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グーグルに買収されたスタートアップ 知られざる「その後」

大熊希美(翻訳家)

2018年12月18日 公開 2018年12月19日 更新

グーグルに買収されたスタートアップ 知られざる「その後」


グールグ社内のKEYHOLEの看板 (写真出典:https://www.neverlostagain.earth/)

大手IT企業によるスタートアップの買収をしばしばニュースで見ることがあるだろう。検索大手のグーグルも例外ではなく、積極的にスタートアップ企業を買収している。

2006年には動画配信サービスYouTubeを、2014年には人工知能を開発するDeepMind Technologiesを買収した(DeepMindは、囲碁で人間のプロ棋士を破ったことで有名になったAlphaGoを制作したチームとして知られている)。

グーグルはこうした企業買収を通じて最新技術を取り入れ、自社サービスの発展に活かしてきた。

グーグルは実際どのように企業買収を行い、買収したチームはその後どのようにグーグルの中で活動しているのだろうか。「Never Lost Again グーグルマップ誕生」ではその一片を伺うことができる。

「Never Lost Again グーグルマップ誕生」はキーホールという地図スタートアップの創業ストーリーを描いている。

1999年、キーホールの創業者であるジョン・ハンケは、イントリンシックという別のスタートアップからスピンアウトする形でキーホールを立ち上げた。キーホールでは「地球のデジタルモデルを世界に届ける」というミッションを掲げ、衛星写真が自由に見られるソフトウェア「アースビュアー」を開発していた。

途中で財政難に苦しむものの、このソフトウェアがCNNの報道番組で使われるようになったことなどを機に、大きく事業を発展させる。

そして2004年、当時創業5年だったグーグルがキーホールを買収する。本書の後半からは、グーグルに買収された後のキーホールチームのことを描いている。

キーホールは買収後、到着予定時刻や道順を調べられる地図サービス「グーグルマップ」の開発で中心的な役割を担い、今では世界中で月間10億人以上が使うサービスにまで発展させた。

本書ではグーグルがどのように買収先を決定し、買収した企業のプロダクト開発を支援してきたかを垣間見ることができる。

 

セルゲイ・ブリン「この会社、買うべきだね」

普通の会社なら綿密な事業戦略を立てた上で買収先を決定するのだろうが、キーホールの買収については、グーグルの共同ファウンダーであるセルゲイ・ブリンの一言から始まった。本書にはその時のエピソードが紹介されている。

グーグルの役員が集まるミーティングでのことだ。セルゲイ・ブリンは、エンジニア部門のリーダーであるジェフ・ヒューバーから教えられたサービス「キーホールアースビュアー」をプロジェクターで映し、役員たちに見せたという。

(抜粋)
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セルゲイはアースビュアーで地球の景色を見て回る。その頃にはピカサのレビューなどすっかり忘れ去られていた。

4年前のイントリンシック・グラフィックスのプレゼンテーションでもあったように、アースビュアーがミーティングの主役を奪った。先ほどまでつまらなそうにしていた役員は前のめりになった。彼らは魅了され、椅子の上ではしゃいでは、セルゲイに自宅の住所を入れてみて欲しいと口々に言った。

騒動がひと段落すると、ビジネス戦略も根拠も何もなかったが、セルゲイはシンプルに「この会社、買うべきだね」と言った。部屋にいたグーグルの役員は互いの顔を見た。反対する者はいなかった。それで買収が決まったということだった。
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それからほどなくして、グーグルで経営企画を率いるミーガン・スミスがキーホールと連絡を取り、数回ミーティングを重ねた後、グーグルはキーホールへの買収提案を行なった。

ジョン・ハンケがこの買収に合意したのは、グーグルのファウンダーがキーホールのミッションである「地球のデジタルモデルを世界に届ける」ことを支持しているのが分かったからだった。

グーグルとのミーティングで、グーグルの共同ファウンダーであるラリー・ペイジは「これはグーグルのコアになるかもしれないものだと考えている」とジョンに話していた。

買収額は3000万ドルだったが、ジョンはその点を交渉する気はなかった。グーグルで得られる資本と技術的なリソースでキーホールのミッションを追求できることに大きな魅力を感じていた。

そして2004年10月、キーホールは正式にグーグル傘下となる。グーグルが2004年8月に上場してから発表した初の企業買収だった。しかし、キーホールに待ち受けていたグーグルでの日々は想像とは少し違うものだった。

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リソースはあるが、方針はない。そこから始まったグーグルマップ

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