聴きながら、「指折り数える」からフランス革命時のフーリエ、そして現代へと発展した「遥かなる数学の調べ」を聴きとってほしいと思います。

 

桜井 進

(さくらい・すすむ)
 サイエンス・ナビゲーター
1968年、山形県生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院卒業。
おもな著書に『感動する! 数学』『思わず話したくなる! 数学』(以上、PHP研究所)『超・面白くて眠れなくなる数学』(PHPエディターズ・グループ)等がある。


 ◇書籍紹介◇

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